新型フォルクスワーゲン ゴルフ(8.5)。ついに日本の道を走る時が来た。デザインやインフォテインメントの刷新もさることながら、肝心の走りにおいて、これぞゴルフ、と呼べる剛健さを見せてくれた。(Motor Magazine 2025年4月号より/文:島下泰久)これぞボクらが求めるフォルクスワーゲン ゴルフの姿2月号でお伝えしたように、昨秋、私はゴルフ8.5と呼ばれる最新型のフォルクスワーゲン ゴルフを、その故郷であるウォルフスブルグ周辺で試乗してきた。そこにも記したが、2024年はゴルフ誕生50年という節目だったわけだが、実は日本にとっては、今年2025年こそ、ゴルフ導入50周年という記念すべき年となる。そのアニバーサリーイヤーに、いよいよ新型ゴルフが日本の道を走り始めた。そこで今回はゴルフeTSIアクティブ、そしてヴァリアントeTSIスタイルの2台でショートトリップに出かけた。さて、走り慣れた日本の道で、新しいゴルフは一体どんな印象をもたらしたのだろうか?モデルチェンジの度に多くの話題を提供し、時に物議を醸してきたゴルフだが、改良前の通称ゴルフ8に対する批判は、ひと際厳しいものだと感じられた。矛先が向いたのは、まずはその操作系。デジタルコックピットプロ採用に伴いハードスイッチが減らされ、代わりに多くが静電容量スイッチに置き換えられたこと、インフォテインメントシステムの使いにくさ、機能の乏しさといった部分が「ゴルフらしくない」と断ぜられることとなったのだ。今回の試乗車、フォルクスワーゲン ゴルフ eTSI アクティブ(左)とゴルフ ヴァリアント eTSI スタイル。ピープルズカーの代名詞たるゴルフは、老若男女誰が乗ってもすぐに、容易に使いこなせるクルマでなければ。世間の期待が大きいからこそ、評価が厳しいものとなったのは事実だろう。エントリーとなるeTSIアクティブのエンジンが1L直3ターボとなったことも、ユーザーを落胆させたようである。マイルドハイブリッドシステム(MHEV)を組み合わせるeTSIということもあり、動力性能には不足はなかったが、やはり3気筒はゴルフのユーザーには受け入れ難かった。昔ならばいざ知らず、今やゴルフは大衆車というポジションのクルマではないだけに、それも無理からぬことだろう。加えて、フォルクスワーゲンが電動化に傾注するあまり、ゴルフというブランドにとって最大の功労者を蔑ろにしているかのように見えたことも、ファンの反感を買ったのではないかと私は見ている。ID.3の発表の際の、ゴルフの歴史はもうすぐ終わって、このクルマに引き継がれるという趣旨の説明には、私も大いに腹立たしく感じたものである。最後の部分はともかくとして、新型ゴルフは向けられた批判に真摯に向き合い、開発されたのだと2月号でインタビューを行ったプロダクトマーケティングマネージャー、ミハエル・ブラウ氏は話してくれた。高性能なだけでなく、誰にとっても親しみやすく扱いやすい相棒のようなクルマ、そんな価値が改めて追求されたのだ。話題を呼んだゴルフ8。8.5は「らしさ」を追求ドイツからの報告と重なる部分も多々あるが、まずはそんな新型ゴルフの変更点をチェックしていこう。外観は前後のライト類やバンパーの形状といったマイナーチェンジの定番的な変更が加えられている。シグネチャーランプはグリルまで連なるLEDバーとなり、バンパー開口部が小さくなったこともあって、顔つきは全体にスッキリとした印象である。そして「VW」マークのイルミネーション。こちらはeTSIスタイル以上に標準装備、eTSIアクティブにはオプションとされた。ギラギラと主張するのではなく、輪郭を程良く際立たせるこれは、らしさを崩すことなくプレミアム感を付与するもので、私としてはとても気に入っている点だ。リアについては変更点はさらに少ない。LEDテールランプは全車に備わるが、ダイナミックターンインジケーターは上級グレードだけの装備となる。ゴルフ eTSI アクティブ。テールライトのデザインを刷新、先進性を高めた印象。ゴルフらしいシンプルなリアデザインは継承される。やはり見どころはインテリアだろう。ダッシュボード中央に位置するのは新設定のインフォテインメントシステム「Discover」の12.9インチタッチスクリーン。