機構の仕組みの違いなどは別ページで紹介した新世代トランスミッションだが、実際乗ってみてどうなのか? 使い勝手はいいのか? スポーツランも楽しめるのか? ここで、新世代トランスミッションをすべて試乗してきたテスター・太田安治に検証してもらった。文:太田安治/写真:南 孝幸新世代ミッションの魅力とは?(太田安治)画像1: 新世代ミッションの魅力とは?(太田安治)メリットも多くますます普及していくのは確実オートマチック変速(AT)のスポーツモデルが最近続々と登場しているのは、電子制御技術の進化と、より簡単な操作を求めるライダーの増加という2つの要因が重なったからだ。しかし、その一方でスポーツモデルのAT化を否定するライダーは決して少なくない。左手、左足を使う操作が減れば、操る面白さも減り、スポーツモデルとしての魅力が少なくなる、という意見だ。長年にわたってマニュアル変速(MT)のオートバイに乗ってきた僕も、ATの必要性をあまり感じたことがない。正直なところ、レバー操作力が軽いアシスト&スリッパークラッチと、アップ/ダウン両対応のクイックシフターがあれば充分だと思う。だが、ATモデルは街乗りやツーリングのペースなら右手の操作だけでもこと足りるだけに、長時間乗っていると肉体的負担に加えて精神的負担も軽減され、疲労度に大きな差が出るのはまぎれもない事実。画像2: 新世代ミッションの魅力とは?(太田安治)運転操作により集中できる分、周囲の交通状況や道路の状況をより多く把握できるから安全運転に繋がるし、ツーリングで景色を楽しむ余裕もますます増える。これは経験/スキルを問わず、誰でも享受できるメリットだ。ビギナーにはスポーツモデルの魅力に接しやすいこともメリットになる。ATモードで気軽に乗ることから始めて、ブレーキングやコーナリングの操作に慣れたらMTモードによるスイッチを使ったマニュアル変速へと、段階的にスキルを上げていけるからだ。アクチュエーターでクラッチとミッションを操作する機構はシンプルで、既存のマニュアルミッション車でも比較的簡単にAT化できるだけに、こうした新世代ミッションの採用は今後も増えていくだろう。IMUと電子制御の協調がより一層高度化すれば、スーパースポーツでサーキットのラップタイムを短縮できる可能性もある。事実、4輪のF1マシンはクラッチ操作不要で、スイッチで変速するセミオートマチックなのだから。ATの評価は好みと用途で分かれるが、個人的にはクラッチレバーとシフトペダルを残して、マニュアル操作と使い分けられればベストだと思う。各メーカーの新世代ミッションを紹介▶ホンダ「E-Clutch 」CBR650Rエキスパート顔負けの巧みな制御ゼロ発進でスロットルをゆっくり開ければスルスルと穏やかに、一気に開ければ猛然とダッシュする。クラッチを切る制御と併せ、発進/加速から減速/停止まで、エキスパートの手動操作と互角以上の巧さだ。回転域を問わずスムーズに反応するCB650R系の4気筒エンジン、力強い低中回転トルクを発生するレブル250の単気筒エンジンとのマッチングは秀逸で、マニュアル車から乗り換えても違和感はない。▶ホンダ「DUAL CLUTCH TRANSMISSION(DCT)」X-ADV完成の域にある円熟システム最初にDCTを搭載したVFR1200Fの試乗会では、雨が降り出すと多くのテスターがUターンや小さいコーナーが怖いと訴えた。クラッチ制御、変速プログラムが粗かったからだが、現在のDCTは別物の上質な反応で、ウエットでも不安なし。搭載車の中でもリアブレーキレバーを備えたX-ADVとのマッチングが最高だ。▶ヤマハ「YAMAHA AUTOMATED MANUAL TRANSMISSION(Y-AMT)」MT-09今後の発展に期待は高まるMT-09 Y-AMTの試乗会はサーキットだったが、これはスポーツ性能に対する自信の表れだ。タコメーターを見る必要がなく、ブレーキにも集中できる利点は大きいが、バンク中に速度調整でスロットルを僅かに絞ると不意にシフトアップすることがあった。街乗りで気になる変速ショックと作動音の低減と併せ、さらなる洗練に期待したい。▶カワサキ「6速オートマチックトランスミッション」Ninja7ハイブリッド最先端技術をいち早く楽しめるNinja7ハイブリッドのクラッチは常に電子制御され、シフト操作はオートマチックとボタン操作の2種類。クラッチ制御とシフトのアルゴリズムは市街地、ツーリングでのゆったり走りを前提にプログラムされているのか、操作に対して穏やかに反応する。エリミネーターやヴェルシス1100との相性が良さそうだ。▶BMW「AUTOMATED SHIFT ASSISTANT(ASA)」R1300GSR1300シリーズとの相性は抜群!?R1300GSのエンジンは低中回転域で強大なトルクを発生するので、低回転でポンポンとシフトアップしてもスムーズさを失わない。ASAとの相性が抜群にいいのは、このエンジンとシフトプログラムがドンピシャに合っているから。シフトペダルを備えているが、どうせならクラッチレバーも……と思うのは僕だけだろうか。新世代トランスミッション・機能一斉比較各メーカーから続々と登場した新世代トランスミッションたち。ホンダのDCT以外は通常のマニュアルミッションがベースなので機構が比較的シンプルで、コスト(MT車との差額)も高くない。Eクラッチは発進・停止以外はクイックシフターと同じ構造。変速操作こそ常に必要になるが、手頃な値段は大きな魅力。ATモードも備えるY-AMT、カワサキの6速AT、BMWのASA、KTMのAMTだが、ヤマハとカワサキはスイッチ操作によるハンドシフト方式を採用しているのに注目したい。ホンダのDCTは構造こそ他と異なるが、15年の歴史を持つだけに完成度はピカイチ。文:太田安治/写真:南 孝幸バイク用語 関連の記事一覧 - webオートバイ