GRスープラが「市販終了後」も世界中のレースで増殖し続ける理由
生産終了後も広がるスープラ伝説
GRスープラの市販車は、2025年の「FINAL EDITION」で生産を終えることが決まった。しかし、モータースポーツにおける存在感は衰えず、むしろ一層強まっている。2026年からは新しいレースシリーズへの参戦も予定されている。
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「スープラ」という名前からサーキットを思い浮かべるファンは多い。その印象を形づくったのは、1990年代から2000年代初頭にかけて全日本GT選手権を席巻した先代JZA80型スープラである。特にカストロールカラーをまとったマシンは、日本レース史に残る伝説として今なお語られている。
この血統は、2019年に復活したGRスープラにも受け継がれた。「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」というTOYOTA GAZOO Racingの理念に基づき、GRスープラは開発当初からレースとともに進むことを運命づけられていた。
いまや活躍の舞台は国内最高峰のSUPER GTにとどまらない。NASCARやGT4カテゴリーなど、世界各地のサーキットへ広がっている。市販車の生産終了後も、スープラの名を背負ったマシンたちは新しいフィールドで走り続ける。
スープラが挑むNASCAR戦略の真意
GR SUPRA NASCAR(画像:TOYOTA GAZOO Racing)
トヨタが2019年に復活させたGRスープラを最初に公式レースへ投入したのは、米国のストックカーレース「NASCAR」だった。
このマシンはGRスープラの名を持つが、中身は市販車と切り離された純粋なレーシングカーである。NASCARではすべてのチームに統一シャシーと共通規格のボディ使用が義務づけられている。そのため、NASCAR仕様のスープラはフロントマスクやルーフラインに市販車の名残をわずかに残すだけで、全体の姿はまったく異なる。
それでもスープラの名を冠するのは、「Win on Sunday, Sell on Monday(日曜に勝ち、月曜に売る)」という米国独自の文化に根ざしている。形状が違っても、レースでの勝利がブランドのスポーツイメージを固め、市販車の販売につながるという考え方だ。NASCARでの存在感は、GRスープラの高性能なイメージを広げるうえで欠かせない役割を果たしている。
GRスープラ復活が揺さぶるGT500勢力図
GR SUPRA GT500(画像:TOYOTA GAZOO Racing)
NASCARに続き、GRスープラが投入されたのは日本の最高峰ツーリングカーレース「SUPER GT」のGT500クラスだった。
このマシンも市販車の名と外観を持つが、実態は全く異なる。GT500の規則に基づき開発された純粋なプロトタイプカーである。
先代のJZA80型スープラは、SUPER GTの前身である全日本GT選手権で通算4度のドライバーズタイトルを獲得した伝説的存在だった。その後、トヨタのGT500での主役は他車に移ったが、2020年にGRスープラが15年ぶりに復活するとの報はファンを熱狂させた。
復活の翌年、2021年シーズンにはau TOM’S GR Supra(関口雄飛/坪井翔組)がシリーズチャンピオンを獲得。その後も着実に勝利を重ね、存在感を示し続けている。
世界を席巻するカスタマー向けGR Supra
GR SUPRA GT4(画像:TOYOTA GAZOO Racing)
次に登場したのがGR Supra GT4だ。このモデルは、先に紹介した2台とは性格が大きく異なる。GR Supra GT4はTOYOTA GAZOO Racingが開発・販売するFIA GT4規格のレース専用車であり、世界のプライベートチームや個人ドライバーを対象にしている。
NASCAR仕様やGT500仕様が特定のレース専用に一から設計されたプロトタイプであるのに対し、GR Supra GT4は市販車を基に改造されている点が最大の特徴だ。位置づけはあくまでカスタマー向けの市販レーシングカーである。
FIA GT4規格は、プロのワークスチームが最先端技術を競うGT500とは異なり、アマチュアやセミプロが参戦しやすいよう設計されている。そのため、ベースは市販車であり、安全性と信頼性を高めつつ、サーキットで十分な性能を発揮できるよう手が加えられる。一般のチームや個人が購入できる点も大きな違いだ。
GR Supra GT4は2020年のデビュー以来、世界各国のレースで結果を残してきた。2023年4月には累計生産が100台に到達し、表彰台の獲得回数は通算500回を超えた。
高い信頼性と競争力を武器に、GR Supra GT4は世界のチームやドライバーに選ばれる存在となった。現在もTOYOTA GAZOO Racingのカスタマーモータースポーツ活動を支える中核モデルとして走り続けている。
GRスープラ豪州戦線への挑戦開始
GR SUPRA SUPERCAR Gen3(画像:Walkinshaw Andretti United)
GRスープラは、NASCAR、SUPER GT、GT4に続き、新たな戦いの場に挑もうとしている。舞台はオーストラリアで人気の高いツーリングカーレース「レプコ・スーパーカーズ・チャンピオンシップ」だ。そのために開発されているのが「GR Supra Supercar」である。
このマシンは2026年シーズンからの参戦が正式に決まり、現地のモータースポーツ界から大きな期待を集めている。
同選手権は「V8スーパーカーズ」とも呼ばれ、市販車のシルエットを模した専用シャシーに大排気量V8エンジンを積んだマシンで争われる。激しいレース展開で知られるオーストラリア独自のシリーズである。
長年、フォード・マスタングとシボレー・カマロという米国2大ブランドの対決が中心だった。その牙城に、2026年から新たなレーシングカーとしてGRスープラが挑む。市販モデルの生産終了と同じ年に、新戦力として姿を現すのだ。
フォードとシボレーが築いた伝統の舞台に、トヨタはどう挑むのか。デビューを待つ2026年に向けて、世界中のレースファンの注目が集まっている。
生産終了後も進化続けるGRスープラの象徴性
GR Supra FINAL EDITION(画像:トヨタ)
GRスープラの名を冠したレーシングカーは、サーキットからオーバルコースまで多様な舞台で走り続けている。参戦するカテゴリーの数だけ姿があり、ここで紹介したのはトヨタが公式に開発したマシンに限られる。プライベーターまで含めれば、その数は数え切れない。
重要なのは、市販モデルが生産を終えた後も、これらの活動が変わらず計画され、実行されている点だ。市販車が姿を消す2026年には、新たにスーパーカーズ・チャンピオンシップへの挑戦が始まる。既存シリーズへの参戦やGT4マシンのサポートも継続される。
この事実は、スープラの名がもはや単なる市販車の呼称ではなく、トヨタのモータースポーツ戦略を象徴する存在であることを示している。GRスープラは市販車としての役割を終えた後も、モータースポーツの世界で増殖し、進化を続ける。そこに映るのは、トヨタが掲げる「モータースポーツを起点としたクルマづくり」という思想の純粋な体現である。