今どきは、こうした大画面をダッシュボードに一体化させているクルマが多いが、マイナーチェンジということもあり、こうして存在感ある置き方とされている。ゴルフ eTSI アクティブ。12.9インチの大型センターディスプレイを採用した最新インフォテインメントシステムを搭載。音声操作の進化やエアコンの温度操作や音量調整を行うタッチスライダーにバックライトが追加されるなど、使い勝手も向上。表示は3層に分かれていて、一番上にはナビゲーション、車両設定、運転支援システムといった各機能の呼び出しボタン、中央にはメインのコンテンツ、そして最下層にはエアコンのオン/オフやホームボタンなどが置かれる。それぞれの表示は十分わかりやすく、操作レスポンスも良い。目新しいもの、凝ったことは特にないのだが、そのぶん明快で操作に迷うこともなさそうだ。音声認識システムが大幅に進化した8.5音声認識システム「IDA」も搭載された。「ハロー、アイダ」の声がけで起動し、たとえば「足元が寒い」と言うとヒーターが入ったり、自宅が設定してあれば「自宅に帰る」でナビゲーションが設定されたり、といった働きをしてくれる。操作感はまずまずと言いたいところだが、目的を入力する際に住所を都道府県から伝えないといけなかったりと、まだまだ融通が利かないところも。本国仕様ではChatGPTと接続して、こうしたところを助けてくれるようになっている。日本語版の開発、導入を期待したい。画面のさらに下に、指でなでるような操作によって温度調整を可能にするタッチスライダーが備わるのはこれまでどおり。バックライト付きとなったことで、夜間の操作でも困らなくなった。新インフォテインメントシステム「MIB4」は音声による機能操作「IDA(アイダ)ボイスアシスタント」を搭載する。「ハロー、IDA」や「ハロー、フォルクスワーゲン」と呼びかけると起動し、車両設定やエアコンなどを音声操作できる。レスポンスが非常に早く、使い勝手に優れているのが特徴。冒頭に記したとおり、操作系の多くをタッチスイッチやインフォテインメントシステム内にまとめたことは歓迎されたとは言えず、結果として今回は上級グレードのハンドルは物理スイッチに戻されているが、すべてをやめてしまったわけではない。開発側として良いと信じたものは、こうして改良を加えた上で残されてもいる。私自身はコレ、目くじらを立てるほど扱いにくいとは感じておらず、慣れれば悪くないと思っていたので、この柔軟に対応しつつも主張は捨てない態度、いいじゃないかと思った次第である。走りにかかわる部分での最大のトピックは、eTSIアクティブのパワートレーンが1.5L直4ターボに置き換えられたこと。要はeTSIスタイル用ユニットの出力を落としたものとなる。48Vシステムを用いたMHEVを組み合わせることも変わりはない。従来の1L直3ターボから1.5L直4ターボへサイズアップしたゴルフ eTSI アクティブのパワートレーン。BSGを搭載したMHEV仕様である。実は目に見える変更はこれぐらい。シャシについても同様で、これもミハエル・ブラウ氏が話していたように、高く評価されている部分について、あえて手を入れるようなことはしていないのだ。最初にハンドルを握ったのは、まさにそのeTSIアクティブである。試乗車はオプションのDiscoverパッケージ、テクノロジーパッケージ付きということで、フード先端の「VW」マークが光っていて、それだけで不思議と新しいクルマに触れるという気分が盛り上がった。排気量と気筒数アップで走りの余裕は一段増した走り出すと、すぐに違いを感じることとなった。全体に走りの余裕が一段増しているのだ。最高出力116ps、最大トルク220Nmというスペックは、従来の1Lに対して6ps、20Nmの向上だから、数値的には大したことはないはずなのだが、やはり地力があるということだろうか。低速域では、従来もエンジンの線の細さを19ps、56Nmの電気モーターがうまく補っていて、まったく不満はなかった。違いを感じるのはむしろペースを上げていった時の湧き上がるような力感で、従来の軽快に回る感じも嫌いではなかったが、多くの人が納得するのは、やはり新型の方だろう。フットワークは相変わらずの軽やかさ。ゴルフ8登場時に驚いた、まるでフランス車かと思わせる足捌きのしなやかさは健在で、乗り心地がいいのに加えて、コーナーでタイヤを執拗に接地させ、スルリと駆け抜ける走りは実に楽しく、そして懐深さが感じられる。