ジャパンモビリティショー2025に出展された「GSX-8T」と「GSX-8TT」(筆者撮影) ここ数年、世界的に高い人気を誇るバイクスタイルのひとつが、レトロな雰囲気と最新の装備を併せ持つ「ネオクラシック」。とくに近年は、昭和の時代に一世を風靡した名車をオマージュしたモデルも多く、昔からのバイクファンはもちろん、若い世代のライダーからも大きな支持を受けている。 【写真を見る】スズキの新型ネオクラシック「GSX-8T/GSX-8TT」の細部と、ライバル車のカワサキ「Z900RS」とホンダ「CB1000F」を比較(58枚) そんなネオクラシックモデルの最新機種が、スズキの800ccネイキッドモデル「GSX-8T」とそのミニカウル版「GSX-8TT」。「タイタン」の愛称を持つ1960年代の「T500」をオマージュしたモデル群で、2025年7月に発表されて以来、国内外で大きな注目を集めている。「ジャパンモビリティショー2025」では、その国内市販予定車が初展示されたので、実車を見た印象も踏まえ、今わかる範囲で詳細をお伝えしよう。 【写真】スズキの新型ネオクラシック「GSX-8T/GSX-8TT」の細部と、ライバル車のカワサキ「Z900RS」とホンダ「CB1000F」を比較(58枚) ネオクラシックバイクとは? カワサキのネオクラシックモデル「Z900RS」(写真:カワサキモータースジャパン) 「ネオクラシック」、または「ネオレトロ」と呼ばれるバイクは、1000cc超の大型モデルから125ccなどの小排気量クラスまで、多様なモデルがリリースされており、いずれも好セールを続けている。 なかでも、カワサキの900ccネイキッド「Z900RS」は、18年の登場以来、ビッグバイクとしては異例の大ヒットを続けるネオクラシックの代表格。国内の400cc超クラスにおいて、24年まで新車販売台数7年連続1位を記録しており、まさに大型バイクの「絶対王者」といえるモデルだ。 主な特徴は、70年代の名車「900スーパー4」、通称「Z1」のフォルムを再現しつつ、最新テクノロジーの投入で軽快な走りも実現すること。26年2月には、新型エンジンなどで走行性能をアップしたモデルチェンジ版も登場予定で、多くのバイクファンから注目を集めている。 ホンダの「CB1000F」(写真:本田技研工業) そして、このZ900RSに対抗すべくホンダが市場投入するのが、ネイキッドモデルの「CB1000F」とそのミニカウル版「CB1000F SE」。こちらは、70年代後半から80年代に人気を博した名車「CB750F」、その輸出仕様車「CB900F」をデザインのモチーフとしたスタイルを採用。最高出力124PSを発揮する1000cc・4気筒エンジンや最新の電子制御システムなどを搭載し、レトロな雰囲気を持ちつつも、高次元の動力性能も実現する。 このモデルも、昔からのバイクファンには懐かしさ満点のスタイルが魅力だが、果たして、400cc超の大型バイク・クラスに長年君臨するZ900RSの王座を奪えるかが注目されている。 このように、シェア争いが年々ヒートアップしているといえるのがネオクラシックというジャンル。その激戦区にスズキが導入を表明し、大きな話題となっているのがGSX-8TとGSX-8TTなのだ。 スズキ新型GSX-8Tとは スズキの新型「GSX-8T」(筆者撮影) まず、ベースモデルとなるGSX-8Tから紹介しよう。大きな特徴は、60年代の高性能ネイキッドバイクで、「タイタン(Titan)」の愛称で知られる「T500」を彷彿とさせるデザインだ。 元ネタといえるT500の初代モデルは68年に登場した。ロードレーサー「TR500タイタン」のベースマシンにもなり、モータースポーツで活躍したことでも知られている。 68年発売のスズキ「T500」(写真:スズキ) 大きな特徴は、量産車として世界初の500cc・2サイクル2気筒エンジンを搭載したこと。耐久性に優れ、低・中速重視のセッティングを施したこのエンジンは、最高出力47PS、最大トルク5.5kg-mを発揮。