時代が変わっても、変わらない価値がある。現代における「スポーツカー」は、もはや「速い・低い・2ドア」だけでは語れない。求められるのは、走る歓びと日常性の両立、そして時代との調和。大切なのは、スペック以上にドライバーの感情を揺さぶるかどうか。いま一度、スポーツカーの本質に向き合いたい。ここで扱うスポーツモデルはターボエンジンと4WDシステムを搭載するという共通点もある。だが、エンジンと駆動システムへのこだわりと目指した走りの方向性が実は大きく異なる。今回はフォルクスワーゲン ゴルフRとスバル WRX S4、トヨタ GRカローラの3台によるロングドライブをとおして、その違いと魅力をあぶり出していく。(MotorMagazine2025年9月号より。文:大谷達也/写真:永元秀和)ジャンルと車格は近くても走行メカニズムは異なる3台直接のきっかけは、おそらくゴルフRだったはず。いわゆる「8.5」の進化が目覚ましく、その魅力を再認識した編集部がCセグメント4WD/2ペダルスポーツの強豪をピックアップ。ここで選ばれたのが、先ごろ大規模なバージョンアップを受けるとともにATモデルが追加されたGRカローラであり、国内Cセグメント4WD/2ペダルスポーツの王道ともいえるSUBARU WRX S4 STIスポーツ(以下、WRX S4)だったというわけだ。画像: ジャンルと車格は近くても走行メカニズムは異なる3台それぞれの特徴を簡単に説明しよう。3台中、ボディサイズがもっとも小さいのに、もっともパワフルなエンジンを積んでいるのがゴルフRで、2L直4ターボエンジンの最高出力は333ps、最大トルクは420Nmに達する。しかも、この大トルクを2100rpmの低回転から生み出す一方で、最高出力は5600〜6500rpmで発揮するという、フラットトルクタイプなのに高回転域の伸びが良い点も特徴のひとつ。また、コンパクトボディゆえに車重が1520kg(車検証記載値。以下、同様)と比較的軽いことも見逃せないポイントだ。排気口は4本出しで、バンパー下部はディフューザー形状となっている。車名ではなく、控えめな「R」エンブレムがバックドア中央に配置される。ゴルフRの次にボディサイズがコンパクトなのはGRカローラ。それでもゴルフRに比べて全長は115mm長く、全幅は60mmも広い。GRカローラのパワートレーンはGRヤリス用がベースで、1.6L直3ターボエンジンから304psと400Nmを絞り出す。ただし、比較的排気量が小さいゆえに最大トルクの発生回転数は3250rpmからと、ゴルフRや後述するWRX S4に比べるとやや高め。これを、最軽量の車重(1510kg)でどうカバーするかがGRカローラの見どころといえる。3本出し排気口の中央には排気バルブを備え、エンジン高回転時にはこれを開放して排圧を低めることで排気抵抗を抑える。これにより3気筒ながら300psを超える高出力化を実現。3ボックススタイルのWRX S4はご想像のとおりボディサイズがもっとも大きく、ゴルフRより375mm、GRカローラと比べても260mm長い。2675mmのホイールベースも3台中最長(ゴルフR:2620mm、GRカローラ:2640mm)で、車重もライバルより約100kg重い1620kgとなる。このためエンジン排気量が3台中もっとも大きい2.4Lとしたのは当然の判断だが、そのわりに最高出力は275ps、最大トルクは375Nmとこの3台のなかでは控えめ。ただし、最大トルクの発生回転数は2000~4800rpmで、低速回転域での力強さが目立つ。大型リアスポイラーはメーカーオプション。バンパー下部の中央にはリアフォグランプを装備。ブラックの樹脂パーツの表面は亀甲模様に見える加工が施されている。これはわずかな凹凸により空気の流れを整えることを狙った工夫のひとつ。トランスミッションはWRX S4のみCVTで、ゴルフRは7速DCT、GRカローラは8速ATとなる。また、4WDシステムで注目されるのがゴルフRのトルクベクタリングシステムで、コーナリング中は電子制御によりアウト側の後輪により大きなトルクをかけることが可能。これによって軽快なコーナリングを実現しようとするものだ。スポーツモデルでもスバルの信条をないがしろにしない最初に試したのはWRX S4。低速域ではいかにもダンピングレートが高そうなソリッド感が伝わってくるが、車速を上げるにつれてサスペンションのしなやかさが強調されるようになり、快適性は高い。それでいてボディはフラットに保たれる、いかにもSUBARUらしいセッティングだ。しなやかな足まわりは荒れた路面やコーナリング中でも安定したグリップ力を約束してくれるので、安心感やスタビリティは高いレベルにある。これもまたスバルの「安心・安全」思想を具現化したものといえる。スバル WRX S4 STIスポーツ R-BLACK リミテッド:高速巡航時には快適な走りからグランドツーリング性能にも長けていると感じた。