ホンダが新たな電気自動車(EV)を公開した。その名も「インサイト」(INSIGHT)だ。日本での発売は2026年春を予定。3月19日に先行予約の受け付けを開始する。このEV、3,000台限定とのことだが、その理由とは? なぜ今、インサイトの名前が復活する? 事前取材で聞いた。ホンダの軽EV「N-ONE e:」は実際のところ売れている? 販売状況を調査 ホンダ「インサイト」ホンダが2026年春に日本で発売する新型EV「インサイト」 インサイトと聞いて思い浮かべるのは… 「インサイト」と聞いて思い浮かべるのは、1999年にホンダ初のハイブリッド車(HV)として誕生した2人乗りクーペである。当時、世界最高の燃費性能として「10.15モード」(その後、燃費のモードは「JC08」、そして現行の「WLTC」へと変わっていった)で35km/Lを実現し、東京都港区青山の本社ビルから鹿児島まで、無給油での走破を達成している。 ホンダ初代「インサイト」初代「インサイト」 HVの先駆者は1997年に初代「プリウス」を発売したトヨタ自動車だが、初代インサイトはあくまでガソリンエンジンを主体とし、モーターを補助機能として用いるホンダ独自の方式(IMA:インテグレーテッド・モーター・アシスト)を採用していた。 初代インサイトが2人乗りだったのは、世界一の燃費性能を目指したためだ。そのほか、「NSX」以来のアルミ車体技術を駆使して車体をアルミニウム合金で作るなど、超軽量なHVへの挑戦もあった。 その後、インサイトは3代目までモデルチェンジを重ねたが、2022年末をもって生産を終了していた。 それが今回、新たにEVとして再登場を果たしたのだ。 新型インサイトは1年3,000台限定! 理由は? インサイトの競合とみられるEVはトヨタ「bZ4X」、スバル「ソルテラ」、日産自動車「アリア」などだ。 新型インサイトの販売は、2026年度(2026年4月~2027年3月)で3,000台の台数限定となる。その背景についてホンダは、「日本はまだEVの本格的普及に至っておらず、普及への過渡期において、お客様もホンダ車の販売店も、EVに触れ、親しみ、慣れていく期間と捉え、いきなり何万台という大きな数字ではなく、着実にEV販売を前進させるため」と説明する。そのうえで、「2027年から販売を開始する『0(ゼロ)シリーズ』に“つなげていく”EVという位置づけでもある」という。 ホンダは「原点に立ち返り、移動体を0から考え直す。」というコンセプトを掲げ、EVの0シリーズを開発中だ。これによって、エンジン車やHVの概念にとらわれないEVの選択肢を提示する予定である。その前に、既存の車種を活用した軽自動車EVの「N-VAN e:」「N-ONE e:」を導入してきた。そして今回は、インサイトで登録車のホンダEVを市場に問うことになる。 中国では、東風Honda(中国の合弁企業)の「e:NS2」という車名でインサイトを2024年から販売している。EVとするうえで基になったのは、中国で販売している「ヴェゼル」(日本のヴェゼルとは異なるという)であるとのことだ。先に中国で実績を持つEVを、日本にも導入する流れである。日本市場への導入は、インサイト(e:NS2)開発段階から構想していた。 中国から日本へという輸入の仕方は米国のテスラも同様で、「モデル3」などは中国の工場で生産した製品を販売することにより、日本での価格を抑えている。米国から輸入するより輸送距離が圧倒的に短くなるためだ。 新型インサイトはいいクルマ? 実車確認 今回、インサイトを実車で見る機会があった。スッキリと明快な外観で、親しみを感じるクルマに仕上がっていた。室内も余計な装飾を控えた様子で、簡素ながら長時間を過ごしても飽きない心地よさが伝わってきた。 ホンダ「インサイト」 運転席に座ると、ダッシュボードはホンダが「フィット」から採用している平らな造形だった。これは見通しがよかったり、車幅感覚をつかみやすかったりといった利点を備え、安心して運転できるクルマという手ごたえをもたらす。そして、上下をやや楕円形にしたハンドルの奥に、横に細長いデジタルメーターがある。