世界的にEV市場が減退し、ハイブリッド車が復権している。その一方で純ガソリン車は日本の自動車メーカーのラインナップから徐々に消えつつある。全般的に新車価格が高騰しているが、純ガソリン車は価格が安く、庶民にとってはありがたい存在。このまま純ガソリン車はこの世からなくなっていく運命なのか?文:渡辺陽一郎/写真:ベストカーWeb編集部、トヨタ、日産、ダイハツ【画像ギャラリー】ハイブリッド車よりも約30万~40万円安い純ガソリン車の魅力とは?(5枚)マイナーチェンジや一部改良などでいつのまにか純ガソリン車がなくなっていく2025年5月の一部改良でガソリン車が廃止されたカローラスポーツ、ツーリング、セダン 最近はモーター駆動を併用しない純粋なエンジン車が減った。例えば日産のノート/エクストレイル/キックスは、今はハイブリッドのe-POWERのみを搭載する。モーターを使わない純ガソリンエンジン車は選べない。 トヨタについても、カローラのセダン/ツーリング/スポーツは、現行型の発売時点では純ガソリンエンジンを用意していたが、今はハイブリッドのみだ。SUVのカローラクロスも、GRスポーツを除くと全グレードがハイブリッド車だ。 トヨタのクラウンクロスオーバー/スポーツ/エステートも同様で、ハイブリッドとPHEV(充電可能なハイブリッド)が中心だ。クラウンセダンにはハイブリッドと燃料電池車があるが、いずれも純ガソリンエンジン車は選べない。純ガソリンエンジン車が減り、ハイブリッドが増えたのかカローラシリーズの2L自然吸気エンジン(M20A-FKS)。これに組み合わされていたダイレクトシフトCVT、さらにはパドルシフトも姿を消した なぜ最近は純ガソリンエンジン車が減り、ハイブリッドが増えたのか。この背景には複数の理由がある。 まずハイブリッドの燃費性能が優れているのは当然として、最近は量産効果に伴うコスト低減も進み、以前に比べてハイブリッドの価格が下がった。以前はハイブリッドの価格が純ガソリンエンジン車に比べて50万~60万円高かったが、最近は価格差を35~40万円に抑えた車種が増えている。 例えば純ガソリンエンジンを廃止する前のカローラクロスは、ハイブリッドの価格アップが35万円だった。しかも購入時に納める税額は、ハイブリッドが約10万円安く、実質的な価格差は約25万円に縮まった。 そのためにレギュラーガソリン価格が1L当たり170円の場合、約6万kmを走ると、燃料代の節約で実質価格差の約25万円を取り戻せた。 そしてハイブリッドは、モーター駆動の併用で加速が滑らかでノイズも小さく、燃費以外の付加価値も多い。そこまで考えると、純ガソリンエンジンとの実質価格差が25万円で6万kmを走れば取り戻せるなら、多くのユーザーにとってハイブリッドが買い得と受け取られる。 その結果、ハイブリッドは売れ行きも好調で、カローラクロスでは全体の80%以上を占めた。カローラセダンやツーリングでも、ハイブリッド比率が高く、純ガソリンエンジン車は整理されていった。 まだ、アルファードやノア&ヴォクシー、セレナ、ステップワゴン、フリードなど、ミニバンにはガソリン車が設定されている。セレナには純ガソリン車が用意されている。ガソリンX(13.4km/L)は271万9200円、e-POWERのX(20.6km/L)は324万8300円と同グレード同士の価格比較では52万9100円、ガソリンXVとの比較では25万9600円、ガソリン車のほうが安い アルファードの場合、ガソリン車のZ(10.6km/L)は555万円、ハイブリッドのZ(17.7km/L)は635万円と80万円もハイブリッド車のほうが高い。 フリードは、262万3500円のガソリン車AIR(16.5km/L)をエントリーグレードとして用意している。売れ筋グレードのガソリン車AIR EX(16.4km/L)が281万2700円、ハイブリッド車のe:HEV AIR EX(25.4km/L)が321万2000円とハイブリッド車のほうが39万9300円高い。