電動変形バイク「タタメルバイク」を製造・販売するICOMA(東京都渋谷区)は、ジャパンモビリティーショー2025(JMS2025)において、「トイボックス(おもちゃ箱)」をテーマに、個性豊かなモビリティを多数展示した。中でも注目を集めたのが、同社メカニックの豊永大空氏が自作し、実際に日本一周を成し遂げた原付ミニカー「セルフメイド」の商品化計画だ。◆日本一周4万6000kmを走破した自作ミニカーが受注生産へ展示の目玉となったのは、ケーターハムセブン風のデザインを持つ原付ミニカー「セルフメイド」。工業高校機械科を卒業し、現在ICOMAのチーフメカニックを務める豊永大空氏が、バイクのパーツを流用しながら、フレームやサスペンションアームなどを自ら設計・製作した完全自作の車両だ。「北海道から沖縄まで日本一周して、今では4万6688km(2025年10月14日現在)を走行しています。故障はほとんどなく、その場で対応できる軽微なトラブルだけでした」と豊永氏は語る。ICOMAの生駒崇光社長は「非常に素性の良い車両で、4万6000kmも走って壊れていない。彼の実体験のある乗り物づくりが素晴らしい」と評価。今回のJMS2025を機に、ICOMAの技術とデザイン力を活かしてブラッシュアップし、オーダーメイドでの受注生産を開始する。全長1995mm、幅950mm、車体重量170kgのコンパクトなボディに、最高速度70km/h(ミニカー規格のため60km/h制限)の性能を持つ。「目線が激低いので加速感がすごい。スーパーセブンに最も近い乗り味で、乗る楽しさを極めた車」(生駒社長)という。パワートレインは現在のエンジンから電動への換装も可能で、顧客の要望に応じてカスタマイズできる。◆ロボット化する未来のモビリティを提案もう一つの注目展示が、ロボティクス機能を搭載した小型電動モビリティだ。特定小型原動機付自転車規格(20km/h)で、タタメルバイクと同様の折りたたみ機構を持ちながら、カメラやデプスセンサーを搭載。簡易的なセンサーながら、人を認識して液晶ディスプレイの表情を変えて反応したり、喜んだり嫌がったりといったインタラクション機能を実装している。「iPhoneがUI/UXの革新で普及したように、電動モビリティやロボットがどう社会実装されるべきか、先行して考えたい。乗り物が愛らしくて、荷物を持ってくれたり、周りを見張ってくれるような、ペットのような存在になることが理想」と生駒社長は語る。スーツケースモードから変形して荷物運搬を支援する機能も備え、ポケモンのモンスターボールのような携帯性と機能性を目指している。現在はまだコンセプトの提案段階で、今後市場の反応を見ながら改良を重ねて販売を考えていくという。大阪万博で運用されたAIスーツケースの実機を展示ICOMAは、一般社団法人次世代移動支援技術開発コンソーシアムが開発する視覚障害者向け自律型ナビゲーションロボット「AIスーツケース」のプロダクトデザインと実働モックアップ制作も手がけている。LiDARセンサーやRGB-Dカメラ、RTK-GNSS(リアルタイムキネマティック衛星測位システム)を搭載し、障害物を避けながら目的地まで安全に誘導する。大阪・関西万博では2025年4月から10月まで全会期運用され、4800人以上が体験。日本科学未来館でも常時体験可能となっている。こうした先端技術開発で得た知見を、自社のモビリティ開発にも活かしている。◆木製カートで地域観光と教育に貢献元トヨタ東京自動車大学校講師で、ICOMAチーフエンジニアの水嶋徹氏が設計した木製カート「KAYACAR(カヤッカー)」も展示。特定小型原動機付自転車として初の木製カートで、16歳以上なら免許不要で乗車可能。最高20km/hでゆっくりと景色を楽しめる「陸のカヤック」というコンセプトだ。金型を使わず木材と板金で製作できるため、地域の町工場や木材店と協力して組み立てることで、モビリティの構造を学ぶ教育ツールとしても活用できる。観光地の木材資源を活用したコラボレーションやワークショップなど、地域活性化の可能性も秘めている。◆子どもの創造力を育むキッズバイク「KIDS BIKE」は、左右のサイドパネルに黒板素材を使用し、チョークで自由に絵を描けるユニークな電動キッズバイク。タタメルバイクから受け継いだ折りたたみ構造により、変形ギミックも楽しめる。最高速度6km/hの安全な速度設定で、初めてバイクに乗る子どもでも安心して楽しめる。ワークショップでは、子どもたちが自分だけのデザインを描いてから試乗体験ができ、「乗り物を通じて子どもたちの創造力を育む」体験型コンテンツとして、イベントや商業施設での展開を予定している。◆椿本チエインと共同開発の電動3輪Cargo株式会社椿本チエインとの協業による特定小型原動機付自転車「Full電動Cargo(仮称)」も出展。最大30kgまでの積載能力を持ち、デリバリーボックスやキャノピーなど多彩なオプションパーツで用途に応じたカスタマイズが可能。独自の安全機構「スイング機構」により、3輪ながら2輪に近い走破性を実現している。「ウーバーイーツなどの個人配達が増える中、原付免許不要で気軽に使える都市部向けのデリバリー車両として開発した」(生駒社長)◆プラスチックファスナーでカスタマイズ提案株式会社ニフコとのコラボレーションでは、自動車用プラスチックファスナーを活用したタタメルバイクのカスタマイズを提案。サイドパネルのパンチングボード状の穴にカラフルなファスナーを取り付けることで、自由なデザイン変更が可能に。JMS2025会場ではワークショップも実施し、子どもたちが自由にデザインを楽しんだ。◆タタメルバイクプラスでさらなる個性をタタメルバイクの進化版「タタメルバイクプラス」も披露。元ヤマハのデザイナーによるカスタムデザインで、グリップやフロントガード、新デザインパネルを装着。基本構造は同じながら、より本格的なバイクらしい外観を実現した。今後、様々なスペシャルエディションやアクセサリーパネルの展開を予定している。ICOMAは「トイボックス」=おもちゃ箱のテーマ通り、各メンバーが「一人一乗り物」という勢いで開発を進めており、今後も既成概念にとらわれない独創的なモビリティを世に送り出していく構えだ。