【車両記号#2】カシオペア・夢空間... 話題の“客車”に刻まれた「カタカナ記号」の意味とは
E26系 2015年06月22日撮影
2025年9月3日、最後の客車寝台特急「カシオペア」で活躍したE26系客車が、長野車両センターへ廃車回送されました。6月にはJR西日本で活躍した14系客車「サロンカーなにわ」編成が廃車に、7月には12系客車5両がJR西日本から大井川鐵道へ譲渡されるなど、JR各社を中心に客車列車(客レ)が減少しています。また、役目を終えたこれらの車両の保存に関する話題も。9月には「カシオペア」の1号車「スロネフE26-1」が大宮駅西口の複合施設へ保存されると発表され、東京都清瀬市での展示が決定した「夢空間」についても、展示に向け着々と準備が進んでいます。このように、かつては全国各地に存在した「客レ」という存在そのものが、博物館で展示されている車両のような「過去のモノ」へと、今変わりつつあるのかもしれません。
この客車ですが、JRの電車や気動車と同様、車両側面や車端部にちょっと不思議なカタカナ記号が表記されています。そこで、今回は「カシオペア」「夢空間」など話題の客車を例に、客車に刻まれたカタカナ記号の意味を解説します。
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記号の前半は「車両重量」を表す
記号の前半(「ナ」・「オ」・「ス」・「マ」・「カ」など)の部分は、車両の重量を表しています。具体的には以下の通り。
・「ナ」:27.5〜32.5t
・「オ」:32.5〜37.5t
・「ス」:37.5〜42.5t
・「マ」:42.5〜47.5t
・「カ」:47.5t以上
客車は自ら動力を持たず機関車などに牽引されるため、その重量が特に大切な情報。車両重量が大きく、機関車の牽引力が不足した場合、列車を牽引できなくなってしまうことから、電車とは異なり車両重量ごとにカタカナの記号が割り当てられています。
記号の後半は「用途」を表す
カタカナの後半の部分(「ハ」・「ロ」・「シ」・「ユ」など)は、電車と同様に車両の用途を示しています。これらは、車両のグレードを表記する記号(「ハ」・「ロ」など)と、寝台や食堂といった車両の設備を表記する記号(「ネ」・「シ」など)の2種類に分けられます。グレードを表記する記号には以下のものが存在します。
・「ハ」:普通車・B寝台車
・「ロ」:グリーン車・A寝台車
・「イ」:現在は主にクルーズトレインに使われる
また、車両の設備を表記する記号には以下のようなものがあります。
・「シ」:食堂車
・「ネ」:寝台車(グレードと合わせて、「ロネ」(A寝台車)や「ハネ」(B寝台車)のように使用)
・「フ」:緩急車(車掌室など、列車にブレーキをかけるための装置が備えられた車両)
・「テ」:展望車
・「ヤ」:職用車
・「ユ」:郵便車
・「ニ」:荷物車
上記の「車両重量」を表す記号と「用途」を表す記号を組み合わせ、「オシ」は「車両重量32.5〜37.5tの食堂車」を指し、「カニ」は「47.5t以上の荷物車」のようにカタカナの記号を組み合わせて使用。複数の設備を持つ車両(例:グリーン車と普通車、A寝台車とB寝台車など)の場合は、「オロハ」や「オロハネ」のような順番でカタカナを重ねて表します。
寝台客車では異色の“2階建て食堂車”・“先頭車ラウンジ” E26系カシオペア「マシE26-1」「カハフE26-1」
まずご紹介するのは、E26系カシオペア編成の3号車「マシE26-1」と、12号車「カハフE26-1」の2両。いずれも、オール2階建て編成の新造車であることから、従来の寝台客車とは一線を画す異色の存在です。
「マシE26-1」の特徴は、100系新幹線を彷彿とさせる2階建て構造。100系の食堂車と同様、1階部分が調理スペースで2階に座席を配置。1階通路の配置や車窓への配慮から、山側の座席は1段高い座席配置となっていました。寝台特急の食堂車といえば、24系の食堂車として新造された「オシ24」や「サシ481・サシ489」を改造した「スシ24」が一般的。いずれも平屋建ての食堂車であり、2階席の景色とともに食べる食事はカシオペアの特権でした。車両記号に関しても、2階建てのためか「オ」「ス」よりも重い「マ」が使用されています。
