ヤマハの4ストローク400ccレプリカは1984年登場のFZ400Rを起点と考えていいが、アルミフレームでフルカウル装備という条件を加えると、1986年5月発売のFZR400がその初代と言える。さらに1988年型はその第2世代として吸排気系を変更、高剛性スイングアームを採用した。まとめ:岡本 渉/協力:バイカーズステーション、佐藤康郎、H&L PLANNING※本記事は2025年7月2日に発売された『レーサーレプリカ伝 4ストローク編』の内容を一部編集して掲載しています。ヤマハ「FZR400(1WG)」(1988年)の概要YAMAHA FZR400 1988年総排気量:399cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒 シート高:770mm 車両重量:191kg発売当時価格:71万9000円TTF-3が全日本選手権・国際A級に適用されたのは1984年のことで、ヤマハはネイキッドのXJ400Zを元にワークスレーサーFZR400を開発して参戦。江崎 正選手が初代TTF-3王座を勝ち取った。同レースの競技規定ではフレームの換装が許されており、XJ400Z改並列4気筒はアルミ角パイプで作られたフレームに積まれ、上面がフラットな燃料タンクや車体側面を斜めに走るヤマハ・ストロボライン(現在は“スピードブロック”と呼ぶ)が施されたのが印象的なフルカウルが組み合わされた。同車のレプリカとして生み出されたのが、1984年5月に初期型が登場したFZ400Rだ。これはスイングアームはアルミだったが、フレームはシルバーに塗られた鋼管ダブルクレードルを採用。2年後の1986年には、アルミフレームでフルカウルの新しいレーサーレプリカがデビュー。車名はワークスマシンと同じFZR400とされた。エンジンはヤマハが提唱したジェネシス思想による45度前傾シリンダー採用の新型に。さらに1988年の2型では細部を改良し排気デバイスEXUPを追加。この系譜は1989年型FZR400R、1990年型FZR400RRと名称を変えながら続き、1990年代はSP仕様のみをモデルチェンジしながら1994年まで生産を継続した。ワークスレプリカの立ち位置を持ちながら市販車としての要素も欠かさなかった歴代FZRシリーズFZR400(1986年)画像1: ヤマハ「FZR400(1WG)」(1988年)86年の初期型FZRを元にエンジンを改良し排気デバイスを加えるヤマハ400レプリカの初代FZ400Rに続いたのが1986年型FZR400。アルミフレームとフルカウルをヤマハ製400直4車で初採用した。FZR400R(1987年)画像2: ヤマハ「FZR400(1WG)」(1988年)86年の初期型FZRを元にエンジンを改良し排気デバイスを加えるFZR400を元に1987年4月に加わったFZR400RはEXUPやオイルジェットタイプピストンクーラー、6速クロスミッションやシングルシート等を備えた2500台の限定車。いわゆるSP仕様という位置づけのモデルだった。FZR400R(1989年)画像3: ヤマハ「FZR400(1WG)」(1988年)86年の初期型FZRを元にエンジンを改良し排気デバイスを加える1989年3月発売のFZR400Rは1988年登場のFZR750R(OW01)系デザインに第2世代系エンジンを組み合わせ、フロントフォークをΦ41mm大径化しスイングアームをモナカ合わせのデルタボックスに変更。フロントブレーキはディスク径をΦ298mmに拡大、キャリパーは異径4ピストンに。FZR400RR(1989年12月)画像4: ヤマハ「FZR400(1WG)」(1988年)86年の初期型FZRを元にエンジンを改良し排気デバイスを加える1989年12月にはFZR400RRが登場。シリンダーを35度前傾とし全パーツを見直してエンジン全高を低くし軽量コンパクト/高圧縮化した。アルミデルタボックスフレームは大きく軽量化し剛性を高めた新型になり、ヘッドライトは世界初のプロジェクター2灯式とした。SPは1000台限定。FZR400RR(1992年)画像5: ヤマハ「FZR400(1WG)」(1988年)86年の初期型FZRを元にエンジンを改良し排気デバイスを加えるFZR400RRはそれ以後、SPのみカラーを変更して500台ずつを1994年型まで販売した。レースキットパーツ 当時、ヤマハのレースキットパーツはRC SUGOが開発、販売を行っており、写真はF3用キット。4into1のエキゾーストシステムやカムシャフト、ピストン、キャブパーツ、ドライブスプロケット、イグナイター、ワイヤハーネスなど約40点のパーツで構成され、当時のセット価格29万5000円(税抜き)。改造範囲の狭いSP用キットは、スリップオンサイレンサー、ワイヤハーネス、ドリブンスプロケット、エアファンネルなどキャブレターパーツが並び、全15点セットで6万8000円(税抜き)。RC SUGOオプショナルパーツ 上掲と同じくRC SUGOのオプショナルパーツで、レース用の軽量化部品を主体とした構成。外装やステップ、リヤショック、ハンドルなど約30点を用意し、個別にも買えた。