5段ミッションを介して最高速度181km/h、0-400m加速13.2秒という当時としては優れた走行性能を発揮し、世界の重量スポーツ車ファンから一躍注目を集めることとなる。また、このエンジンを搭載したことで、T500は「2サイクルのスズキ」の名を確固たるものとした名車としても有名だ。 そんなT500をオマージュしたGSX-8Tは、車体後方をマットブラックにすることでタンクを際立たせるカラーリングを採用。シュラウド(ラジエーターの左右を覆うカバー)には、勝負球を意味するビリヤードのエイトボールをイメージした立体エンブレムも装備するなどで、レトロかつモダンなスタイルを実現している。 GSX-8Tのサイドビュー(筆者撮影) なお、GSX-8Tのボディサイズは、全長2115mmx全幅775mmx全高1105mm、ホイールベース1465mm。会場で実車を見たところ、大型バイクのなかでは比較的スリムでコンパクトな印象だ。 実際に実車へまたがることもできたが、815mmという低めのシート高も相まって、足つき性は良好だった。身長164cmと小柄な筆者でも、片足ならカカトまでべったりと地面に着く。両足ではややカカトが浮くが、車体を支えきれないほどつま先がツンツンにはならず、安心感は高かったといえる。 776ccの直列2気筒エンジンを採用 GSX-8Tのエンジン(筆者撮影) 一方、エンジンには、270度クランクを採用した776cc・水冷4ストロークDOHC4バルブ直列2気筒を搭載。ストリートファイターと呼ばれるネイキッドモデルの「GSX-8S」などに搭載されているパワートレインと同型で、2軸1次バランサー「スズキクロスバランサー」を採用していることが特徴だ。エンジンのコンパクト化と軽量化、そして低振動化を実現するスズキ独自の技術を投入することで、低速から高速までスムーズで、扱いやすい特性を実現するという。 エンジンの最高出力や最大トルクなど、詳細なスペックは今のところ未発表。だが、たとえば、同型エンジンを持つ「GSX-8S」の場合、最高出力59kW(80PS)/8500rpm、最大トルク76N・m(7.7kgf・m)/6800rpm。GSX-8Tや後述するGSX-8TTでも、これらに近い数値となることが予想される。 GSX-8Tとともにジャパンモビリティショーに展示された、ビキニカウル仕様のGSX-8TT(筆者撮影) そしてGSX-8Tをベースに、ビキニカウル仕様にしたのがGSX-8TTだ。スタイルには「70年代のロードレーサーをイメージした」というデザインを採用。ちなみに、車名の「TT」は、クラシックバイクを現代に蘇らせるという意味を込め、ベースモデルの「GSX-8T」と「Timeless(タイムレス/「時代を超えた」という意味)」を掛け合わせたネーミングという話だ。 主な特徴は、エンジン下部にアンダーカウルを採用することでスポーティさをアップ。フロントフォークや燃料タンク下のシュラウドなどをブラック仕上げとすることで、スパルタンなイメージを加味する。燃料タンクなどにはレトロかつレーシーなデカールなども装着し、往年のレーシングマシン的なテイストも演出する。 GSX-8TTのリアビュー(筆者撮影) エンジンや車体など、基本コンポーネントはGSX-8Tと同様。ボディサイズは、全長2115mmx全幅775mmx全高1160mm、ホイールベース1465mm。GSX-8Tと比べ、全高のみ55mm高いが、全長や全幅など、ほかのスペックは同じだ。また、シート高は810mmで、GSX-8Tの815mmに対し5mm低くなっているので、さらに足つき性の良さが期待できる。 日本発売は26年頃か GSX-8TTのサイドビュー(筆者撮影) スズキでは、これらモデルに関し、「25年夏頃より、欧州、北米を中心に世界各国で順次販売を開始」すると発表。日本での発売はおそらく26年になりそうだが、具体的にいつ頃になり、どのくらいの価格帯で導入されるのかも注目だ。 いずれにしろ、先に述べたとおり、ネオクラシックのジャンルは、Z900RSをはじめとする人気モデルがひしめく激戦区だ。そんななかで、スズキの新型GSX-8TとGSX-8TTが、市場にどのような存在感を示せるのか気になるところだ。