表示が明快で認識しやすい。ダッシュボード中央には、大きめの液晶画面がある。 簡素な仕立てだが安っぽさはなく、合理的だ。 EVは少ない部品で十分な性能をもたらす、従来のクルマとは違った存在であり、そうした特徴をインサイトは内外で表現している。 まだ試乗していないが、前後の座席は寸法にゆとりがあり、ゆったり座れる。体を確実に支えてくれる信頼感がある。「オデッセイ」以来、ミニバンで評判を得たホンダらしく、運転席と助手席の間はウォークスルーしやすい仕立てにもなっている。 ホンダ「インサイト」 特筆すべきは、シートヒーターやハンドルヒーターを装備しているのはもちろん、ダッシュボード下とドアの内側に輻射熱を利用した暖房機能を持つことだ。 輻射熱とは、空調やシートヒーターなどとは別に、熱源からの温度を体に感じられるようにする暖房の仕方である。たとえば、昔の火鉢や炬燵、あるいは焚火にあたるような温め方だ。 利点は、室内の空気を温める空調と違い、素早く体を温められること。また、空調でありがちな乾燥を予防できる。 さらに、シートヒーターやハンドルヒーターと同じように、消費電力が少ないことも利点だ。シートヒーターやハンドルヒーターは、空調のおよそ1/10ほどの電力で十分に温められる。これに比べ、輻射熱の場合はやや消費電力が多くなるようだが、それでも、空調で車室内すべてを暖房するより消費電力が低くなることが期待される。 空調を使うと2~3kWほどの電力を消費するとした場合、シートヒーターやハンドルヒーターはその1/10で済む。これなら、航続距離にもさほどの影響を及ぼさないはずだ。 輻射熱も、空調のように室内が暖まるまで寒いといった時間待ちがなく、シートヒーターやハンドルヒーターと同じように短時間で体を温める。 EVにとって、空調を使わずに快適な車内を作り出せるかどうかはとても重要だ。購入に際しては、この点の装備確認が不可欠である。その割に、輻射熱の利用はまだ限定的で、トヨタbZ4Xがダッシュボード下に装備しているくらいである。 シートヒーターやハンドルヒーターとともに輻射熱を活用するインサイトは、EVならではのコツをつかんでいる。そこには、0からEVを開発中の0シリーズから得た知見もいきているのではないだろうか。 航続距離は500km以上を実現 インサイトの主要諸元は、この原稿を執筆している時点(2026年1月末)でまだ公表されていない。前輪駆動車のみでの販売になるそうだが、競合とされるbZ4Xやソルテラ、そしてアリアの前輪駆動車は、満充電からおよそ500km前後を走行可能となっている。インサイトは500km以上を実現しているという。 グレードによって、bZ4Xやアリアなどは600kmから700km水準まで足を延ばせる車種がある。だが、自宅で充電できて、頻繁には遠出をしないのであれば、500km前後という数字は妥当な水準だ。1回の満充電で600kmや700km以上を走れても、普段そこまで走る機会がなければ、余計な重さを抱えて日々走ることになり、電費を悪化させる。 たまの遠出なら、300~400km走ったところで急速充電を兼ねて休憩をとることは、安全に目的に到着する助けにもなるはずだ。また同乗者にとっても、適度な休憩はドライブをより快適にする効果がある。 まとめると、インサイトは手ごろなEVだと思う。クロスオーバーSUVの位置づけも、人を乗せても荷物を運んでも、多様に使える車種といえる。 唯一の注意点としては、車高が1.6mを超えるようなので、立体駐車場は利用できないだろう。 価格が未定の段階だが、これからEVを体験しようという人にも親しみやすい1台ではないだろうか。 【フォトギャラリー】ホンダの新型「インサイト」 御堀直嗣 御堀直嗣 みほりなおつぐ この著者の記事一覧はこちら ホンダの軽BEV「N-ONE e:」はワンペダル操作に秘密あり? 開発陣に聞く!ホンダがプレミアムSUV「CR-V」を日本発売! 先行受注2,000台は上級グレードが大半?立体駐車場も余裕なホンダ「ヴェゼルRS」が登場! 全高低下で走りは変わる?