マツダが10月29日に発表したコンセプトカー「MAZDA VISION-X COUPE」(写真:筆者撮影)マツダは10月29日、ジャパンモビリティショー2025(一般公開10月31日〜11月9日)での記者会見で、コンセプトカー「VISION-X COUPE」を世界初公開した。ロータリーエンジンを搭載した2ドアクーペであるものの、自動車メディアなどが予想記事で紹介した「(仮称)RX-9 コンセプト」とはイメージが違う。マツダが2015年の第44回東京モーターショーでサプライズ発表した「RX-VISION」は量産化されることなく、ゲーム「プレイステーション」のソフトウェア専用モデルとして活躍するにとどまった。今回、なぜRX-9 コンセプトは登場しなかったのか。その背景について、近年のマツダの状況を振り返りながら検証した。(桃田 健史:自動車ジャーナリスト) まず、「VISION-X COUPE」の車両スペックから見ていこう。 ボディサイズは全長5050mm×全幅1995mm×全高1480mmで、マツダの真骨頂「魂動デザイン」によるインパクトが強い。 パワートレインはツインローターにターボを使い、モーターと駆動用バッテリーを搭載するプラグインハイブリッド車でシステム出力は510馬力。航続距離はEVモードで160km、ハイブリッドシステム併用で800kmだ。「MAZDA VISION-X COUPE」(写真:筆者撮影) 燃料に微細藻類由来のカーボンニュートラル燃料を用い、マツダが独自開発したCO2回収技術「マツダ モバイル カーボン キャプチャー」も搭載することで、走行時のCO2排出量を理論上実質ゼロ以下にすることを目指す。 このように環境面を含めてロータリーエンジン技術の進化はあるにせよ、日本を含めた各国の道路事情や想定される価格などを考慮すると、このままの姿では、かつて発表したコンセプトカー「RX-VISION」と同じように、量産化は難しいだろう。 そもそも「VISION」を名乗るモデルは将来的な企業戦略の方向性を示す「概念を具現化」することが目的であり、量産を前提としていない。そして今回のVISIONは、2035年を想定したコンセプトカーである。ファン待望のモデルは登場せず マツダファンが今回期待していたのは、いわゆるコンセプトカーとしてのロータリースポーツではなく、ジャパンモビリティショー2023で登場した「アイコニック SP」ベースで量産化を目指すロータリースポーツのコンセプトモデルだった。自動車メディアやマツダファンはそれを「RX-9 コンセプト」と、期待を込めて呼んでいた。マツダが「ジャパンモビリティショー2023」に出展し来場者の注目を浴びた「アイコニック SP」。これをベースに、量産化に向けたコンセプトモデルの発表が期待されたが……(写真:筆者撮影) アイコニック SPのボディサイズは、全長4180mm×全幅1850mm×全高1150mmであることから、「RX-7の復活」「RX-9の可能性」といった声がマツダファンの間で広がった。 毛籠勝弘(もろ まさひろ)社長を始めとしたマツダ幹部らはこれまでにも、「アイコニックSPに対するユーザーやメディアの評価を受けて、その次を考えていく」と量産化に向けた考えを示しており、マツダファンの期待は否応なしに高まっていた。マツダ、ロータリーエンジン開発の歴史 実際、ロータリーエンジンの開発も着実に進んでいる。2012年にマツダ本社としてロータリーエンジンの量産は終了したものの、ロータリーエンジンの研究開発は地道に続けており、その成果が排気量800ccの「8C」型ロータリーエンジンだ。ロータリーエンジンに関する技術展示「マツダ ファンフェスタ イン 富士スピードウェイ2025」にて(写真:筆者撮影) 8Cを発電機として使うプラグインハイブリッド車「MX-30 ロータリーEV」を2023年11月に発売している。 2024年2月には、次世代に適合したロータリーエンジンの研究開発を加速させるため、当時のパワートレイン開発本部パワートレイン技術開発部内で「RE(ロータリーエンジン)開発グループ」が復活。マツダの主要市場での規制対応やカーボンニュートラル燃料の活用などを視野に入れた取り組みが始まっていた。 さらに、同年5月にはマツダ、トヨタ、スバルが共同会見を開き「カーボンニュートラル実現に向け、電動化時代の新たなエンジン開発を「三者三様」を宣言している。 その際、マツダは8Cを2つ連装(ツインローター)した高出力型パワーユニットを初公開し、これをMX-30 ロータリーEVのように発電機として使うシリーズハイブリッド構想を披露しているのだ。 こうした一連の流れから見て、マツダファンのみならず、自動車メーカー各社も、今回のジャパンモビリティショーではマツダが「アイコニック SP」をブラッシュアップした量産型RX-9を想起させるコンセプトモデルを発表すると期待していた。 ところが、蓋を開けてみると、ファンはガッカリしたことだろう。 登場したのは2035年目標のVISIONであり、ロータリースポーツ量産は事実上、先送りされた形だ。コンセプトモデルが出てこなかった真相 背景にあるのは、不透明な市場動向を踏まえた経営の立て直しが急務である、という事情である。 日本からアメリカ向けた完成車輸出が多いマツダにとって、いわゆるトランプ関税が当初の27.5%から日米政府間で妥結した15%となったとしても、経営に及ぼす影響は今なお、大きい。 また資材の高騰などもあり、2026年3月期の第1四半期は461億円の営業赤字に陥っている。通期での黒字を目指すため、事業の効率化など経営の立て直しを進めている真っ最中なのだ。 こうした状況の中で、商品戦略としての最重要課題はグローバルでの主力モデルである新型「CX-5」で稼ぐことだ。そのため今回のジャパンモビリティショーでは、先に世界公開した欧州仕様を日本初公開し、販売店やユーザーへCX-5フルモデルチェンジを印象付ける。 そのほか、車体開発における日本製鉄との連携や、タイにおけるハイブリッド車やEVの製造施設への投資など、先行きを見通すのが難しいグローバルな事業環境への対応力強化を急いでいる。ロータリースポーツ量産化のための必須条件 事業の基盤を強化し、販売台数が多いモデルを牽引役に売り上げを伸ばすこと。この2つを実現させることが、高価で販売台数が限られるロータリースポーツの量産化モデルを生み出すためには、必要となる条件なのだろう。 マツダの取締役専務執行役員兼 CTO(最高技術責任者)の梅下隆一氏は、「VISION-X COUPE」を踏まえて、次世代ロータリースポーツついて「世界各地での排気ガス規制対応については、めどが立ちつつある」とロータリーエンジン開発の現状を報告している。 その上で「近未来に、こういうエンジン、こういうクルマを(世の中に)出していきますと、みなさんにお話しできる日が来るであろうと、あるいはそれを我々が実現しなければいけないという思いで開発を継続している」と、ロータリースポーツの量産化に対して含みを持たせた。関連記事「ジャパンモビリティショー」いよいよ開催! 生まれ変わって2回目の開催で楽しみたいワクワクする3つのポイント【試乗レポート】アウディ「A6 e-tron」と「SQ」を乗り比べ! 激変時代にもブレない「確かなアウディらしさ」を実感【試乗レポート】スバルのEV「ソルテラ」改良版に最速試乗!乗って分かった劇的進化とスバルのEVに対する本気度