いまトヨタのコンパクトカーが熱い。GRヤリスを皮切りに1.6L直3ターボエンジン×4WDの同パワーユニットを搭載したモデルが3つもラインナップされている。しかもそれぞれATとMTを選択できるのだから、これほどハッピーでホットなハッチバックはないだろう。(Motor Magazine 2025年4月号より。文:西川 淳/写真:井上雅行)バリエーションの豊かさに感服確かに日本車には豊かな乗り味をシンプルに表現する力が概ね欠けている。そこは歴史と伝統の積み重ねがあるぶん、欧州ブランドの得意なところだろう。何しろ日本メーカーが気になる欧州車をバラし部品ごとにいくら真似て作ってみても、同じ官能性を出すには至らなかった、という都市伝説の類さえあるというのだから・・・。経験という埋められないギャップを超えんがため、国産ブランドの開発者たちは技術をただひたすら磨き続けるほかなかった。新たなテクノロジーの世界初実装にこだわり、最新技術のショーケースをもって新型車をアピールすることに重きを置いてきたのだ。フィーリングという主観でクルマを語るのではなく、パフォーマンスという客観で勝負する。今ならさしずめ中国の新興BEVブランドがラップタイム競争に明け暮れていることと同じだろう。国産ブランドもかつてはそうだった。誰にも文句の付けられぬ性能を複雑に組み合わせつつもリーズナブルに実現する力を養って、世界のトップレベルへと躍り出た。とくに性能と相性の良いモータースポーツの世界において・・・。最たる例がラリー競技参戦を目的にコンパクトで高性能な4WD乗用車というカテゴリーを深掘りし続けて現代に至ること、だろう。4WD乗用車の嚆矢はアウディ、と思われがちだが、そんなことではスバリストに叱られる。世界初の量産4WD乗用車、レオーネを忘れてもらっちゃ困る、と。ファン・トゥ・ドライブな走りが魅力の一台。トヨタ GR ヤリス RZ ハイパフォーマンス。四輪駆動×ターボ×MTを数多く輩出してきた日本車それはともかく1990年代から2000年代にかけて、世界のラリーシーンに活躍の舞台を見出した国産ブランドはこれまで、ホモロゲマシンを含む数々の競技用ベースモデルを輩出してきた。トヨタ セリカGT-FOUR、日産 パルサーGTI-R、三菱 ランサーエボリューション、スバル インプレッサWRX、スズキ スイフトスポーツ(イグニス)、ダイハツ ストーリアX4など、四輪駆動とマニュアルギアボックスを装備する(もしくは選択できる)スポーツモデルが多く存在した。F1やル・マン24時間耐久レースなどサーキット活動に勤しんだホンダとマツダを除けばオールジャパンといった様相であり、多くのモデルは今をときめくネオクラシックカーの人気モデルたちでもある。操る愉快さと力の痛快さ、そしてハイテックで欧州勢に負けないどころか例のないクールジャパンなクルマたち。結果的にユニークなドライブフィールを生み出した3ペダル+4WDのコンパクトな高性能モデル(しかもリーズナブル!)というカテゴリーは、今なお世界が認める日本の伝統芸なのである。自由自在な4WDは、ドライバーをHappyにする。トヨタ GR カローラ RZ(従来型)今注目したいトヨタの3台三者三様のモデルが揃う中でも今、トヨタが面白い。GRヤリス、GRカローラ、そしてレクサスLBXモリゾウRRと、競技目的か否かにかかわらず、3モデルも存在する。当然のことながら基本的なパワートレーン構成を共有しており、互いにまったく独立したモデルではない。一方でこれほど特殊なパワートレーンを個性の異なる複数モデルに水平展開した例は、バッジエンジニアリングやブロスカーを除いて、かつてなかった。特殊ゆえ水平展開など思いもよらなかっただろうが、だからこそモデルバリエーションを増やして投資を回収するという考え方もあったと思う。3台に共通する肝腎要のパワートレーンについて先に復習しておこう。いずれのモデルも1.6L直3ターボエンジン(G16E-GTS)+6速MTもしくは8速ATで、電子制御多板クラッチ式スポーツ4WDシステム「GR-FOUR」を搭載する。GRヤリス、GRカローラともに一度目のマイナーチェンジを終えているが、ヤリス版が増強したことで、3モデルのエンジンスペックも晴れて共通(最高出力304ps/最大トルク400Nm)となった。GRヤリスやGRカローラと共通した1.6L直3インタークーラーターボエンジンを搭載。0→100km/h加速は8速AT、6速MTともに5.2秒を実現する。まずは2024年、個人的にもっとも秀逸だと思った国産車=レクサスLBXモリゾウRRから。GRヤリスのプラットフォームにコンパクトSUVのスタイルを被せた「小さな高級&高性能車」だ。ラグジュアリーとハイパフォーマンスをコンパクトに凝縮する。実はありそうでなかったコンセプトで、過去の伝統芸モデルとは一線を画する存在だ。それでいて3ペダル・マニュアルギアボックス仕様も用意する。キャラに合わせて2ペダルのみに割り切った商品企画にしがちだが、あえてMTを残したところが「古くて新しい」。インパネはスエード調の表皮で覆われ、上質さも表現している。レクサス初の6速MTが設定されたのがモリゾウRRの特徴。