ニュートラル惰性走行の落とし穴 下り坂でニュートラルに入れて惰性で走行すると、燃費が向上するように感じられる。しかし実際にはリスクが高い。【画像】「えぇぇぇぇ!」 これが世界最大の「タイヤ」です!(7枚) 現代の燃料噴射式車両では、ギアを入れたままエンジンブレーキを使った場合に比べ、ニュートラルでの惰性走行の方が燃料消費が増えることが多い。 さらに、ニュートラルでの惰性走行は車両の制御性を低下させる。ブレーキへの負担が増え、摩耗や機械的な損傷を招く可能性もある。特にマニュアルトランスミッション車では影響が顕著であり、米国などでは違法とされる場合もある。現代車の燃料制御自動車(画像:写真AC) エンジンがドライブトレインから切り離される、すなわちニュートラル状態では、燃費が向上すると思われがちだ。 下り坂で重力に任せて車を動かすと、タコメーターはアイドリング回転数まで下がる。一見、燃料消費が減るように見える。しかしこの直感は古い理解に基づく。キャブレター時代のエンジン構造を前提にしており、現代の燃料噴射システムやエンジン制御ユニットの挙動は考慮されていない。 さらに、ニュートラルでの惰性走行はブレーキへの依存度を高めるため、安全性や機械的リスクが増す。現代の車両は、減速時に条件次第で燃料供給を完全に停止する電子制御システムで管理されており、ニュートラル惰性走行は燃費向上にはつながらない。エンジンブレーキの仕組み自動車(画像:写真AC) ニュートラルで燃料を無駄に消費する理由を理解するには、走行中のエンジンの状態を整理する必要がある。主に三つの状態がある。 ひとつは、エンジンが車輪を駆動している状態で、加速や巡航時に当たる。二つ目は、車輪がエンジンを回している状態で、減速時に働くエンジンブレーキがこれに該当する。三つ目は、エンジンがアイドリングしている状態で、ニュートラル時が該当する。 現代の燃料噴射エンジンは、電子制御モジュール(ECMまたはECU)によって、スロットル開度やエンジン回転数、車速など複数の情報をもとに燃料噴射量を精密に制御している。 ギアを入れたまま下り坂を走行し、アクセルペダルから足を離すと、車輪はドライブトレインを介してエンジンを回す。これがエンジンブレーキである。多くの現代車では、この状態でECUが燃料供給を完全に停止する。エンジン回転は車両の運動エネルギーで維持されるため、燃料を噴射する必要がない。結果として、エンジン回転数が一定以下に下がるまでの間、燃料消費は実質ゼロになる。エンジンブレーキの効率性自動車(画像:写真AC) ニュートラル状態では、エンジンが車輪から切り離され、強制的にアイドリング状態になる。アイドリングを維持するには、少量であっても継続的な燃料供給が必要だ。ECUはエンジン回転数を維持するため燃料を噴射し続けるため、下り坂で走行していても燃料は確実に消費される。 その結果、現代の多くの車両では、ギアを入れたままエンジンブレーキを使うより、ニュートラル惰性走行のほうが燃料消費が増えることが多い。この差は、減速時に燃料カット制御が確実に実装されている車ほど顕著である。 この挙動から二点が明確になる。第一に、ニュートラル惰性走行は燃費向上策として信頼できず、逆効果になる場合が多い。第二に、エンジンブレーキは燃料を消費せずに車両を減速させる効率的な手段である。 結論として、ニュートラル惰性走行は燃費面でも安全面でも合理性に欠ける運転方法である。ギア操作と車両制御の遅延自動車(画像:写真AC) ニュートラル惰性走行は燃費を低下させるだけでなく、安全リスクもともなう。 ギアが入った状態では、運転者はアクセル操作ひとつで速度を即座に調整できる。アクセルを戻せばエンジンブレーキが働き、踏み込めばすぐに加速力が得られる。 しかしニュートラル状態では、この両方が失われる。危険を察知した場合、運転者はまずギアを再選択する必要があり、その分の遅れが生じる。オートマチック車では遅延は比較的短いが、完全にゼロではない。マニュアル車ではクラッチ操作とギア選択が必要で、緊急時には操作ミスのリスクが高まる。 さらにニュートラル状態では、駆動力による姿勢制御が失われ、車両の挙動が不安定になりやすい。エンジンブレーキはドライブトレイン全体を安定させ、ステアリングレスポンスも向上するが、ニュートラルでは急な荷重移動時の挙動が予測しにくくなる。 長い下り坂で摩擦ブレーキだけに頼ると、ブレーキ温度が急上昇し、制動力の低下や制動距離の延長、パッドやローターの摩耗が進む。極端な条件では、ブレーキオイルの沸騰やローターの歪みなど、重大な故障につながる可能性もある。