様々なメーカーが世界最速を目指して模索していた1960年代。ホンダがCB750フォアで世界を驚かせた。これを打倒すべく、カワサキが放った決定打がZ1だ。究極を意味する「Z」の名を与えられたこのバイクは、その名の通り究極のパフォーマンスで新しい時代を切り拓いていった。写真:南 孝幸、カワサキ 文:沼尾宏明、オートバイ編集部 協力:バイカーズステーション(遊風社)▶▶▶写真はこちら|カワサキ「900SUPER4(Z1)」「750RS(Z2)」カワサキ「900SUPER4(Z1)」解説Kawasaki 900SUPER4(Z1) 1973年総排気量:903cc エンジン形式:空冷4ストロークDOHC2バルブ並列4気筒 シート高:813mm 車両重量:247kgはるかな高みを目指した志は、今も俺達の心を揺さぶる「Z」の名を持つオートバイのみが放つ特有のオーラが間違いなくある。それはZを前にした者に、様々な思いを喚起させるからに他ならない。例えば、伝説、最速、無頼、硬派、色気、漢(おとこ)…。そのイメージは歴代のZが形作ってきたものだが、それは50年以上前に生まれた原点のZ1で既にほぼ完成されていたと言って過言ではない。1960年代に日本メーカーが海外市場へ進出し、カワサキは1966年のW1、1969年のマッハIIIで大きな評判を獲得。さらに次の一手として、4ストロークDOHC 750cc並列4気筒で世界最速を狙う「N600」計画を進めていた。しかし1969年、一足先にホンダから実質的な世界初の直4量産車であるCB750フォアがデビューしてしまう。カワサキは急遽N600の開発方針を変更。排気量はホンダを上回る900ccとし、車体、デザインも全面的に見直した。目指したのは「究極」。そこで型式にアルファベット最後の文字「Z」のネーミングを与えた。結果、パワー、メカニズム、デザイン、品質とあらゆる面で最高峰の900スーパー4・Z1が誕生することとなった。Zの名は後世のGPZ、ZZ-R、そしてZX-Rにも引き継がれていく。Z1はネイキッドのZシリーズのみならず、現代に続くカワサキZイズムと栄光の原点でもあるのだ。その始まりにあったのは誰にも負けないモノをつくりたいという矜持、ヤケドするようなアツいエンジニア魂。その火は消えず、今もライダーの心を揺さぶり続ける。敵に察知されぬようコードネームを頻繁に変更フレームナンバー「Z1F-00001」の1号車は市販されず、川崎重工が保管しており、現在は神戸の「カワサキワールド」に展示されている。明石工場のラインで次々と組み上げられていくZ1。生産開始当初の様子を捉えた貴重な1枚。開発コンセプト「ベスト・イン・ザ・ワールド」は、今もなおカワサキのオートバイに受け継がれている。稲村暁一 氏 Z1は極秘に開発されたため、ライバルに察知されぬようコードネームを頻繁に変更したという逸話も残っている。稲村さんは現役時代にはZ1のエンジン設計を始め、後の歴代4ストエンジンのほとんどを手掛けた名開発者(撮影は1990年)。カワサキ「900SUPER4(Z1)」ヒストリー圧倒的性能と流麗スタイルで世界中で大ヒット。Z1からZ2へKawasaki 900SUPER4(Z1) 1973年、カワサキが『900SUPER4』の名で世に送り出したZ1は、903cc空冷DOHC並列4気筒による82PSという圧倒的なパワーで、CB750フォアを凌ぐ世界最速クラスのパフォーマンスを誇ったスーパーバイクだった。走り、耐久性、造形美三拍子が揃った革命児様々な分野で、その存在が現れる「以前/以後」に時代を分けてしまう革命児が存在する。バイクの歴史において間違いなく「Z1」はそのひとつだ。まず性能が桁違いだった。「ベスト・イン・ザ・ワールド」を目標に掲げ、直4量産車で世界初のDOHCと日本車最大の排気量903ccを実現。最高速210km/h以上、ゼロヨン12秒以内を目標に開発し、駆動系や車体、足まわりは230km/h対応を狙った。これは当時の常識を塗り替える圧倒的なパフォーマンスだった。当時のテストライダー、清原明彦氏らの意見を採り入れ、大排気量車の常識を超えた軽快なハンドリングも獲得した。加えて耐久性も特筆すべき点として挙げられる。排気量は903ccながら120cc程度までスープアップできるほど技術的余裕を持たせており、チューニングの素材として最適であり、世界各地のプロダクションレースで大活躍した。