ゴルフ eTSI アクティブが装着する17インチホイール。リアサスペンションはアクティブのみトーションビーム式となる。ただし、タイヤと路面のコンタクト感は、やや固めに感じられた。試乗車が履いていたのは燃費重視の銘柄だったから、その影響もあるのかもしれない。続いてヴァリアントeTSIスタイルへ。ベースは同じエンジンと言えども、こちらは最高出力150ps、最大トルク250Nm。それでも今の時代、目を瞠るようなスペックではないが、車重もそれなりに嵩むヴァリアントを軽快に走らせてくれる。低速域からドライバビリティに優れ、回すほどにきれいにパワーが出てくる感覚は、程良くスポーティ。フォルクスワーゲンは内燃エンジン、続けないともったいない。ホイールベースが50mm伸ばされたヴァリアントだが、乗り心地やハンドリングはちゃんとゴルフ。美点である優れた直進性、フラットな乗り心地はもちろん、コーナーが連続する区間での操る歓びだって失われていない。ゴルフ ヴァリアント eTSI スタイル。ホイールベースの延伸によりリアシートの膝まわりスペースがハッチバックモデルと比べて大幅に拡大されたヴァリアント。リアサスペンションは、eTSIアクティブのトーションビームに対して、eTSIスタイルでは4リンクと呼ばれるマルチリンクとなる。そのあたりもこの望外の旋回感の要因かもしれない。ともあれ、どちらを選んでも紛れもないゴルフ。直撃するような面白みはないが、どんな場面でも快適で、信頼でき、運転の楽しさをしみじみ実感させてくれる。そんな仕上がりとなっていた。初代や2代目の時代にゴルフというクルマの存在感を押し上げた一番の原動力は、圧倒的なハードウエア性能だったに違いない。それ自体が、まだ見ぬ世界に誘ってくれそうだというエモーションを喚起したのである。原点に立ち返ったような、極めてゴルフらしい仕上がり今、日本車を含むライバルたちは力をつけ、また乗用車の主流はSUVに移っている。価格の上昇も相まって、その良さが伝わりにくくなっているのは事実だろう。本来は、走りの部分のみならず、派手なアピールがあるわけではないけれど実直に作られていて、付き合い出すとずっと離れられない相棒のように寄り添ってくれるのがゴルフというクルマである。嬉しいことに最新のゴルフは、そうした原点に立ち返ったような、極めてゴルフらしいクルマに仕上げられていたように思う。見過ごすのは、もったいない。50周年に相応しい貫禄ぶりを見せた今回の試乗車、フォルクスワーゲン ゴルフ eTSI アクティブ(右)とゴルフ ヴァリアント eTSI スタイル。日本上陸から50周年。けれど人間で考えれば今どき、50歳なんてまだまだ若い(でしょう?)。BEVとなる次期型、内燃エンジンを積むゴルフのメキシコへの生産移管など、相変わらず話題は賑やかだが、この先もゴルフにはゴルフらしく歴史を刻んて行ってくれることを期待したい。フォルクスワーゲン ゴルフ eTSI アクティブ 主要諸元●全長×全幅×全高:4295×1790×1475mm●ホイールベース:2620mm●車両重量:1320kg●エンジン:直4 DOHCターボ+モーター●総排気量:1497cc●最高出力:85kW(116ps)/5000-6000rpm●最大トルク:220Nm/1500-3000rpm●モーター最高出力:14kW(19ps)●モーター最大トルク:56Nm●トランスミッション:7速DCT●駆動方式:FF●燃料・タンク容量:プレミアム・51L●WLTCモード燃費:18.8km/L●タイヤサイズ:205/50R16フォルクスワーゲン ゴルフ ヴァリアント eTSI スタイル 主要諸元●全長×全幅×全高:4640×1790×1485mm●ホイールベース:2670mm●車両重量:1410kg●エンジン:直4 DOHCターボ+モーター●総排気量:1497cc●最高出力:110kW(150ps)/5000-6000rpm●最大トルク:250Nm/1500-3500rpm●モーター最高出力:14kW(19ps)●モーター最大トルク:56Nm●トランスミッション:7速DCT●駆動方式:FF●燃料・タンク容量:プレミアム・51L●WLTCモード燃費:18.3km/L●タイヤサイズ:225/45R17