SUBARU(以下、スバル)が昨年後半に500台限定発売した「クロストレック・ウィルダネスエディション」で、房総半島周辺の里山などをおよそ300km、走行した。スバルがなぜ今、ウィルダネスを日本に導入したのか。そもそもウィルダネスとは何なのか。日本におけるウィルダネス戦略を含めて、スバルの今後について、走りながら考えた。 試乗の起点は、スバルの本社がある東京都渋谷区恵比寿だ。 スバル本社が入るビルの1階にある東京スバルのショールームには、ビッグマイナーチェンジをした「ソルテラ」を中心に、「フォレスター」やクロストレックなど、スバル主力モデルが展示されていた。 そんな既存モデルの中にあって、「クロストレック・ウィルダネスエディション」はほかとは異なる希少車である。今回試乗した「クロストレック・ウィルダネスエディション」。房総半島の山中にて(写真:筆者撮影) 500台限定で、購入するには、2025年10月30日から11月30日までの1カ月間に実施していた抽選に申し込む必要があった。500台は、あっという間に完売した。 そのため、同モデルに興味があっても、試乗の機会がないユーザーもいるだろう。 まずは走り出す前に、認識していただきたいことがある。それは、このモデルがあくまでも「ウィルダネス・エディション」であり「ウィルダネス」ではないという点だ。アウトドアイメージを強調したウィルダネス Wilderness(ウィルダネス)は、スバルの主力市場であるアメリカで、オフロードの走破性を高め、アウトドアイメージを強調した「アウトバック」を皮切りに、商品をラインアップしたグレードのモデルとなる。 アメリカでは2010年代後半から2020年代初頭にかけて、「オーバーランド」と呼ばれる冒険心を持ったアウトドアライフスタイルのブームが到来。自動車関連では、アフターマーケットのみならず、自動車メーカー各社がオプションパーツや特別仕様車を仕立てるようになった。 こうした中で、そもそもアウトドア向きのイメージが強いスバルが、スバル北米法人の要請を受けて企画・立案したのがウィルダネスである。車内の様子(写真:筆者撮影) 対応モデルはアウトバックに次いで、フォレスターとクロストレックにも派生。特定モデル内のグレードというだけにとどまらず、スバル社内でも、新たなブランドと言える重要な存在となっている。 車両スペックを確認すると、アメリカのクロストレック・ウィルダネスの場合、専用サスペンションのほか、ボディ下面にはアンダーガードが装着されており、最低地上高は9.3インチ(236mm)にリフトアップされている。 エンジンは2.5Lのノンターボエンジンで、ファイナルギア比を変更して、低速でのタフな走りに対応した。タイヤはヨコハマのジオランダー17インチを履き、3500ポンド(約1588kg)の牽引能力を持つ。ウィルダネスが日本になかなか入らなかった理由 日本ではコロナ禍にキャンプブームが到来し、キャンピングカーやアウトドア系SUVの需要が拡大した。そのためウィルダネス第1弾のアウトバック・ウィルダネスがアメリカで発売された時点で、日本でも、ウィルダネスの導入を望む声が高まった。 だが、日本ではアウトバックが販売終了となり、その後に登場したフォレスター・ウィルダネスとクロストレック・ウィルダネスに対する期待が高まっていた。 しかし市場性の違いなどから、日本のフォレスターとクロストレックはハイブリッド車のみ。そのため、北米仕様のモデルを日本市場に導入することは難しいという状況にあった。 それでもスバルは、日本でできるだけ早く、ウィルダネスの雰囲気を味わってもらおうと考えて、特別仕様車として500台の限定販売に踏み切ったのがクロストレック・ウィルダネスエディションだった。走行に関わる部分も特別装備 クロストレック・ウィルダネスエディションには、「Touring」と「Limited」という2つのグレードがあり、今回試乗したのはTouring(税込価格399万3000円、別途工賃6万2920円)だ。 ボディ寸法は全長4480mm×全幅1800mm×全高1580mm(ルーフレール装着)。重量は参考値として、ベース車のTouringに対して、各種装備をした場合が1580kgになる。 