ヤマハ「FZR400(1WG)」(1988年)の各部装備・ディテール解説フレームはデルタボックスと命名されたアルミツインスパーで、左右のメインレールは押し出し材ではなく、成形した部材を溶接で合体させた“モナカ合わせ”で複雑な曲面で構成されるのが特徴。ヘッドパイプを含むフロントセクションとスイングアームピボットを備える後部プレートは鋳造品だ。基本構成は初代を踏襲するが、各部バランスの最適化や剛性向上のために改良を実施。特にスイングアームピボットのブラケット部やスチール角パイプで作られるシートレールとの接合部は大きく形状を変えている。上の写真では取り外されているが、左右ステップはブレーキ/チェンジペダルとステップバーを同軸で装着するというレーサーを意識した作りを採用したアルミ製スイングアームも設計変更し、デルタリヤアームと呼ばれるこの新作は上部に補強を追加して剛性を高めている。メインレールは縦58mm×横35mmの角パイプを用いているが、補強部材は縦30mm×横22mmのコの字断面材。リヤサスペンションは下部にリンクを備えるリンク式モノクロスで、ショック本体はプリロードと伸び側減衰力を調整できる。正立フロントフォークのインナーチューブ径はΦ38mmで、調整機構は持たない。FZ400Rは6本スポークで2.50-16/2.75-18サイズのアルミキャストホイールを使ったが、FZR400は初期型から軽量な3本スポークを装備。フロントは1インチ大径で3.00-17サイズ、リヤは18インチを継承しての4.00-18サイズとなり、この2型でも継続。F:110/70R17、R:140/60R18のタイヤサイズにも変化はなく、1400mmのホイールベースや24度/89mmのキャスター/トレールも継承する。メーターは、17000rpmスケール(数字は16×1000rpmまで)で14000rpmからをレッドゾーンとするタコメーターを中央に配置し、左下に190km/hが上限だが文字は180km/hまでの速度計、右下に水温計を並べる。キーシリンダーの奥には、ウインカーやハイビーム、ニュートラルなどのインジケーターランプが横一列に並ぶ。CBR400RRはセパレートハンドルのクランプをトップブリッジ下に置いたが、FZR400は初代から上に配置。この2型ではシート高を下げるとともにステップの位置を見直して、疲れにくく親しみやすいライディングポジションとしている。吸排気経路を直線に近づけるためにシリンダーを45度前傾させてアルミフレームに搭載される、399.0cc(Φ56×40.5mm)の水冷DOHC4バルブ並列4気筒は、初代1986年型を元にしながら、ピストンクーラーを追加して熱的な安定性を向上、吸排気系や点火系統を改良するなどした。59PS/12000rpm、3.9kgf・m/9500rpmのエンジン性能は不変だが、5000rpmから9000rpmの全域で出力およびトルクを強化、扱いやすさを高めた。ダウンドラフトキャブはBDS32から新型のBDST32に換わり、セラミックタイプのピストンバルブによりレスポンスを向上。メインボアを楕円→真円とするとともに口径をΦ29.3→30.5mmに拡大。エアファンネルの形状を見直すなどで滑らかな混合気の流れを得た。YZF400のテクノロジーを受け継ぐもうひとつの機構が、排気デバイスのEXUP(エグザップ)だ。シート下に置かれたサーボモーターからワイヤを伸ばし、集合部に配した横長のバルブを作動。アイドリング時のほぼ全閉から高回転域の全開までバルブの傾きを変化させて開口面積を制御して全回転域で理想的な排気効率を得ることで優れたエンジン特性を獲得する。EXUPは1987年に89万円で発売された2500台の限定車、FZR400Rで市販車に初採用。この1988年型で一般量産車に初めて装備された。サイレンサーはYZFをイメージした楕円断面に変更された。1986年型では対向2ピストンだったフロントブレーキは、1987年4月に発売されたシングルシートを備える限定モデル、FZR400R(2TK)に続いて対向4ピストンキャリパーを使う。Φ282mmと大径なフローティングディスクと相まって、レーサーを思わせる外観を得ている。FZRではゴールドに塗られたこのフロントブレーキキャリパーは、シルバー(ウルシブラック車体色車等)などに色を変更して他の機種にも採用され、制動力の向上はもちろん、スポーティな外観を与える点でも活躍した。リアブレーキは対向2ピストンキャリパーに肉抜き穴が並ぶΦ210mmソリッドディスクを組み合わせる。構成は1986モデルと同じで、リアの対向2ピストンは、当時のヤマハ製大小排気量スポーツモデルに多く使われた。ヤマハ「FZR400(1WG)」(1988年)の主なスペック・当時価格まとめ:岡本 渉/協力:バイカーズステーション、佐藤康郎、H&L PLANNING写真:平野輝幸関連のおすすめ記事【絶版名車解説】「FZR400R」1989年 - webオートバイ【絶版名車解説】「FZ400R」1984年 - webオートバイ『レーサーレプリカ伝 4ストローク編』好評販売中- 株式会社モーターマガジン社