2015年12月30日乗車
©レイルラボ 南方極星さん
「カハフE26-1」は、電源車とラウンジカーを兼ねた車両。カシオペア編成の12号車に連結されています。「カハフE26-1」の特徴は、編成の先頭に設置されたラウンジという点。他の寝台特急に連結されたラウンジ車両は、B寝台車(オハネ)やA寝台車(オロネ)を改造したロビーカー「オハ25」や、ミニロビーを備えた「スハネ25」など、いずれも編成中間に連結されることが一般的。「サロンカーなにわ」や「サロンエクスプレス東京」などのジョイフルトレインでみられた「先頭車ラウンジ」を寝台特急へ取りこみ、闇夜をかける列車の後面展望を誰もが楽しめる、珍しい存在でした。
E26系 2013年10月14日撮影
©レイルラボ ちゃぽんさん
2015年09月14日乗車
©レイルラボ ちゃぽんさん
一見普通? 実は誰もが知る“夢のような空間”!「オシ25 901」「オハフ25 901」「オロネ25 901」
続いてご紹介するのは、「オシ25 901」「オハフ25 901」「オロネ25 901」の3両。一見すると普通の24系客車のようですが、実はこの3両は「夢空間」で活躍した食堂車・ラウンジカー・寝台車。「オハフ25 901」には車掌室が設けられており、電車や気動車では見られない「フ」(緩急車)がつけられているほか、試作車両に与えられる900番台の番号が、量産車とは異なる特別な存在であることを物語っています。
「夢空間」は1989年(平成元年)に国鉄が民営化されJR東日本となった後、寝台列車による新たな旅の形を提案しようと試験的に新造された、国鉄24系の客車。3両が新造され、内装デザインは百貨店が担当するなど豪華仕様を追求。グリーンの車体に金帯の入った1号車「オシ25 901」には、編成最後尾の食堂車にふさわしい大きな展望窓を、赤とクリームの車体の2号車「オハフ25 901」にはバーカウンターや電動ピアノといった豪華設備を装備。青とクリームの車体の3号車「オロネ25 901」では、バスルーム付きの2人用個室を3部屋のみ配置する贅沢な空間利用が行われるなど、のちに登場する「カシオペア」や「TRAIN SUITE 四季島」といった豪華列車の元祖的な存在になりました。現在、「オシ25 901」「オハフ25 901」の2両が東京都清瀬市の「清瀬中央公園」での展示に向け、再整備を実施中。「オロネ25 901」は東京都江東区木場のフレンチレストランで店内の一部として保存、活用されています。
24系 1994年03月21日撮影
©レイルラボ 北東航1さん
番外編:令和に残る唯一の“現役展望車” SLやまぐち号 35系「オロテ35-4001」「スハテ35-4001」
最後に番外編として、唯一の現役展望車である35系「オロテ35-4001」「スハテ35-4001」をご紹介します。35系は、2017年に登場した「SLやまぐち号」用の客車。「最新技術で快適な旧型客車を再現」することをテーマとして、1920年代から30年代にかけて国鉄で使用されたマイテ49形・オハ35形・オハ31形をモデルとしつつ、空調や防火設備、走行装置などには最新技術が取り入れられた車両です。形式名もオハ35を継承する存在として、35系4000番台が与えられたほか、外観では旧客のシンボルともいえる茶色(ぶどう色2号)の塗装を採用し、「オロテ35」は白帯の入ったデザイン。内装に関しても、展望デッキから車内の座席にいたるまで、博物館に展示されている旧客とほぼ同じスタイルが再現されています。現代の水準にアップデートされた旧客を堪能できる、希少な存在です。
35系 2021年05月05日撮影
©レイルラボ Tomo-Papaさん
以上、客車の車両記号についてご紹介しました。現役の客車が減ってゆく中、客レという存在が過去のものとなる前に乗りに行く方も多いと思います。客車に乗った際、あるいは博物館を訪問した際には、車両に刻まれた記号にも目を向けてみてはいかがでしょうか。