今日に続くホンダのスーパースポーツシリーズ、CBR-RR。このモデル名を初めて使ったのが1988年1月デビューのCBR400RRだった。1986年7月に登場したフルカバードボディのCBR400Rをベースにフレームや前後足まわり、外装を変更。エンジンはシリンダーヘッドを刷新、排気系も改めレプリカ路線に進んだ。写真:平野輝幸/まとめ:岡本 渉/協力:バイカーズステーション、佐藤康郎、H&L PLANNING※本記事は2025年7月2日に発売された『レーサーレプリカ伝 4ストローク編』の内容を一部編集して掲載しています。ホンダ「CBR400RR(NC23)」(1988年)の概要Honda CBR400RR 1988年総排気量:399.1cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒 シート高:765mm 乾燥重量:162kg発売当時価格:69万9000円※上の写真は1988年1月登場の初代モデル1986年10月にNSR250Rをリリースしたことで、レーサーレプリカ市場に本格的に足を踏み入れたホンダ。4ストローク直4では、レーサーの開発で培った技術、カムギヤトレインを採用したCBR250フォアを同年4月に、またフルカバードの外装によるCBR400Rを同年7月に発売したが、本格的なレーサーレプリカと言えるモデルは1988年1月デビューのCBR400RRが最初であった。CBR400Rとの違いは車体関連に多く、目の字断面のアルミツインチューブフレームは形状を見直して車体をスリム化。ホイールも中空3本スポークに改め、前後タイヤをラジアルに換装。スイングアームを三角形状の“トライアーム”へと置き換えた。ただ型式はCBR400RのNC23そのままだった。レプリカ至上となっていた当時の市場への浸透度はいまひとつだったCBR400Rから、CBR400RRでは見た目からも性能をアピールするレプリカスタイルの形状にするとともに分かりやすいデュアルヘッドライトを備えた。またカラーリングもホンダ・レーサーイメージのトリコロールを主に据え、その後は約半年ごとにカラーを変更(1988年7月、1988年11月、1989年6月)していく。その後CBR400RRは、1990年3月にエンジンや車体を一新する全面変更によって型式NC29に進化。4度目のカラー変更となる1993年12月発売モデル('92年登場のCBR900RR由来のブラッシュカラーだ)がシリーズの最終となって、CBR-RRの歴史をつないだ。年式ごとの主要な諸元は変わらず。ただ他カラー含め、この時に燃料タンクのウイングマークの意匠が変えられた。前後ホイールやフロントフォークのボトムケース、エンジンの表面などをゴールドとするのもカラー変更前に同じだが、アルミ製サイレンサーカバーをツヤありからツヤ消しにするなどの違いがある。最初期型の価格は69万9000円(税別)で、日本での年間販売計画は1万6000台という現代では考えられない数値だったが、発売から9カ月で約1万5000台を売るヒット作となった。1990年3月登場のNC29も価格は同じだ。純正アクセサリー装着車:純正アクセサリーを取り付けたモデルで、サイドカウルに見えるリベット状のパーツは転倒時にカウルを守るプロテクター。燃料タンクパッドやステッカーキット、サイドカウルとフレームとの間を埋めるエアロニーパネルなども装着する。F3キットパーツ装着車(HRC):HRCによるF3キットパーツを装着した車両。F3よりも認可改造範囲が狭いSP400用の製品もHRCから多数発売された。ホンダ「CBR400RR(NC23)」(1988年)の各部装備・ディテール解説ホイールベースはCBR400Rより10mm短い1370mm、キャスターは26度から25度15分に立てられ、トレールは102mmから95mmに減少。左右ステップもレーサーを意識した構造で、鍛造製として強度を高めたブレーキ/チェンジペダルをステップバーと同軸に装着することで、滑らかな操作性を得ている。17/18インチ径は不変だが、タイヤは、フロントが100/80から120/60、リヤが130/70から150/60と2サイズずつ太くされ、構造もバイアスからラジアルに変更。60%という扁平率は当時のレーサーに倣って選択されたものだ。フレームは、ヘッドパイプとスイングアームピボット上方を直線的に結ぶアルミツインスパーで、左右のメインレールは6角形の目の字断面材を使う。基本はCBR400R用と同じだが、ニーグリップする部分を大きく内側に絞り込んでいる。車体を挟みやすくすることで一体感を高め、上半身を大きく前傾させなくてもレーサーに通じるピッタリとした乗車感を味わってもらおうとした開発意図があったという。スイングアームはCBR400Rと同様にアルミだが、直線的な左右レールを用いる一般的な構成から、上部にサブフレームを追加することで横からは3角形に見えるトライアームに変更。V型4気筒のレーサー、RVFの片持ち式アーム(プロアーム)で得たノウハウで設計され、横およびねじれ剛性を大幅に高めている。鋳造製で、加えると市販車でこの製法のスイングアームを採用したのはCBR400RRが初だったという。リヤサスはボトムリンク式ではなく、左右レールとほぼ水平まで前傾させたショックユニットでスイングアーム上部とフレームをダイレクトに連結。ショック本体はカムでプリロードが変化、縮み側と伸び側の双方に専用の減衰力バルブを備える“2ウェイバルブ・ダンパー”を採用。当時のホンダ車が誇る最先端のリヤショック関連の技術で、その時点で国内でのホンダ・フラッグシップだったCBR750スーパーエアロもこの機構を装備した。