WRC制覇を目指した!ランサーエボリューションの登場【ランサーエボリューションChronicleダイジェスト(4)】
モーターマガジンムック「ランサーエボリューションChronicle」が8月28日からモーターマガジン社より発売中だ。ハイパワー4WD車の代表として多くのファンから支持されてきたランサーエボリューション。その変遷を詳細に解説した内容が好評を博している。ここでは、同誌の内容の抜粋をお届けする。今回はラリーファンのみならず、ハイパフォーマンスカーとして注目を集めた初代ランサーエボリューションだ。

ギャランVR-4のコンポーネンツを活かしたランサーエボリューション

1991年にモデルチェンジでCD5Aランサー1800GSRが登場した。エボリューションモデルが登場する前に国内モータースポーツで活躍した。
三菱自動車は、ギャランVR-4で、WRC(世界ラリー選手権)に参戦を続け一定の成果を収めたものの、ギャランは当時としては大型セダンであり、ラリー車としてはロングホイールベースだった。ライバルであるランチアデルタインテグラーレやフォードエスコートRSコスワースはショートホイールベース、ワイドトレッドで、ギャランVR-4は後れを取ることも多かった。ツイスティなコースではギャランVR-4では、どうしても鈍重な感は否めなかったのだ。
当時の関係者も、1989年のRACラリーなどで、ランチアデルタなどと走る姿に「もっとコンパクトなボディにギャランのユニットを載せれば…」との思いを強くしたという。1991年にランサーがフルモデルチェンジする。新型ランサー(CD5A)には、1.8Lの4G93型インタークーラーターボエンジンが搭載され、ギャランVR-4と同じフルタイム4WD方式が与えられたランサー1800GSRがあった。

1993年、WRCに三菱チームからランサーエボリューションが投入された。ここからランエボ伝説が始まった。
当時は、国内モータースポーツではギャランVR-4が走っていたが、非力なはずのランサー1800GSRがしばしば格上のギャランVR-4を喰ってしまうこともあった。このクルマは後に通称〝エボ0(ゼロ)〞とモータースポーツファンの間では呼ばれることになるが、シャシバランスのよさと適度なパワーでモータースポーツでは高い戦闘力を発揮した。同時に、ギャランVR-4のパワーユニットを搭載したランサーが出るという情報が出まわっていたため、期待は否が応にも高まっていった。
そのような大きな期待の中で登場したのが初代ランサーエボリューションで、往年のランサーファンはもちろん、モータースポーツ参加者が待ち望んでいたものだ。当然、WRCでの活躍を期待させた。FIAによるグループAのホモロゲーションモデルという意味合いが大きかったランサーエボリューション、当時の関係者も「売れるかどうかは別として、とにかく2500台つくらなければならなかった。そんなに売れるか疑問視する向きもあったが、国内でモータースポーツをやってくれているお客さんが買ってくれたのは嬉しかった」とそのときの感想を語っている。

ギャランVR-4からキャリーオーバーされた4G63型エンジン。従来より10ps向上し、最高出力250ps/6000rpm、最大トルク31.5kgm/3000rpmを発生。
後に続々とエボリューションバージョンが出たために、初代ランサーエボリューションは、〝エボリューションⅠ(エボI)〞と通称されるようになるが、正式名称は「ランサーGSRエボリューション」と「ランサーRSエボリューション」になる。GSRが一般的な使用用途、RSは競技ベース車という括りは、ギャランVR-4のときから変わらない。
ラリー制覇を主目的に、4G63型パワーユニットを240psから250psにアップ
開発上の第一の課題は、エンジンや駆動系がランサーのコンパクトなボディに搭載できるかどうかだった。ただ、ランサーは、ガソリンエンジンより大柄なディーゼルエンジンを積んだグレードを輸出していたので、スペースとしてはぎりぎりであったが確保できた。駆動系もギャランVR-4のものを、ランサーのコンパクトなボディに移植することができた。

走行性能ももちろん期待されたが、乗り手を選ぶマシンという位置づけだった。アンダーステアの克服がその後のテーマとなった。
ランサーエボリューションに搭載されたパワーユニットは4G63型インタークーラーターボ。パワーはギャランVR-4の240psを250㎰までチューニングしパワーアップした。4WDシステムは、ギャランVR-4を踏襲してセンターにビスカスカップリングLSDを採用したフルタイム4WDだ。横置きトランスミッションはケース内にメインシャフト、カウンターシャフト、トランスファー/フロントデフの3軸で、前輪はフロントデフを介してドライブシャフトを通して駆動を伝える。後輪はトランスミッションからトランスファーで横回転を縦方向に補正し、プロペラシャフトでリアデフに駆動を伝える。前後駆動配分は50:50だ。
ギャランVR-4はパワーユニットを横置きにし、トランスミッションが右(運転席)側に来るレイアウトを取っていた。ランサーもこの形式を受け継いでおり初代ミラージュから変わらないレイアウトだ。サスペンションはフロントストラット、リアがマルチリンクの4輪独立式だ。ここはランサーエボリューションのベースモデルとなるランサー1800GSRのシステムを踏襲しつつ強化したものとなっている。

1993年のモンテカルロラリーでデビューしたランサーエボリューション。このときは4位でフィニッシュ。コンパクトなボディはラリーで有利だった。
登場の背景から見てモータースポーツでの活躍を語らないわけにはいかない。WRCデビューは、1993年の第1戦モンテカルロラリーだ。ドライバーはケネス・エリクソン(スウェーデン)とアーミン・シュワルツ(ドイツ)。このときの成績は総合4位と6位でデビュー戦にしては上々。同年は8戦に出場し、第6戦アクロポリスラリーで3位、最終戦RACラリーでは2位を獲得した。優勝こそなかったが、まずまずの成績といえるだろう。国内モータースポーツでも、有力ドライバーは続々とランサーエボリューションに乗り換え、実戦投入していった。
ランサーGSRエボリューション主要諸元
●全長×全幅×全高:4310×1695×1395mm
●ホイールベース:2500mm
●車両重量:1240kg
●エンジン:直4DOHC16バルブ+インタークーラーターボ
●排気量:1997cc
●最高出力:250ps/6000rpm
●最大トルク:31.5kgm/3000rpm
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:フルタイム4WD
●10.15モード燃費:10.2km/L
●車両価格(当時):273.8万円