今なお耐久性については定評があるほどだ。そして900ccは後にカワサキにとって特別な排気量となる。デザイン面においてもZ1は革新的だった。当時珍しいテールカウルを備え、ティアドロップ型のタンクからつながる流麗なデザインを採用。米国で「スリム、スリーク、セクシーの3S」と形容された。また、敢えて手間がかかる黒仕上げのエンジンなど細部にもこだわりを満載。これらの造形美が後世のバイクに与えた影響は非常に大きい。性能、耐久性、デザインが全て揃ったZ1はまさに革命児だった。1972年秋から欧米で販売され、爆発的ヒットを記録。日本では750cc版の「Z2」が登場し、大人気となった。カワサキ「900SUPER4(Z1)」各部解説エンジン脱着などの整備性を考慮したフレームワーク画像1: カワサキ「900SUPER4(Z1)」各部解説フェザーベッドの強化型といえる、主材Φ31.8mm1・1/4インチ)のダブルクレードルフレームは、A1やH1の発展型ともいえる構造だが、同時にメグロのRZレーサーにも通じるものがある。RZではエンジンを囲むパイプが一周するのに対し、Z1では後方のパイプがリアショック上部へと伸びる点が異なる。最高出力82PS、最大トルク7.5kgf・mを絞り出すZ1E型エンジン画像2: カワサキ「900SUPER4(Z1)」各部解説クロモリ製のクランクシャフト、カムシャフト、ミッションはすべて明石工場で内製された。セルモーター機構はCB750フォアを参考にしたとみられ、モーターは三ツ葉製で形式も同一。キャブレターはミクニ製VMΦ28強制開閉式で、初期型ではフロート室側面と上部キャップがバフがけされており、カワサキが質感に強くこだわっていたことがうかがえる。プラグキャップは欧州仕様がボッシュタイプのシールド型、写真の北米仕様はプラスチック製となっている。画像3: カワサキ「900SUPER4(Z1)」各部解説ND製の指針式メーターで速度計は北米仕様が160mph、欧州仕様は240km/hを表示。Z1A以降はインジケーターを配置変更した。1972年から1973年中期まで生産された初期のヘッドライトステーは、フォーク側とステーの継ぎ目をロウ付けしたあとに段差を研磨し、さらにメッキが施された。4-2-2構成の4本マフラーを採用し、等長に近いエキパイの取り回しと排気干渉の少ないレイアウトにより、スムーズな吹け上がりとトルク特性を実現。左サイドカバー内にチェーン注油用オイルタンク(容量900ccの90番オイル)を配置。Z1B以降はOリングチェーンを採用したため、注油タンクは廃止された。カワサキ「750 RS(Z2)」Kawasaki 750RS(Z2) 1973年国内でも“ゼッツー”がCBを凌駕1969年に登場したホンダCB750フォアは、世界初の量産並列4気筒+ディスクブレーキでスーパーバイク時代を切り開いた。カワサキは900ccのZ1を国内規制で販売できず、排気量746ccの750RS(Z2)を1973年に投入し、CBとナナハン市場で激突した。画像1: カワサキ「900SUPER4(Z1)」|世界最速・戦国期に生まれ王座に君臨し続けた〝究極〟【KAWASAKI Z大全】カワサキ「900SUPER4(Z1)」「750RS(Z2)」主なスペックカワサキ「900SUPER4(Z1)」「750RS(Z2)」のスタイリング・カラー解説カワサキ「900SUPER4(Z1)」の変遷欧州仕様に設定された羨望の“イエローボール”(1973年)画像: 欧州仕様に設定された羨望の“イエローボール”(1973年)1973年の欧州仕様に設定されたイエロー×グリーンの特別色で、初期Zシリーズを象徴する伝説的なカラー。Z900RSにも受け継がれている。毎年カラー変更を実施。順調にセールスを重ねた初期型は2色で塗り分けたカラーを採用し、北米向けにはブラウン×オレンジの「火の玉カラー」、欧州向けにはグリーン×イエローの「イエローボール」が投入された。この2色は後のゼファーやZ900RSでも再現されているとおり、Z1を代表する人気カラーだ。以降も人気カラーが続々と生まれる。発売2年目の1974年モデルで外装のグラフィックを直線的なストライプを持つ「タイガー」カラーが登場。1975年型でキャンディが輝く「青玉虫」「茶玉虫」も投入された。