またCVTはダイレクト感があり、ネガティブな印象は一切なかった。エンジンはフラットトルクゆえに回転域を問わず従順で扱い易く、その一方でトップエンドまできれいに回る。また、スポーツ派ドライバーからしばしば苦言が呈されるCVTだが、そういった向きはマニュアルモードを用いてステップドギアのMTに近い感覚を手に入れようとしているのではないか。私はSTI S210の試乗会でレーシングドライバーの久保凜太郎選手から「Dレンジのほうがむしろ速い」という話を聞いて以来、スバルのCVTモデルでは積極的にDレンジを試してきたが、WRX S4でスポーツモードを選ぶと、Dレンジでもエンジン回転数を常にパワーバンド内に留める制御に切り替わり、MT以上にパワフルでスポーティなドライビングが楽しめるようになる。もっとも、これはスバル独自のCVT制御プログラムが無段階変速のポテンシャルをフルに引き出すからこそできる芸当。というわけで、スバルのスポーツモデルでもマニュアルモードにこだわってきた方々には、ぜひ、このDレンジを試していただきたい。SGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)と前後輪のトルク配分をセンターデフで前45:後55に不等配分するVTD-AWD(不等&可変トルク配分電子制御AWD)を組み合わせて旋回性能と走行安定性を両立した。このように「安心・安全」が強調されていて、シャシもエンジンもほどよく洗練されているWRX S4は、快適なだけでなくダイナミックな走りもできるが、「ヒリヒリするような刺激感」には欠ける。その点、スプリントタイプのスポーティモデルというよりはロングツーリング向きのグランドツアラーと捉えた方がよさそうだ。どこか懐かしい荒々しさは まさにチューニングカー続いて試乗したGRカローラは、WRX S4とは正反対のキャラクターだった。まず、3気筒エンジンのうなるようなサウンドが容赦なくキャビンに侵入してくる。アクセルペダルを緩めたときに「プシュー!」という音を響かせるのはウェイストゲートバルブの仕業だろうが、ここまでハッキリとそのサウンドが聞こえるロードカーは個人的に初めてだったように思う。トヨタ GRカローラ RZ:舗装路からグラベルまでオールマイティに対応するGRカローラの走りは、今回の試乗車の中で最もスパルタンな印象だった。エンジンの特性も、ボトムエンドではやや物足りなかったトルクが3000rpmを越えたあたりから急激に高まり、かつての「ドッカンターボ」を髣髴とするような迫力ある加速感を味わえる点が特徴的だ。乗り心地自体は決して悪くないが、どちらかといえば路面のゴツゴツとした感触を明確に伝えるタイプ。そのせいか、荒れた路面では瞬間的にグリップが薄れることがあり、その感触を両手でしっかりと感じながらステアリングホイールを操ることになる。人によってはこれを「洗練されていない」と感じるかもしれないが、一方で「ダイレクト感があって、クルマを操る満足感を味わえる」と捉える向きもあるはず。好みが分かれるところだ。GRカローラには、ラリーやオンロードレースで得られた知見を活かしたアクティブトルクスプリット4WDシステム「GR-FOUR」が採用。コーナーリング時などに前後輪のトルク配分最適化して旋回性能を高める。GRヤリスに続いてGRカローラにも搭載された8速AT「GR-DAT」は、遊星ギアを用いた立派なステップド・ギアボックス。ただし、日本のタイトなコーナーが続くワインディングロードではギア比がぴったりと合っている感触が乏しく、エンジン回転数がパワーバンドから外れてしまうことも少なくなかった。したがって1.6Lターボエンジンのパフォーマンスをフルに引き出すなら、6速MTモデルのほうが有利かもしれない。総じてGRカローラは「トヨタのスポーツモデル」というより「GRが作ったトヨタ車のチューニングカー」と呼ぶ方が相応しいくらいにダイレクトで、ある種の荒々しさを感じるクルマだった。その走りはドライバー次第で紳士的にも獰猛にも化ける最後のゴルフRは、WRX S4とGRカローラの中間というか、両方の世界観を兼ね備えたようなスポーツモデルである。エンジンは静かで滑らか。乗り心地だって、ワインディングロードを走る速度域だったら決して悪くない。おかげでタイヤが生み出すグリップ力は安定していてスタビリティは良好。軽く流す範囲でいえばWRX S4に迫る安心感と快適性が得られるはずだ。フォルクスワーゲン ゴルフR アドバンス:あらゆる走行シーンで快適性と走行性能を高い次元で融合させていたゴルフR。まさに万能選手という言葉がマッチする。ただし、積極的に走るとゴルフRはまた違った側面を見せる。とにかくエンジンパワーが強烈で、アクセルペダルを強く踏み込めば、どんな速度域でも目の覚めるようなダッシュ力を発揮してくれるのだ。しかも7速DCTのシフトスピードは素早く、ダイレクト感も文句なし。