MT-09/07をベースとしてオーセンティックなスポーツバイクとして「ヘリテージ」ムードを漂わせて登場したXSRシリーズ。3気筒、2気筒、単気筒と、それぞれ違うタイプのエンジンを搭載し、新しいスポーツラインディングを我々のもとに連れてきてくれた。文:中村浩史※この記事は2024年7月17日発売の『YAMAHA XSR GUIDE』に掲載したものを一部編集して公開しています。ヤマハ「XSR」ヒストリー画像: ヤマハ「XSR」ヒストリーハイパフォーマンスを内包しオートバイらしさを表現した2014年、まったく新しいスポーツバイクとしてデビューしたMT-09とMT-07。このヤマハの新世代エンジンを搭載したスポーツモデルは、4気筒絶対主義とは違う場所で、大排気量&大馬力ではないスポーツを狙った、ちょっとイカツいルックス、チャレンジングなスタイリングが特徴的なモデルだった。クラシックな落ち着きを見せるMT-07とは別に、MT-09は「シンクロナイズドパフォーマンスバイク」を標榜し、高いパフォーマンスでありながら、ライダーが意のままに扱える、スーパーモタード的な楽しさを表現したモデルだった。そして「もっと普通の、ヤマハっぽい伝統的スポーツバイク」という声に応えて2016年にデビューしたのがXSR900、2017年にデビューしたのがXSR700だ。2015年のEICMA(ミラノ・モーターショー)で初公開されたXSR900と同時に展示されていた、アメリカのカスタムビルダー、ローランド・サンズ製作のケニー・ロバーツ・リスペクトモデル。この兄弟モデルに与えられたキーワードは「レトロスター」。900はパフォーマンス・レトロスター、700はアーバンカジュアル・レトロスターをコンセプトとして、両モデルに共通するのは、オーセンティックな外観、つまり正統派やホンモノ、本格的であること。もちろん、単なるレトロ=回顧主義を狙うなら、この最新エンジンを積む必要はない。ヤマハはCMFGという、工業製品デザインの基本に立ち返ることで、XSRのホンモノ感を追求した。CMFGとは、C=カラー:色/M=マテリアル:素材感/F=フィニッシュ:仕上げ/G=グラフィック:視覚表現のこと。チャレンジングなMTシリーズとはまったく違う、伝統的なオートバイらしいスタイリングを目指したのだ。先にデビューしたXSR900は、タンクカバーとリアフェンダーにアルミ材を使用したのが印象的で、マットグレーカラー車は手作業でバフ掛けしたフィニッシュが際立っていた。このシルバー部分は手作業で仕上げられているだけに、実は1台ずつ微妙にフィニッシュの質感が違っていることも面白い。後発のXSR700は、タンクからシートにかけて、水平基調ラインを描いているのが新鮮だった。タンク形状やシートエンドの跳ね上がりのなさが、900よりもグッとクラシックなイメージで、700と900を同一イメージとしなかったのも、ヤマハがXSRに込めたメッセージだったのかもしれない。それは、ベースモデルとなったMT-09が、アルミダイキャストフレームや選択式パワーモードを持つ、スーパースポーツ顔負けのパフォーマンスを持っていたのに対し、MT-07はオーソドックスなスチールフレームを持つ、軽くシャープなスプリンターだったから。どちらかと言うと、XSRのコンセプトをよく表しているのは、900よりも700の方だったのかもしれない。最新技術を内包しながらヤマハの伝統をキープするXSR900と、CMFGデザインの「G」バリエーションでクラシックなムードを守るXSR700。XSRシリーズが、ヤマハスポーツの選択肢を大きく広げたのは間違いないのだ。ヤマハ「XSR900」(2016年4月デビュー)MT-09用に新作された、等間隔爆発の120度クランクを採用した水冷3気筒エンジンを搭載。ショートマフラーも1970〜80年代のスポーツバイクを思わせる。オーセンティックスポーツだけに、メーターはオーソドックスな丸形ながら、液晶ディスプレイを採用した。パワーモードやトラクションコントロールの設定も表示する。ヤマハ「XSR700」(2017年11月デビュー)こちらはMT-07用に新作された水冷2気筒エンジンを搭載。クロスプレーンクランクを採用した、常用回転域で力強いエンジンだ。丸型メーターに丸形ヘッドライトを採用。2022年モデルからはヘッドライト、ポジションランプ、ウインカーを総LED化した。ヤマハ「XSR900 ABS」系譜(2016~2025年モデル)▶2016年モデルグレーイッシュブルーメタリック4MT-09の基本骨格をベースに専用のボディパーツを新作MT-09の新設計のアルミダイキャストフレームや水冷3気筒エンジンを使用し、専用のボディパーツを与えられたXSR900。MT-09の、エンジン出力特性を3種類から選べるDモードに加え、XSRには3段階に選択できるトラクションコントロールを搭載。さらにクラッチ操作の軽いアシスト機能に、減速時のバックトルクを緩和させるスリッパー機能を合わせたアシスト&スリッパークラッチも追加し、より扱いやすさを目指した。