運転席から見える風景は“軽ジムニー”のまま 先日、注文していたスズキの「ジムニーノマド」が納車されました。オーダーを入れたのは2025年1月30日。発表当日です。懇意にしている販売店から「発売日が決まりましたよ」と連絡を受けていたので、朝イチに注文を入れられたのですが、なんと発表から4日で当初の生産計画の4年分に当たるという約5万台のオーダーが殺到。“受注停止”となってしまったのです。「そこまでか!」と予想を超えた「ノマド」フィーバーに驚きました。スズキ「ジムニーノマド」【画像】「えっ!…」どこが魅力的? 欠点はある? これが大人気のスズキ「ジムニーノマド」です(30枚以上) 実はこれまで、僕(河西啓介)は現行型である軽自動車版のJB64型「ジムニー」に乗っていました。5年ほど前、都心から千葉県南房総市へと引っ越したのを機に、“田舎暮らしの相棒”として小さくてタフなクルマが欲しいと手に入れたのです。 実際“軽ジムニー”は期待以上の活躍ぶりで、行動範囲は田舎だけにとどまらず、東京への往復や地方取材への足としても大活躍してくれました。 そして、年間2万km以上のペースで距離を刻み、気づけば8万kmオーバーに。車体もエンジンも不調は感じていなかったものの、この調子でいったらあっという間に15万、20万kmへと達してしまいそう……。そんなとき「ノマド」が発売されると聞き、「乗り換えるならボディ違いの『ジムニー』も面白そうだな」と感じて、発表と同時にオーダーを入れたというわけです。 そんな「ノマド」がついにやってきました! あぁ、分かってはいたけれど、実際に見るとやっぱり大きい。「ノマド」のボディサイズは全長3890mm、全幅1645mm、全高1725mmで、3ドアの「ジムニーシエラ」と比べて全幅と全高は(ほぼ)同じものの、全長は34cmも長くなっています。 さらに、以前、乗っていた“軽ジムニー”と比べたら、全長は49.5cmも長く、全幅も17cmワイド。感覚的にはふた回りくらい大きい感じです。もちろん、全長4m以下、幅1.65m以下だから、一般的には十分コンパクトなのですが……。 とはいえ「ノマド」のデザインはバランスが悪くなっていません。メルセデス・ベンツ「Gクラス」やジープ「ラングラー」をギュッと縮めたようなプロポーション。多くの人が「カッコいい」と感じるであろうデザインだと思いました。 僕が選んだボディカラーは、シンプルな白(アークティックホワイトパール)。「ノマド」専用カラーとして赤メタリック(シズリングレッドメタリック)や濃紺のメタリック(セレスティアブルーパールメタリック)も用意されています。これらの新カラーからは、従来のヘビーデューティな「ジムニー」とは違った、街乗りやドライブ向きのSUV的なキャラクターが与えようという意図が感じられます。 いざ乗ってみると、運転席から見える風景は「ジムニー」のまま。何も変わりません。しかし。リアシートとラゲッジスペースはまるで別モノです。スズキ「ジムニーノマド」 340mm延長されたホイールベースの大半が充てられた後席スペースは相当余裕があります。シートクッションの厚みが増し、着座位置が高くなったことで開放感も高く、大人4人による長距離ドライブも余裕でこなしてくれそうです(「ノマド」の乗車定員は4人)。 さらに、3ドアでは最低限でしかなかったラゲッジスペース(床面長240mm)も激変。荷物を積む際は、リアシートの背もたれを倒すのが前提だった“軽ジムニー”ですが、「ノマド」は後席使用時でも床面長が590mmと倍以上になっています。荷室容量は211リットルと、旅行用の中型スーツケースをふたつ積めるくらいのスペースがあります。 これらが何を意味するかといえば、「ノマド」のファミリーカーとしての可能性です。これまで「『ジムニー』に乗りたいけれど、後席ドアがないことや荷物の積載などの理由で諦めていた」という人にとっては、間違いなく福音になるでしょう。納車1か月で見てきた「魅力」と「欠点」とは そんな「ジムニーノマド」も納車から1か月が経ち、その間、2000kmほど走行。実際にオーナーとなってみての印象は、結論からいうと“軽ジムニー”とは全く違うな、というものでした。これについては「よかったところ」、「気になったところ」の両方あったので、ここからお伝えしていきたいと思います。スズキ「ジムニーノマド」 まず「よかったところ」は、乗り心地のよさとキャビンの静かさです。 