同時にユーザーの声に応え、細やかな改良も行われた。1975年型のZ1ではOリングチェーンで耐久性を向上。1976年モデルで車名を変更し、車体を熟成したほか、キャブなど吸気系の変更で扱いやすさをアップさせた。Z1は後期型を含めて約7万台、Z2は2万台の生産を重ね、次世代にバトンタッチした。900Super4(Z1A)(1974年)シルバー仕上げのエンジンで信頼性を向上画像: 900Super4(Z1A)(1974年)初期型で黒塗装だったエンジンはシルバー仕上げへと変更され、点火時期や進角特性の見直しによって信頼性と扱いやすさが向上した。タンクグラフィックもオレンジタイガーとイエロータイガーの2色に刷新され、量産フラッグシップとしての完成度をさらに高めている。Z1 900(Z1B)(1975年)青玉虫と茶玉虫が描く、Z1最後の美学カワサキZ1Bは、1975年型の最終進化版Z1であり、“900スーパー4”シリーズの集大成となるモデルである。外装は「青玉虫」「茶玉虫」と呼ばれるキャンディ塗装や、テールカウルの曲線ラインなどによってZ1・Z1Aと差別化されている。信頼性の向上に加え、シールチェーンの採用によりチェーンオイルタンクが廃止されるなど、細かな改良も施された。画像: Z1 900(Z1B)(1975年)初期型のライトステーはフォークとステーの継ぎ目をロウ付けし、研磨によって段差をなくしていた。Z1B以降ではその工程が省略されたため、継ぎ目が残っている。Z1の左サイドカバー内にあったチェーン給油用のオイルタンクは、Z1Bからシールチェーンが採用されたことにより、給油装置が廃止された。Z900(Z900-A4)1976年Z1譲りの魂が宿る熟成仕様前輪のダブルディスク化(欧州仕様)やインジケーターパネルおよびサイドカバー形状の変更、さらにマフラー内部構造の見直しなどにより、制動力・静粛性・実用性を高めた。最大出力は約81PSで、当時の量産車としてはトップクラスの動力性能を誇り、Z1から続くスーパーバイク黄金時代を締めくくる存在として高く評価された。画像: Z900(Z900-A4)1976年750RS(Z2A)(1974年)746cc空冷DOHC4気筒ユニットは69PSを誇る基本構成はそのままに細部を熟成させた国内専用モデル「Z2」のマイナーチェンジ仕様。カラーはグリーンベースにイエローラインのキャンディトーンイエロー、いわゆる“イエロータイガー”のみで、Z1A同様にヘッドガスケットの2ピース化などによるオイル漏れ対策が施された。さらにタコメーター内にテール&ストップランプの球切れ警告灯が追加された。画像: 750RS(Z2A)(1974年)750RS(Z2A)(1975年)玉虫が時代を染めた! 熟成のナナハンZ2の後期モデルで、通称「玉虫カラー」で知られる。日本仕様はキャンディトーンスーパーレッド(茶ベースに金ライン)とキャンディトーンスカイブルー(青ベースに金ライン)の2色設定で、いわゆる“青玉虫/赤玉虫”と呼ばれるグラフィックだ。画像: 750RS(Z2A)(1975年)Z750Four(Z750-A4)(1976年)Z1スタイルに迫るZ2最終モデル「A4」Z2の最終型では車名が「750RS」から「Z750Four」へと改められ、型式もZ2系表記から「A4」に整理された。最高出力は69PSから70PSへとわずかに向上し、フロントブレーキのダブルディスク化やフレーム補強、大型化されたテールカウルなどの変更を受けた。画像: Z750Four(Z750-A4)(1976年)カワサキ「900SUPER4(Z1)」「750RS(Z2)」写真おすすめ関連記事【絶版名車解説】カワサキ「900 SUPER4」(Z1)1972年 - webオートバイカワサキ「900 SUPER4(Z1)」1972年【昭和の名車解説】 - webオートバイ絶版名車解説 カワサキ「750RS(Z2)」1973年 - webオートバイカワサキ「750RS(Z2)」詳細解説 - webオートバイカワサキ「Z伝統色継承図鑑」【最新ネオクラ ルーツ伝】 - webオートバイカワサキ「Z900RS SE」(2026)のルーツは「900 SUPER FOUR(Z1)」(1973)【最新ネオクラ ルーツ伝】 - webオートバイ「Z1」「Z2」関連記事一覧 - webオートバイ