企業別平均燃費を悪化させる純ガソリンエンジン車が売れ過ぎては困る また純ガソリンエンジンの廃止には、二酸化炭素の排出抑制を目的にした燃費規制も関係している。「2030年度燃費基準」を達成するには、企業(メーカー)別平均燃費を2016年度に比べて30%以上も改善する必要がある。そのためには、燃費性能の優れたハイブリッドやPHEV、エンジンを搭載しない電気自動車の販売比率を増やさねばならない。次期タントと思われるKビジョン。ロッキーやライズに搭載されているe-Sスマートハイブリッドをさらに軽量・小型化して搭載したシリーズ式のハイブリッド車 ジャパンモビリティショー2025では、ダイハツが「Kビジョン」の名称で、軽自動車のフルハイブリッドを参考出品していた。開発者は「2030年度燃費基準をクリアするためにも、燃費の優れた軽自動車のハイブリッドが必要になる」と述べた。 小型/普通乗用車が純ガソリンエンジンを廃止してハイブリッドのみにする背景にも、2030年度燃費基準がある。ダイハツの場合、ターボエンジンを搭載する軽スポーツカーのFRコペンを発売する予定だが、そのためには燃料消費量の少ないハイブリッドも用意して、燃費のバランスを取る必要が生じる。 見方を変えると、2030年度燃費基準をクリアするには、企業別平均燃費を悪化させる純ガソリンエンジン車が売れ過ぎては困る事情もある。そこでハイブリッドを存続させて、純ガソリンエンジンを廃止する傾向も生じてきた。 ちなみにスズキスイフトの2WDでは、マイルハイブリッド装着車でなくても、直列3気筒1.2Lエンジンを搭載して23.4km/Lだ。ジムニーノマドの燃料消費量はスイフトの1.7倍だから、これが大量に売れると、2030年度燃費基準の達成で不利になる。 こういった事情もあるから、今後は電気自動車を含めて、2030年度燃費基準で有利な車種に特化してラインナップされるようになる。残価設定ローンがハイブリッドを購入しやすくする?ノアS-Z(2WD)のハイブリッドはガソリンエンジン車に比べて34万円9800円高い そうなればハイブリッドと純ガソリンエンジンの価格差が縮まっているものの、クルマの価格はますます高くなる。この不利を緩和するのが残価設定ローンだ。 例えばトヨタノアの場合、ハイブリッドS-Z・2WD(392万9200円)の価格は、純ガソリンエンジンのS-Z・2WD(357万9400円)に比べて34万9800円高い。 しかし残価設定ローンを5年間の均等払いで利用すると、月々の返済額は、ハイブリッドが5万2500円で純ガソリンエンジンは4万7900円だ。月々4600円を多く支払うと、ハイブリッドを購入できる。残価設定ローンを利用すると、上級グレードが割安に感じられるため、ハイブリッドも購入しやすくなる。 以上のような理由により、純ガソリンエンジンを廃止してハイブリッドに絞る車種が増えている。時代の流れといえるが、価格が全般的に安いコンパクトな車種を現金で買う場合は、ハイブリッドの搭載に伴う35万~40万円の価格アップは負担が大きい。 純ガソリンエンジンが350万円のクルマにとって、35万円の上乗せは10%の増加だが、純ガソリンエンジンが200万円の車種では18%に相当するからだ。 またボディが軽くエンジン排気量の小さな車種は、純ガソリンエンジンでも燃費が優れているから、ハイブリッド化しても燃費向上率は小さい。だから軽自動車にはフルハイブリッドがないのだ。 純ガソリン車の新車販売が禁止されるのは、東京都が2030年、日本政府が2035年と決まっているが、この先、年を追うごとにカタログから純ガソリン車が消えていくだろう。 エンジン排気量が1.5L以下の車種では、純ガソリンエンジンも残してほしい。切実に安価なクルマを必要としているユーザーもいるからだ。はたしてそこまでして、純ガソリン車を廃止する必要があるのだろうか。