おかげでフィルムを早回しにした映画のように周囲の景色が速く流れ始め、スリリングなドライビングを楽しめる。しかも、コーナリング中に右足に込める力を意識的に増やすと、後輪から回り込んでいくような感覚を味わえる。これこそ、前述したトルクベクタリングの効果で、基本的なハンドリング特性としては安定志向が強い4WDモデルでありながら、まるで後輪駆動モデルのように軽快な挙動を引き出せるのだ。この結果、コーナリングの曲率や車速などがピタリとはまると、コーナー出口ではハンドルを少し戻したくなることがあるほど。これほど自由自在に操れる4WDは、スーパーAYC(外輪のトルクを増やすという意味ではゴルフRのトルクベクタリングに近い発想のメカニズム)を積んだ三菱 ランサー エボリューション以来のように思えた。フルタイム4WDシステム「4MOTION」、左右後輪のトルク配分を制御する「Rパフォーマンストルクベクタリング」、電子制御式ディファレンシャルロック「XDS」などを組み合わせることでトラクション&ハンドリング性能を高めた。ただし、そんなゴルフRにも弱点はある。高速道路を走っていると路面からときおり強いショックが伝わってくるのだ。感覚的にはタイヤのトレッドが硬いことが原因のように思われたが、車速が高い領域でのみ感じられるのが不可解だった。また、そうした速度域ではタイヤの気柱共鳴音(路面からの振動によりタイヤ内部に共鳴が起きる現象)が認められた。いずれも、快適性を重視する向きにはなんらかの対策を講じたくなるところだろう。したがって快適性や洗練さを優先される人にはWRX S4、多少快適性を犠牲にしてもダイレクト感が欲しいならGRカローラ、その両方を手に入れたい欲張りな人にはゴルフRがお勧めかもしれない。もっとも、そのぶんゴルフRは値が張って、WRX S4の500万円台半ば、GRカローラの約600万円に対し、およそ750万円のプライスタグがつけられている。悩ましいところだ。現代のCセグ4WDターボに宿る万能感こそが真骨頂シーンを選ばずいつでも走りを楽しめる、それがCセグメント4WDターボの大きな魅力。ターボ+4WD、速さを追求したモデルという共通点を持つ3台だが、乗り比べるとモータースポーツ寄り、GTカー志向など、明らかに性格が異なっていた。いずれにしても今回の3台は、Cセグメントゆえにオトナ4人が余裕をもって腰掛けられるし、4WDなので滑りやすい路面でも安心感が強く、2ペダルゆえに乗り手を選ばないのは事実。しかもGRカローラは4WDモード切り替えに「グラベル(砂利、小石の意味)」が用意されているとおり、ダート路では振り回す楽しさも残されている模様。ほかの2台は基本的にはオンロードモデルだが、それでも雪道での安心感は2WDモデルの比ではないはず。つまり、実用性や万能性が極めて高いのがCセグメント4WD2ペダルスポーツモデルの真骨頂なのである。個人的に、スポーツモデルでも所有するクルマはできるだけ毎日走らせたいと思う。なので、その意味でもCセグメント4WD2ペダルスポーツモデルは私の理想に近いジャンルといえるだろう。フォルクスワーゲン ゴルフ R アドバンス 主要諸元●全長×全幅×全高:4295×1790×1460mm●ホイールベース:2620mm●車両重量:1520kg●エンジン:直4DOHCターボ●総排気量:1984cc●最高出力:245kW(333ps)/5600-6500rpm●最大トルク:420Nm/2100-5500rpm●トランスミッション:7速DCT●駆動方式:4WD●燃料・タンク容量:プレミアム・56L●WLTCモード燃費:12.3km/L●タイヤサイズ:235/35R19●車両価格(税込):749万9000円スバル WRX S4 STIスポーツ R‐BLACK リミテッド 主要諸元●全長×全幅×全高:4670×1825×1465mm●ホイールベース:2675mm●車両重量:1610kg●エンジン:対4DOHCターボ●総排気量:2387cc●最高出力:202kW(275ps)/5600rpm●最大トルク:375Nm/2000-4800rpm●トランスミッション:CVT●駆動方式:4WD●燃料・タンク容量:プレミアム・63L●WLTCモード燃費:10.7km/L●タイヤサイズ:245/40R18●車両価格(税込):530万2000円トヨタ GRカローラ RZ 主要諸元●全長×全幅×全高:4410×1850×1480mm●ホイールベース:2640mm●車両重量:1500kg●エンジン:直3DOHCターボ●総排気量:1618cc●最高出力:224kW(304ps)/6500rpm●最大トルク:400Nm/3250-4600rpm●トランスミッション:8速AT●駆動方式:4WD●燃料・タンク容量:プレミアム・50L●WLTCモード燃費:10.4km/L●タイヤサイズ:235/40R18●車両価格(税込):598万円