米国では大型トラック向け排ガス規制の強化が2027年に予定されている(EPA2027)。特にNOx排出基準値が極めて厳しく、対応可能なエンジンが限られることや、施行前の駆け込み需要による混乱が予想されることから、米国トラック協会が見直しを要求するほど厳格な規制だ。【画像ギャラリー】デトロイトの第6世代「DD」ディーゼルエンジン(6枚) 内燃エンジンでの対応ができなければ「電動化」を強制するものになる可能性もあったが、このたびダイムラー・トラック傘下のデトロイトが第6世代の「DD」シリーズを発表、次期排ガス規制にディーゼルエンジンで対応した。 2段階の排ガス後処理装置を搭載しEPA2027をクリアしたことで、米国では2027年以降に発売される新型トラックでもディーゼル車が活躍することになった。また、DDシリーズは三菱ふそう「6R」系エンジンなどの兄弟ユニットで、ディーゼル車か電気自動車か、市場の選択を問う意味もありそうだ。文/トラックマガジン「フルロード」編集部写真/Detroit Diesel Corporation・Daimler Truck AGデトロイト、第6世代の「DD」エンジンで米国の次期排ガス規制に対応デトロイトの第6世代「DD15」型ディーゼルエンジン ダイムラー・トラック・ノース・アメリカ(DTNA)傘下のパワートレーンブランド、デトロイト(デトロイト・ディーゼル)は2026年2月19日、大型トラック用ディーゼルエンジン「DD」シリーズの改良を発表した。 DD13型、DD15型、DD16型はそれぞれ第6世代となり、大型トラックの新型車では2027年から規制の対象となる米国環境保護庁(EPA)の次期排ガス規制(EPA2027)に適合した。 新型ディーゼルエンジンは長距離トラックで米国最大手のフレイトライナーや、ボケーショナル(特装系)に強いウェスタンスターなど、ダイムラーグループの大型車に搭載される予定だ。 米国の大型車排ガス規制は、これまでもNOx(窒素酸化物)の低減を重視してきたが、EPA2027は特に厳しく内燃機関での対応ができない可能性もあった(欧州がCO2規制の強化などで内燃機関のフェーズアウトを目指したように、事実上、電動化やハイブリッド化を強制するものになる可能性があった)。 実際、対応可能な市販エンジンの少なさや、駆け込み需要による市場の混乱やコスト増などが予想され、米国トラック協会(ATA)が見直しを要求するほどの「厳しすぎる」規制となっている。 デトロイトは第6世代DDシリーズで次期排ガス規制に完全準拠したといい、DTNAのセールス&マーケティング担当シニアバイスプレジデントを務めるデビッド・カーソン氏は次のように話している。「フレイトライナーやウェスタンスターのお客様は、デトロイトのパワートレーンを信頼しています。これまでの移行期だけでなく、次期規制への対応においても信頼してくださったことを、大変光栄に思います。 第6世代のデトロイト・ディーゼルエンジンは長年の実績に基づいた性能を基盤としつつ、2027年以降の内燃エンジン車の需要に対応できます」。既知の技術を組み合わせて「根本改良」新型エンジンはフレイトライナーの「カスケイディア」などダイムラーグループの車両に搭載されることになる 一般にディーゼルエンジンの燃焼効率を高めると、燃焼温度が高くなることや、過給機により酸素とともに窒素の流入が増えることなどから、エンジン排気中のNOxの量が増大する。効率化とNOx低減は内燃機関にとって相反する要件であり、その両立が難しい。 今日のトラック用ディーゼルエンジンのほとんどは、尿素水によるNOxの還元反応を利用した尿素SCRを排ガス後処理装置(ATS)に採用している。 デトロイトの第6世代ディーゼルエンジンは、前世代の設計を根本から改良し、耐久性と信頼性を継承しつつ、排ガス規制対応による影響を相殺できるように効率を向上した。 燃料系は簡素化を目指して再設計し、より強力で安定した流量を確保、増幅噴射を不要とした。同様に非対称の吸気ポートを追加しスワール(吸気流)を強化し、新型インジェクターとの組み合わせにより燃料・空気の混合を改善したことで完全燃焼が促進される。 またカムシャフトにミラータイミング機構を採用することで効率的な圧縮が可能になり、圧縮比が向上、エンジン全体の効率向上に貢献した。 EPA2027の厳格なNOx基準値に対応するため、メインATSの上流側に選択還元触媒を配置する「プレSCR」を採用した。2段階の処理だが後処理装置は1ボックスに収めている。パッケージングに影響を与えず、既存のシャシーに搭載可能としたこともトラックメーカーにとっては重要な利点だ。 プレSCRによる2段階の後処理は既知の技術だが、熱制御バルブと組み合わせることで迅速に触媒の動作温度に到達するため、トラックの停車が必要になるような後処理装置の再生(低負荷運転など触媒温度が上がらないことで蓄積した汚れを取り除き、触媒機能を回復する技術)を軽減するのにも役立つ。 また、アシンメトリックターボに新たに追加されたウェイストゲートアクチュエーターにより排気ブレーキや登坂性能も向上、パワーと効率を最適に組み合わせた。三菱ふそう「6R」系エンジンの兄弟ユニットデトロイトのエンジンは全てミシガン州レッドフォードで製造されている デトロイトが「DD」エンジンシリーズを初めて発表したのは2007年だ。世界的にディーゼルエンジンの排ガス規制が段階的に強化されていた当時、ダイムラーは日米欧3市場向けのベースエンジンとなる共通プラットホーム「HDEP」を開発。グループ内で部品の90%を共通化し、効率的な排ガス規制対応を可能にした。 その先陣を切って登場したのがデトロイトのDD15型だった。従って、「DD」シリーズと三菱ふそうの「6R」シリーズ、メルセデス・ベンツの「OM47x」シリーズは兄弟ユニットに当たる。 次の規制も乗り越えられるよう白紙から設計したDDシリーズは、2010年(第2世代)、2013年(第3世代)、2016年(第4世代)、2021年(第5世代)と進化を続けている。中でも尿素SCRが導入された第2世代は変更点が大きかったが、今回の第6世代はそれ以来の大きな改良となる。 なお、デトロイトのエンジンは全てミシガン州レッドフォードで製造されている。ここはDTNAのパワートレーン、アクスルなどの生産拠点であり、研究開発の拠点でもある。 デトロイト地域は1世紀近くにわたり米国の自動車製造の中心地で、第6世代エンジンの開発では州の経済開発公社などから2.8億ドルの投資を受けている。現在、DDシリーズは世界で120万台が稼働しているそうだ。 余談となるが、当初は15L級(DD15)と16L級(DD16)にターボコンパウンド機構(ターボチャージャーの後段にタービンを追加し、エンジン排気からエネルギーを回収、流体カップリングと減速ギアを経てクランクシャフトに駆動力を戻す技術)を採用していた。その後、15L級のTC機構が廃止され、現行世代ではDD16(およびメルセデスのOM473型)のみに搭載される。次世代(第6世代)で16L級エンジンのTC機構を継続採用するかはまだ発表されていない。 第6世代DD13型エンジン及びDD15型エンジンは2027年1月から提供を開始し、同DD16型の生産は2028年1月に開始する予定だ。グループ内の先鋒を務めるDDシリーズは、三菱ふそうやメルセデス・ベンツの大型エンジンの今後を占う物にもなりそうだ。