やはり340mm延長されたホイールベースの恩恵は大きい。3ドアはやや極端にいえば、常にヒョコヒョコとした乗り心地で路面からのキックバックも大きいのですが、「ノマド」はかなり落ち着きがあり、荒れた路面や段差もしなやかにいなしてくれます。高速走行での直進安定性もかなりよくなっています。 キャビンの静かさについても、明らかな違いを感じました。エンジン音、風切り音、ロードノイズなど、いずれも3ドアよりしっかり遮音されています。室内の内張り、フロアの防音・吸音材の追加や適正配置をおこなったとのことですが、確かに3ドアでは鉄板むき出しだった部分が樹脂パーツでカバーされるなど、これまで以上に音対策がなされているのが見て取れます。 これらの改良点はきっと、今後3ドアにも活かされていくでしょう。 そんな「ノマド」で事前に懸念していたのは、エンジンのパワー不足です。車重は5ドア化により1180kg(ATは1190kg)と、「シエラ」より約100kgも増えています。一方、エンジンは同じ1.5リッター直列4気筒で、最高出力102ps、最大トルク130Nmと変わらないからです。 しかし、個人的な感覚にはなりますが、実際に一般道や高速道路などを2000kmほど走ってみて、「シエラ」と比べて「遅い」とか、高速走行での力不足を感じることはありませんでした。元々、速さを求めるクルマではないので、必要にして十分という印象です。 以前、「ジムニー」のパワートレインについてスズキの開発者に尋ねたとき、「最も重視しているのは信頼性の高さ」という答えを得たことがあります。1.5リッターエンジンや4速ATの採用についても、最新であることよりも長く使われてきた実績がある=壊れにくいということに重きが置かれている……と考えれば合点がいきます。 燃費については、5速MT車で高速走行も多い僕の「ノマド」の場合、平均して14〜15km/Lで推移しています。ついエンジンを回してしまいがちな“軽ジムニー”の660ccターボよりも、むしろ「少しいいな」という数字です。元より、空気抵抗の大きいボディ形状を考えれば、及第点ではないのかなと思います。 一方、ちょっと気になること、「あれ?」と思ったところもあります。ひとつは「ジムニー」の美点であった“取り回しのよさ”がスポイルされていることです。具体的には、最小回転半径が3ドアの4.9mから5.7mへと大きくなっています。ちなみに5.7mというのは、トヨタ「アルファード」などラージミニバンと同じぐらいの数値です。「とはいえ、全長4m以下のコンパクトカーだから問題ないだろう」と高をくくっていたのですが、いざ運転してみると、路地の曲がり角、Uターン、縦列駐車などで「あれ、曲がれない。小回りが利かない……」と感じる場面が多々あります。これまで乗っていた3ドアの取り回しのよさを覚えているだけに、「ノマド」の運転感覚に慣れるまでには少し時間がかかりそうです。スズキ「ジムニーノマド」のオーナーとなった筆者 もうひとつは、3ドアに比べてステアリングが少し重く、切り始めの反応が緩いこと。これもロングホイールベース化の影響だと思いますが、3ドアの軽快なハンドリングに慣れていただけに、やや鈍重に感じられてしまうのです。ステアリングの重さについては、もう少し距離を走って“当たり”がつけば、軽減されるのだろうか? などと期待しています。* * * 乗り始めてまだ1か月ほどの感想ではありますが、今のところ「ノマド」についてはおおむね満足しつつも、3ドアとの違いに若干戸惑っている……というところです。でも、初めての「ジムニー」が「ノマド」という人なら、ほとんど気にならないことではあると思います。 あらためて「ノマド」の魅力とは、ラダーフレームやリジッドサスペンションといった基本構造を変えず、つまり「ジムニー」にとって外せない性能である“圧倒的な走破性”は保ったまま、居住性や積載性といったユーティリティを大きく向上させたということです。「ノマド」の登場が、これまで“好事家”向けだった「ジムニー」の門戸を広げたのは間違いありません。発表から4日間で5万台を受注したという事実が示すように、これから「ジムニー」の販売の主軸は、「ノマド」に移っていくのではないか、とも思います。 一方、「ノマド」の登場により、3ドアの存在感は失われるどころか、ますますそのキャラクターの明快さと魅力が際立ったとも思いました。“「ジムニー」無双状態”は、まだまだ続きそうです。