2011年11月、ホンダから新しい軽乗用車「N BOX」が登場した。低迷していた軽自動車をイチから作り直した革新的モデルで、その後のNシリーズの大成功の第一歩となった。今回は大きな注目を集める中で行われた国内試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2012年3月号より)新しいプラットフォームでこれまでにない広い空間を創造Nシリーズの復活は、軽自動車へのホンダの新たな回答であり、市場への意欲を示している。かつてまだホンダに2輪車メーカーのイメージが強かった1967年、ホンダは満を持して軽自動車「N360」を発表、その常識破りのクルマ作りで市場を驚かせた。バイクのエンジンを思わせる高性能高回転型4ストローク空冷直列2気筒SOHC、4隅にタイヤを配した合理的なFFレイアウトなど、それまでの軽自動車では考えられないものだった。そしてこのN360はあっという間に軽自動車市場を席巻してしまった。ホンダにとってこれが初めての本格的な量産乗用車で、その成功をきっかけに、小型乗用車の分野に進出していくことになる。そのN360から44年、ホンダが再び軽自動車をイチから作り直そうと考えたのが新しい「Nシリーズ」であり、その第一弾となるのがN BOXだ。「N」にはニュー、ネクスト、ニッポン、乗り物という意味が込められているというから、「次世代ニッポンの新しい乗り物」というわけだ。 N BOXには標準仕様とより上質で個性的なカスタム仕様があり、カスタム仕様にはターボバージョンも用意される。N BOXは軽自動車の概念を超える広さ、便利さ、経済性を備えたスモールハイトワゴン。ホンダのクルマ作りの原点であるMM思想(マンマキシマム・メカミニマム)の下、まったく新しいプラットフォームから、これまでにない空間を創造していることにまず注目したい。室内の広さはまさに驚愕。ホイールベースを100mmも拡大し、ホンダ独自のセンタータンクレイアウトを採用したことにより、室内長、高さとも文句なしに軽自動車ナンバー1となっている。その広さを最大限に生かすため、あえて後席にスライド機構を採用していないのも注目点。荷室に灯油ポリタンク4個が積める余裕を確保しながら、後席を座面2分割跳ね上げチップ式とすることで、ベビーカーを畳まずに載せることができる空間を生み出している。また後席はワンアクションで畳むこともでき、畳めば高さ1400mm、長さ1560mmの軽自動車とは思えない広大な荷室空間が出現する。リアハッチゲート開口部の地上高はわずか480mmなので、身体ごと乗り込んで自転車を積むこともできる。注目すべきは軽自動車とは思えない作りの良さプラットフォームだけでなく、パワートレーンも新設計。エンジンは可変バルタイやスイングアーム式ロッカーアームのDOHCなどレースで培われた燃焼技術を使って設計されたもの。CVTもこのエンジンに合わせて新開発されたもので、パワーを効率よく伝達する。そのスペックはNA仕様で58ps/65Nm、ターボ仕様は64ps/104Nmを発揮、それでいながら10・15モード燃費はそれぞれ22.0km/L、18.8km/L(ともにFF)を達成している。こうなると気になるのが走りだが、さすがにホンダだけのことはある。ハイトワゴンであっても走りを我慢したりしない。ターボ仕様はもちろん、NA仕様でも、車重1トン近いボディを軽々と力強く走らせる。高速でも交通の流れをリードできるほどの余裕がある。残念なのは、タイトなコーナーでやや不安定になること。タイヤサイズの設定はグレードによって異なるが、とくに13インチでは不安感があった。パワートレーンの低重心化を図っているが、車高が高いためロールセンターが高くなっているようだ。そういう走りをするクルマではないが、アクセルペダルを踏み込めば元気よく走るだけに、気になるユーザーも多いかもしれない。一方、装備や品質の充実ぶりは満足できるものだ。キーレスエントリー、プッシュエンジンスタート、ESPを全車に標準装備。またターボ車を除く全車にアイドリングストップも装備している。さらに注目すべきは作りの良さで、それはシートによく表れている。たっぷりとしたサイズとホールド性には感心した。表皮の肌触りやインパネ素材の質感もよく、視界の良さとあいまって、運転しやすく、とても快適だ。プラットフォームを一から新開発して、これだけ内容を充実させているということは、相応の量産効果も見込んでいるはず。N BOXに続く、第2弾、第3弾の登場に期待がふくらむ。(文:Motor Magazine編集部 松本雅弘)ナビ装着用スペシャルパッケージ、ナビゲーション&リアモニターセット、ETCユニットをオプション装着。ホンダ N BOX カスタムG Lパッケージ FF 主要諸元●全長×全幅×全高:3395×1475×1780mm●ホイールベース:2520mm ●車両重量:960kg●エンジン:直3DOHC●排気量:658cc●最高出力:43kW(58ps)/7300rpm●最大トルク:65Nm(6.6kgm)/3500rpm ●トランスミッション:CVT●駆動方式:FF●車両価格(税込):155万円(2012年当時)