自動車メーカーがライバルメーカーのクルマを参考にするのは珍しい話ではなく、公に好評されるケースもある。その慣例は現在でも続いており、最新モデルにも当てはまる。最近わかった2例をここでは紹介してみたい。【画像ギャラリー】まさかコルベットがミッドシップになるとは!! それにしてもカッコよすぎるなぁ(5枚)文:古賀貴司(自動車王国) 写真:シボレー、ポルシェ、フェラーリ、ヒョンデコルベットが参考にしたフェラーリのV8エンジンコルベット初のミッドシップモデルとして2020年に販売された8世代目のC8。その上位モデルでありハイパフォーマンスモデルとなるのがZ06。 自動車業界における「公然の秘密」だが、最近はこれを堂々と認める例が増えている。エンジニアたちは競合車種を称賛し、具体的な車名を挙げることすら厭わない。シボレー・コルベットZ06の開発ストーリーは、まさにその好例だ。 GMのエンジニアたちは、フェラーリ458イタリアのフラットプレーンクランクV8エンジンを学ぶため、2014年に行動を起こした。当時、同社にとってフラットプレーンクランクエンジンは未知の領域だった。 チーフエンジニアのジョーダン・リーは、ポーランドのeBayで事故車から取り外された458のエンジンを約2万5000ドルで購入したと明かした。「本当に届くか分からなかった」と振り返るが、エンジンはパレットに載せられてミシガンの開発施設に無事到着。 エンジニアたちは点火コイルの振動対策や電子部品の固定方法など、フェラーリの技術を徹底的に研究した。さらに開発が進むと、実車での比較テストも実施された。 GMは当初、458イタリアを購入してベンチマークに使用していた。その後、新型の488GTBに乗り換えたもののターボチャージャーによる“官能の欠如”を感じ、再び458イタリアを購入し直したという逸話まである。フェラーリ最後の自然吸気のV8エンジンを積んでいた458イタリア。「名機」として今後はさらに評価を高めていくと言われている。ポルシェの開発責任者が着目したヒョンデの技術仮想シフト機構「N eシフト」を採用しているヒョンデのアイオニック5N。まさかこれがピュアスポーツカーであるボクスター&ケイマンに影響を与えるとは…。実に面白い話である。 一方、ドバイで開催されたポルシェのイベントで、驚くべき発言が飛び出した。ポルシェ718および911モデルライン開発責任者のフランク・モーザー氏が、ヒュンデのアイオニック5Nを「目を見開かされる体験」と評したのだ。 この発言は、オーストラリアの自動車メディア「DRIVE」が報じて話題を呼んでいる。なんでもモーザー氏、アイオニック5Nの仮想シフト機構「N eシフト」と人工エンジンサウンド「Nアクティブサウンド+」を気に入った様子。 EVでありながら8速デュアルクラッチトランスミッションのシフトショックをあえて模倣し、エンジン音まで再現する機能である。 モーザー氏の同僚でポルシェのGTカー責任者、アンドレアス・プロイニンガー氏も当初は懐疑的だったが、試乗すると感嘆の声を上げたとか。 また、ポルシェのエンジニアたちを本当に驚かせたのは「Nグリンブースト」だった。これはステアリングホイールの赤いボタンを押すと、ボタンを押すと10秒間だけ通常よりも最高出力が41PS増しになり、文字通りの“ブースト”を味わえる機能である。 モーザー氏はこの機能は次期ボクスター/ケイマンに搭載する、とまで語ったようだ。ポルシェの次期ボクスター/ケイマンは2027年の発売が予定されている。 モーザー氏は“EV基準で軽量なクルマ”を約束しつつ、現行982型より重くなることを認めた。 そして、アイオニック5Nから学んだ仮想シフトとエンジンサウンドは、ドライバーがオン・オフを選択できる形で搭載される見込みだという。なお、EUにおける自動車を取り巻く法規制の変更により、次期ボクスター/ケイマンはEVだけでなく内燃式エンジン搭載モデルもラインナップされることが決まった。2つの動力が選べるとみられる次期型ボクスター&ケイマン現在販売されている718シリーズ(写真はケイマン)。2016年から販売が続けられ、近々次世代モデルへとモデルチェンジされると言われている。 今まで次期ボクスター/ケイマンのプラットフォームはEV専用設計だったため、内燃式エンジン搭載を可能にするには乗り越えるハードルが思いのほか高い。 EV専用プラットフォームはバッテリーパックが構造体となっており、取り除くとボディ剛性が失われる。 そこでエンジニアたちは新しいフロア構造、リアバルクヘッドとサブフレームを再設計してエンジンをミッドシップする。 またトランスミッショントンネル、燃料タンク、排気系のスペース確保も必要になるという。エールを送ることしかできないが、結果として購入者は次期ボクスター/ケイマンをEVと内燃式エンジンの両方から選べることになるだろう。 片方はヒュンデから学んだギミックを搭載し、もう片方は純然たるポルシェサウンドを満喫できる、というわけだ。 ブランドの垣根を越えた学び合いが、次世代のスポーツカーを進化させている。そして、この柔軟な姿勢から我々ドライバーは技術革新の恩恵を受けることになる。ありがたや、ありがたや。