外観では、ドアアンダーガーニッシュ、凸凹のある特別塗装のドアミラーカバー、マッドフラップ、ヘッドライトとリアコンビランプのガーニッシュ、フロントノーズガーニッシュ、フードデカール、ウィルダネスのリアオーナメント、マットブラック塗装の17インチアルミホイールと、TOYO TIRE OPEN COUNTRY A/TⅡを履く。 見た目のみならず、走行に直接関わる部分にも、特別装備がされている。例えば、フルLEDハイ&ロービームランプ、アレイ式アダプティブドライビングビーム、コーナーリングランプ&ステアリング連動ヘッドランプ、運転席10ウェイ&助手席8ウェイパワーシート、ステアリングヒーター&フロントシートヒーターなどだ。 ウィルダネスエディションについて理解していただいた上で、さあ、走り出そう。「けっこうイジっているクルマ」 渋谷区から港区、そして千代田区と都心部を行くと、いわゆるオフローダーとしてガシガシ走るといった感覚はない。だが、ビルの壁面に映る姿を見ると、アウトドアの領域を超えたオフローダーの雰囲気がプンプンする。周囲のクルマや歩行者からは「けっこうイジっているクルマ」に見えるのだろう。 乗り心地としては、ちょっとだけオフローダーっぽい。サスペンションはベース車のままなので、ベース車との違いはタイヤによる影響だ。とはいえ、走行音が大きくなったり、路面からの振動がかなり上がったりするといったレベルにはない。高速道路を走行する様子(写真:同乗者撮影) 首都高速道路では、路面のつなぎ目を乗り越える際の衝撃は想像していた以上にマイルド。その上、タイヤの剛性感がしっかりあるため、コーナーでクルマの足元が弱いといった雰囲気もない。オフロード走破性を高めるタイヤとホイールだが、オンロードでの音や振動は比較的少ない印象(写真:筆者撮影) アイサイトをONにしながら、快適なドライブで千葉の房総半島方面を目指し、山間部のワインディングや一部でダート走行も試みた。一部で、オフロード走行も試した(写真:筆者撮影)アウトドアを気楽に楽しめる走り 実際に運転してみて、想像と違ったのはパワートレインの感じ方だ。桜のシーズンが後半になった頃、房総半島を訪れた(写真:筆者撮影) クロストレックには2.5Lのストロングハイブリッド(S:HEV)がラインアップされており、マイルドとストロングでハイブリッド車の乗り比べをすると、パフォーマンスの差が明らかに大きいことを実感する。 ところがウィルダネスエディションは、2.0Lマイルドハイブリッドのみの設定ではあるものの、走りに物足なさは感じない。 ストロングハイブリッド車よりも約100kg軽いことが、アウトドアを気軽に楽しみたいというユーザーの志向にマッチしているのだと思う。 こうしてクロストレック・ウィルダネスエディションと過ごした3日間は、どこに出かけるにもなんだかワクワクする楽しい時間だった。これが、スバルが目指す「アドベンチャー」なのかもしれない。ウィルダネスの今後の戦略は? スバルはジャパンモビリティショー2025で、新しいブランド戦略として「パフォーマンス&アドベンチャー」を掲げた。 パフォーマンスでは、STI(スバル・テクニカ・インターナショナル)を、またアドベンチャーではウィルダネスを軸足としてグローバル展開を目指す。 日本においては、クロストレック・ウィルダネスエディションが、スバル新戦略の切り込み隊長と言えるだろう。 今回の試乗期間中、アメリカではニューヨークインターナショナルオートショーで、トヨタとスバルが共同開発したEV「ゲッタウェイ」が世界初公開された。同時に、ストロングハイブリッド搭載のフォレスター・ウィルダネスが登場。アメリカでは、2026年後半に発売される予定だ。 ウィルダネスはグローバル展開されるため、フォレスターやクロストレックでも、ストロングハイブリッドでの本格的なウィルダネスが登場する日も遠くないだろう。 100年に一度の大転換期と言われて久しい自動車産業界。スバルらしさを際立たせる切り札となるウィルダネスの今後の展開に期待したい。関連記事「次世代アイサイト」の姿が見えてきた! スバル「デジタルカー」戦略を支えるドイツ半導体大手との協業の深層自動運転の黒船・ウェイモが日本上陸? 2026年「フィジカルAI元年」ロボタクシーの衝撃苦境のホンダ、それでもF1を走り続けるのはなぜ? 鈴鹿で考えた経営危機と再起への意志