ヘッドライト両脇の開口部からカウルの内側に沿ってダクトを伸ばし、キャブレターに空気を導くための“フレッシュエアダクトシステム”を採用。エンジンの熱で燃料の気化が影響を受けるのを防ぐために新鮮な空気を直接キャブに導くのが目的との説明があり、充填効率を高めるラムエア方式とは狙いが異なる。正立フロントフォークは、インナーチューブをΦ39→41mmに大径化して剛性を向上。フリーバルブの構造を見直すなどで作動性を高めている。ボトムケース上端部に白い樹脂製のリングを介してフロントフェンダーを装着、これもレーシングマシンを意識した作りだ。アルミキャストホイールもRR専用で、3本のスポークをS字断面から中空構造として重量を削減。メーターは、中央に16500rpmが上限、14500rpmからがレッドゾーンのタコメーターを配置。速度計は左下にあり、190km/hスケールだが文字は180km/hまで。オド/トリップは今となっては懐かしい機械式だ。右端には同じく指針式の水温計を配備。キーシリンダーに隠れてよく見えないが、速度計の右下には、ウインカー、オイル、ニュートラル、ハイビームの警告灯が四角形に並べられる。Φ41mm正立フロントフォークはエアアシスト式で、左右のトップキャップにエアバルブが見える。CBR400Rが元の399.1cc(Φ55×42mm)水冷DOHC4バルブ並列4気筒は、ロッカーアームを廃してバルブ直押し式にするなどシリンダーヘッドを変更。吸排気バルブはステム径をΦ3.8mmと細くしながらIN/EX:Φ22/Φ19.5mmと傘径を大きくし、摺動抵抗を減らしつつ吸気効率を高めている。燃料供給はメインボアがΦ32.5mmの負圧式キャブを4連装着。排気系は4-2-1構造で、排気効率向上とともに迫力ある排気音の追求も行われた。カートリッジ式フィルターの基部にも水冷用のクーラントを循環させてエンジンオイルの温度を下げる水冷式オイルクーラーをここで早くも導入している点にも注目されたい。最大トルクは10000rpmの発生回転数は変更せずに3.8→4.0kgf・mに増加している。最高出力:59PS/12500rpmは不変だ。サイレンサーはアルミの一体成型品。肉抜き穴を持つステーやバンドで吊り下げる装着方法はレーサー的な演出と言える。フロントブレーキは、焼結パッドを装着したピンスライド片押し2ピストンキャリパーとΦ296mmフローティングディスクをダブルで装着。スピードメーターのギヤボックスをフロントホイールの軸受け部からエンジン後部に移動することで、バネ下重量を削減するとともにすっきりとした外観を得た。リヤブレーキは、肉抜き穴を持つソリッドディスク(外径は未公表)と、片押しシングルピストンキャリパーの構成。ブレーキ関連のパーツはニッシン(現・日立Astemo)で統一される。キャリパーをスイングアーム上側に配してマスを集中させており、ホンダ製スポーツ車は当時から現代までこの配置とする機種がほとんどだ。ホンダ「CBR400RR(NC23)」(1988年)の主なスペック・当時価格400cc直4レーサーレプリカに至るまでのカウル付きCBR400系の変遷▶CBR400FエンデュランスHonda CBR400F ENDURANCE 1984年直4にも先進技術を持ち込みながら90度V4のVF400F(1982年12月発売)とともに400ccクラスを牽引したCBR400F。1983年12月の発売からおよそ半年後の1984年5月31日に「CBR400エンデュランス」をタイプ追加した。CBR400Fにデュアルヘッドライトを持つハーフカウルとアンダーカウルを加えた。59万8000円。写真はさらにフルカウル化して1984年8月10日に発売された「CBR400Fエンデュランス・特別仕様車」(61万5000円)。▶CBR400Fフォーミュラ3Honda CBR400F FORMURA-3 1985年1985年8月31日には「CBR400F フォーミュラ3」が追加された。前後してCBR400Fシリーズがホイール変更や集合マフラー採用、アルミスイングアーム等で軽量化した2型に変わった(8月20日)時で、フォーミュラ3ではひとり乗りのシングルシートを標準装備した。61万5000円。▶CBR400RHonda CBR400R 1986年CBR400は1986年7月15日発売のCBR400Rで水冷/カムギヤトレイン化したエンジンをアルミツインチューブフレームに積んでフルカウルを備えた。だがホンダはその頃、F-3レースをV4主体で戦っていたこともあり、F-1もV4に移行。並列4気筒車をレプリカスポーツにしようと考えていなかったようだ。画像: ▶CBR400R▶CBR400RRHonda CBR400RR 1988年結果的にCBR-Rは思うような人気が得られず、その後市場ニーズに対応してレーシーなスタイリングのCBR-RRへと変身。ヒットモデルとなり、VFR400Rとともに1980年代後半から1990年代初頭にかけて人気車であり続ける。上の写真は1988年11月の2度目のカラー変更のもので、この時にウイングマークがシンプルなデザインに変わっている。写真:平野輝幸/まとめ:岡本 渉/協力:バイカーズステーション、佐藤康郎、H&L PLANNING※本記事は2025年7月2日に発売された『レーサーレプリカ伝 4ストローク編』の内容を一部編集して掲載しています。関連のおすすめ記事【バイクの歴史】「CBR400RR」の系譜 - webオートバイ【絶版名車解説】「CBR400RR」1988年 - webオートバイ