乗ってみればヤンチャなパワートレーンから「ラグジュアリーに必要な高性能」、すなわち低回転域から豊かに伸びる力強さや自然かつ機敏な応答性、高回転域の心地よいエンジンフィールなどが見事に取り出されていて感心する。加えてスタンダードから下げられたドライビングポジションが功を奏して、SUVを走らせているという感覚に良い意味で乏しい。とにかく街でも峠でも乗っていて楽しいクルマだ。これぞ日本の4WDスポーツというべき仕上がりで、絶大な安心感とともに思いのまま曲がっていける感覚がある。そのうえMTには回す楽しみが、ATには速さを実感する気持ちよさがあった。自分で買うなら、ミッション選びで大いに悩むことだろう。3ペダルと2ペダルで甲乙つけ難いと思うモデルは今も昔も実はさほど多くない。GRは若い世代が興奮しアラカン世代は懐かしむLBXとは真逆に、もっとも伝統芸に礼儀正しいコンセプトを持つモデルといえば、もちろんGRヤリスだ。WRC参戦を念頭に置いて開発され、2024年にはついにラリー2用ホモロゲーションモデルも現れた。ヴィッツ後継モデルのヤリスという実用的なリッターカーに強力な4WDパワートレーンをぶち込み、それに相応しいがクルマそのものには相応しくないド迫力のフェンダー張り出しスタイリングを被せている。やんちゃな姿に若い世代は興奮し、ミスマッチな装いをアラカン世代は懐かしんだ。このカタチもまた、トヨタに限らず、クルマ好きにウケる伝統芸というものだろう。3台の中でもっともピュアなスポーツモデルだけあって、その性能はホットハッチなどと軽々しく呼びたくはない。実際、そのドライブフィールは競技用ベースマシンという前置きがよく似合うもので、ロードカーとしての妥協はあってもスポーツモデルとしてのそれはほとんど見当たらない。ジャングルジムのように骨ばったボディに支えられ、サスペンションが自らの仕事を思う存分にこなすといった乗り味で、とにかく踏んで曲がるぶんにはドライバーは愉快でしかない。力強いエンジンが常にドライバーを焚き付け、「踏めよ、曲げよ」の大合唱。8速ATならばもう少し落ち着けるが、それでも踏みまくらなければクルマに負けてしまいそう。従来型の272psから304psへ最高出力が増強された1.6L直3ターボエンジンを搭載する。最大トルクも370Nmから400Nmまでアップされるなど、性能向上が著しい。そんなGRヤリスに比べるとGRカローラ(従来型)はまだしもオトナのスポーツカーであった。ボディサイズと重量増が効いていて、パワートレーンとシャシ&サスペンションの元気さを上手く宥めて転がす感覚がある。それでも十分に力強く、ファンだ。ハンドリングは程よくニンブル、決してせっかちではない。加速フィールも途中からはヤリス同様に劇的だ。ときおり重さを感じさせるが、それは地に足をつけているという安心感にもつながる。むしろドライバーに心のゆとりがあるぶん、エンジンやシャシをじっくりと味わうことができた。インパネまわりはベースとなったカローラスポーツと同じ。機能性や視界の良さはカローラ譲りだ。乗り心地もGRヤリスに比べて常識的な硬さに収まっており、日常性も高い。LBXモリゾウRRに負けず劣らず実用のスポーツモデルであると言えそうだ。アラカンの欧州車好きが乗るにはGRヤリスはちょっと子どもっぽい。かといってGRカローラでは色気がない。1台ですべて、ちょっとしたスポーツ走行を含む、を賄いたいという読者にはLBXモリゾウRRの3ペダルを勧めておこう。トヨタ GR ヤリス RZ ハイパフォーマンス 主要諸元●全長×全幅×全高:3995×1805×1455mm ●ホイールベース:2560mm ●車両重量:1280kg ●エンジン:直3 DOHCターボ ●総排気量:1618cc ●最高出力:224kW(304ps)/6500rpm ●最大トルク:400Nm/3250-4600rpm ●トランスミッション:6速MT ●駆動方式:4WD ●燃料・タンク容量:プレミアム・50L ●WLTCモード燃費:12.4km/L ●タイヤサイズ:225/40R18トヨタ GR カローラ RZ(従来型) 主要諸元●全長×全幅×全高:4410×1850×1480mmmm ●ホイールベース:2640mm ●車両重量:1470kg ●エンジン:直3 DOHCターボ ●総排気量:1618cc ●最高出力:224kW(304ps)/6500rpm ●最大トルク:370Nm/3000-5550rpm ●トランスミッション:6速MT ●駆動方式:4WD ●燃料・タンク容量:プレミアム・50L ●WLTCモード燃費:12.4km/L ●タイヤサイズ:235/40R18レクサス LBX MORIZO RR 主要諸元●全長×全幅×全高:4190×1840×1535mm ●ホイールベース:2580mm ●車両重量:1440kg ●エンジン:直3 DOHCターボ ●総排気量:1618cc ●最高出力:224kW(304ps)/6500rpm ●最大トルク:400Nm/3250-4600rpm ●トランスミッション:6速MT ●駆動方式:4WD ●燃料・タンク容量:プレミアム・50L ●WLTCモード燃費:12.5km/L ●タイヤサイズ:235/45R19