ジャパンモビリティショー2025で世界初公開された、ホンダの小型EV「Super-ONE Prototype」(筆者撮影) ホンダが2026年に市販予定と発表した「Super-ONE Prototype(スーパーワン・プロトタイプ/以下、スーパーワン)」が話題を呼んでいる。これは、軽自動車の乗用EV「N-ONE e:(エヌワン イー)」をベースに、ワイドボディ化や走行性能の向上を図った小型EVスポーツだ。 【写真を見る】ジャパンモビリティショーで世界初公開、ホンダの小型EV「Super-ONE Prototype」(44枚) そのフォルムは、1980年代に人気を博したスポーツモデル「シティ・ターボⅡ」、通称「ブルドッグ」を彷彿とさせるもの。しかも100%電気で走るBEV(バッテリー式電気自動車)ながら、ガソリン車のスポーツカーさながらの乗り味が楽しめることから大きな注目を集めている。 ここでは、そんなスーパーワンを「ジャパンモビリティショー2025」で取材。実際に現車をチェックした印象などを含め、現在わかる範囲で概要を紹介しよう。 【写真】ジャパンモビリティショーで世界初公開、ホンダの小型EV「Super-ONE Prototype」(44枚) 印象的なブリスターフェンダーを採用 ワイドなタイヤを包み込むように張り出したブリスターフェンダー。ベース車は軽自動車規格のN-ONE e:だが、ブリスターフェンダー化によって車幅が広がることからコンパクトカー、いわゆるAセグメントとして市販される見込み(筆者撮影) ホンダが2025年9月12日に発売したN-ONE e:をベースに、ブリスターフェンダーやエアロデザインの前後バンパーなどの採用により、ロー&ワイドな外観スタイルを演出するスーパーワン。 ちなみにブリスターフェンダーとは、外側へなめらかに膨らんだフェンダー形状などを意味し、スポーツカーの定番的なスタイル。そのフォルムが先に述べたとおり、1983年に登場したシティ・ターボⅡのイメージに近いため、昔からのスポーツカーファンから大きな注目を集めている。 1983年にデビューし、一世を風靡したホンダのシティ・ターボⅡ(写真:本田技研工業) 当時、若者を中心に大きな支持を受けた「ホットハッチ」というジャンルの代表格といえるのがシティ・ターボⅡ。ホットハッチとは、大衆車として当時人気だったハッチバック車の軽量コンパクトな車体に、ターボエンジンなどの高性能パワートレインを搭載し、俊敏な走りを楽しめたスポーツモデルの総称だ。 なかでもシティ・ターボⅡは、1.2Lの4気筒エンジンとインタークーラー付きターボチャージャーをマッチングし、110PSものパワーを引き出していることが特徴。ベースとなった「シティ」のNAモデルが67PSだったので、43PSものパワーアップを実現していた。 シティ・ターボⅡのリアビュー(写真:本田技研工業) また、コーナリング性能の向上などを目指し、185/60R13というワイドなタイヤを装着。より幅広なタイヤを車体に収めるため、ブリスターフェンダーを採用したそのフォルムは、今まさに走りだそうと身構える「ブルドッグ」のようなイメージ。こうしたエピソードから「ブルドッグ」の愛称で親しまれるようになったと言われている。 なお、スーパーワンも同様に、タイヤサイズを前後205/45R16とし、N-ONE e:の前後155/65R14から大径化&ワイド化。ブリスターフェンダーによる迫力あるフォルムだけでなく、コーナリング時などでしっかりと路面を捉えるグリップ性能の向上なども期待できる。ボディサイズは現在のところ非公開だが、ワイドボディ化により、軽自動車の規格よりも車体が大型となるため、販売時は登録車の扱いになるということだ。 スーパーワンの走行性能 スーパーワンのベースになっているN-ONE e:もジャパンモビリティショーのホンダブースに展示されていた(筆者撮影) ホンダの開発者いわく、スーパーワンの走行性能は「(ベース車である)N-ONE e:のポテンシャルを解放」することで、よりパワフルな乗り味を楽しめるという。 パワートレインは、基本的にN-ONE e:と同様で、モーター、減速機(ギア)、インバーターを一体化した小型のeAxle(イーアクスル)を採用。N-ONE e:では、最高出力47kW(64PS)、最大トルク162N・m(16.5kgf-m)を発揮するが、スーパーワンのスペックは、これも今のところ非公開だ。 スーパーワンのリアビュー(筆者撮影) ただし、これもホンダの開発者によれば、「N-ONE e:は軽自動車ということもあり、本来の性能をあえて抑えたセッティングにしている」という。対するスーパーワンでは、大型化したボディと相まって、「本来の動力性能を十分に引き出すことが可能だ」と語る。 とくに、このモデルでは、専用開発の走行モード「BOOST(ブースト)モード」を採用。ステアリングの右側にあるスイッチを押すと、パワートレインの性能を最大限に引き出し、力強く鋭い加速を生み出すというのだから期待は高まるばかりだ。 変速ショックやサウンドにもこだわるホンダらしさ スーパーワンのインテリア(筆者撮影) また、いわゆる有段変速機のようなギアチェンジの感覚を再現した「仮想有段シフト制御」も搭載。モーターで走行するBEVながら、ICE(内燃機関)モデルのようにギアの変速ショックなども味わえるギミックも追加する。 加えて、アクセルなどの運転操作に応じ、迫力のある仮想のエンジンサウンドを車内に響かせる「アクティブサウンドコントロールシステム」も搭載。聴覚的な運転の楽しさを味わいたいスポーツカー愛好家などの嗜好に応える機能も備える。 このモデルでは、ほかにも、3連メーターや変化するイルミネーションカラーなど、BOOSTモード起動時に楽しめる機能も採用し、視覚的にも気分を高揚させる工夫を施している。 スーパーワンの運転席および助手席(筆者撮影) また、内装では、専用のスポーツシートを備えることで、安定したドライビングポジションを確保。表皮には、ホワイトとグレー、それにアシンメトリーに配置したブルーをマッチングさせることで、遊び心あふれるコーディネートも演出している。 ちなみに、今回発表された仕様となる以前のコンセプトモデル「Super EV Concept(スーパーEVコンセプト)」は、2025年7月にイギリスで開催されたモータースポーツイベント「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」に登場。クラシックカーから最新のレーシングカーまで、様々な車両が走行する全長約1.9kmのヒルクライムコースを力強く疾走し、その動力性能の高さを証明している。市販モデルも含め、その乗り味についても現在はまだ不明だが、実際にどのような走りを楽しめるのかが今からとっても気になるところだ。 2026年に市販予定 ステアリングには、BOOSTモードのスイッチも用意されている(筆者撮影) ともあれ、従来のBEVが持つスムーズかつパワフルな加速力と、エンジン車が持つ音や振動などの感覚的要素を併せ持つ、新次元のBEVスポーツモデルとなることが期待できるスーパーワン。1980年代のホットハッチ全盛期を知る筆者も、展示ブースで現車を見て、少なからず心が躍ったのは事実だ。きっと、同世代のスポーツカー好きなどにも、気になっている人が多いだろう。 なお、量産モデルに関しても、詳細は未発表だが、ホンダによれば、2026年より日本を皮切りに、小型EVのニーズの高いイギリスやアジア各国などで発売を予定するとのこと。具体的な発売時期や価格など、続報に期待したい。