「グレーイッシュブルー4」「マットグレーメタリック3」に加え、“ヤマハインターカラー”と呼ばれる黄×黒のスピードブロックカラーも受注期間限定モデルとして発売。マットグレーメタリック360thアニバーサリー ライトレディッシュイエローソリッド1▶2017年~2020年モデルブラックメタリックX(2017年)基本の構成はそのままに小変更を加えカラーリング&グラフィックを多数展開2017年モデルではブラックメタリック、2018年モデルでレッド×シルバー、2019年モデルでパープルブルーとカラーバリエーションを展開。そして20年モデルでポジションランプを追加したヘッドライトを採用し、タンク上面にセンターラインをあしらった白×赤のカラーリングも追加。金ホイールと合わせてRZらしさを表現した。ビビッドレッドカクテル1(2018年)ダルパープリッシュブルーメタリックX(2019年)ラジカルホワイト(2020年)▶2022年~2024年モデルブルーメタリックC(2022年)フルモデルチェンジを果たしカウルレスモデルっぽさを強調新設計フレーム+ホイールを採用した2022年モデルでは、1980年代のレーシングマシンをオマージュしたデザインを採用。ステアリングヘッドに近い部分を太くしたフレームデザインをむき出しにしたことで、ヤマハ伝統のデルタボックスフレームを思わせるスタイリングとしている。特に金ホイールを採用したブルーメタリックカラー車は、1980年代のレーシングマシンYZR500のゴロワーズブルーをイメージさせるもので、オールドファンが歓喜する現象も引き起こした。ブラックメタリックX(2022年)シルキーホワイト(2024年)2024年には、1980年代のレーシングヒストリーを紡ぐものとして発売されたXSR900 GPに続き、シルキーホワイトのカラーが登場。ゴロワーズカラー(風)に続いて、こちらはもっと直接的にマールボロカラーを思わせるもので、XSR900GPがハーフカウルとシングルシートカバーに黄色をあしらっているのに対し、ノンカウルバージョンは最小限のボディパーツに白×赤を表現した。XSR900 GPほどではないが、こちらもダイレクトにYZR500を思わせる。ブラックメタリックX(2024年)▶2025年モデルセラミックアイボリー(アイボリー)マイナーチェンジを受けた2025年モデルでは、ハンドル位置とシート形状が変更。ゆとりあるライディングポジションとなった。足まわりには、GPと同じ前後フルアジャスタブルのサスペンションを採用。新たに5インチのカラーTFTメーターを装備するなど、各所がアップデートされた。また、日本限定色「アイボリー」が受注期間限定で発売。専用のアクセサリーパーツなども用意された。シルキーホワイトブラックメタリックXヤマハ「XSR900 ABS」の主なスペック・燃費・製造国・価格ヤマハ「XSR700 ABS」系譜(2018年~2024年モデル)▶2018年~2019年モデルダルレッドメタリックD(2018年)900よりもオーソドックスにオールドヤマハっぽい仕上がりMT-07の基本骨格をベースに、専用のボディパーツを与えられたXSR700。こちらはXSR900のハイパフォーマンスよりも日常回転域の扱いやすさを狙ったもので、スタイリングも「ネオレトロ」を強調したものになっている。フューエルタンク下のフレームサイドカバープレートやフェンダーステーなどは、アルミパーツの存在感を強調し、横から見たスタイリングが水平基調を柱としているため、ヤマハレジェンドのSRやXSをイメージさせる。マットグレーメタリック3(2018年)マットダークパープリッシュブルーメタリック1(2019年)▶2020年モデルラジカルホワイトポジションランプが追加され、XSR900と同じ「ラジカルホワイト」の新色が登場。そのほか大きな変更はない。マットグレーメタリック3▶2022年~2025年モデルラジカルホワイト(2022年)ヤマハのレジェンド名車をグラフィックで再現2022年モデルでは新規排出ガス規制を受け、LEDヘッドライトとウインカーの採用とフロントブレーキの大径化、ネガポジ反転LCDメーターなどを採用してマイナーチェンジ。カラーリングでは、RZに代表される往年のヤマハスポーツバイクを思わせるグラフィックをあしらい、ヤマハレジェンドを再現している。下写真のブラックボディ+ゴールドホイール車は、ミッドナイトスペシャルをイメージしている。ブラックメタリックX(2022年)2023年モデルでは、価格のみの変更。2025年モデルでは、カラーバリエーションが一新。「ラジカルホワイト」のグラフィック部がブルー系からレッド系に変更されたほか、新たに「ディープパープリッシュブルーメタリックC」が追加された。ラジカルホワイト(2025年)ディープパープリッシュブルーメタリックC(2025年)ヤマハ「XSR700 ABS」の主なスペック・価格文:中村浩史関連のおすすめ記事【2025年モデル情報】「XSR900 ABS」- webオートバイ【2025年モデル情報】「XSR700 ABS」 - webオートバイ【開発者インタビュー】「XSR900GP ABS」 - webオートバイ