高い評価を受けながらも販売面では振るわなかったクルマは少なくない。性能や技術は一級品でありながら、市場ニーズや時代背景とのズレによって”売れない名車”となったモデルたち。本稿ではRX-8やインテグラタイプR、三菱iを例に、その理由と本質に迫る!!【画像ギャラリー】でっかく開く観音開きが最高だな!! 高い完成度でも売れなったクルマ3選(14枚)文:中谷明彦/画像:ベストカーWeb編集部ロータリー復活の切り札だったRX-8高性能ロータリー搭載も燃費と中途半端さで苦戦したRX-8 クルマの評価と販売実績は必ずしも一致しない。むしろ、その乖離の中にこそ自動車という工業製品の本質が潜んでいると言っても過言ではないだろう。 これまで数多くの新型車試乗を重ねてきた中で、これは売れると直感したモデルはいくつも存在した。しかし、その期待に反して市場では伸び悩み、結果として惜しいクルマとして記憶されるに留まってしまう例も少なくない。 その代表格としてまず挙げるべきは、2003年に登場したマツダのRX-8だろう。登場時に試乗会が行われたのは、広島県のマツダ三次テストコースだった。それはマツダの本気度を示す場所であったとも言える。 当時、同社はフォード傘下にあり、経営的にも決して楽観できる状況ではなかったが、その中で送り出されたRX-8は、RX-7の後継モデルとしての役割を担うべく開発された意欲的なモデルだった。 初見は、正直に言えばネガティブな印象を受けた。観音開き式の後席ドアを持つ2+2の4ドアクーペというパッケージングは、構造的に不利である。車体のドア開口部拡大はボディ剛性の低下を招き、側突安全性を確保するためにはドア自体の重量増加を避けられない。 つまり、スポーツカーとしてはやってはいけない構成に見えたのである。 マツダとしてはRX-7の2ドアスタイルを提案していたが、フォード側は2+2の4ドアでなければGOサインを出さなかったという。そのため、苦肉の策が観音構造ドアの採用だったのだ。 しかし実際に乗り込んでみると、その評価は一変する。2+2ゆえに後席は左右独立したシート構造を持ち、ヘッドクリアランスも十分。クーペスタイルでありながら実用性を確保したパッケージングは、むしろ新しい価値の提案と思えた。 それは単なる妥協ではなく、設計思想の転換と捉えるべきものだ。そして心臓部であるロータリーエンジン。新世代RENESISは、従来のロータリーが抱えていた排ガス、燃費の課題に対して一定の解を示しつつ、あの独特の回転フィールを見事に継承していた。 モーターのように滑らかに吹け上がる感覚は、内燃機関の中でも唯一無二のものと言える。ハンドリングもまた優れていた。フロントミッドシップに近いレイアウトとFR駆動の組み合わせは、回頭性と安定性のバランスにおいて高い完成度を持っていた。 にもかかわらず、RX-8は市場で大成功を収めるには至らなかった。理由は明確である。ひとつは燃費性能だ。改善されたとはいえ、実用域での燃費は依然として厳しく、ユーザーの現実的な選択肢にはなりにくかった。 もうひとつは、ターボを廃したことによる動力性能の低下である。自然吸気ロータリーの伸びやかさは魅力である一方、絶対的な力強さという点ではユーザーの期待値に遠く及ばなかった。 そして決定的なのは、その中間性にあった。4ドアで実用性を備えながら、スポーツカーとしての純度を保とうとした結果、どちらのユーザー層にも完全には刺さらなかったのである。実際の使い勝手は後席への乗降性や荷物の積み込みなど便利だったのだが。「最強FF」の実力も空振り!?2代目インテグラは高性能FFスポーツも市場縮小と2ドア離れで苦戦 次に挙げるべきは、2001年登場のホンダ2代目インテグラ・タイプRだ。このモデルは、技術的完成度という観点では極めて高いレベルにあった。2リッター化されたエンジン、剛性の高いシャシー、ブレンボ製ブレーキの採用など、走りのための要素が徹底的に磨き込まれていた。 さらに特筆すべきは、スーパー耐久十勝24時間レースでのパフォーマンスである。デビュー戦にして総合上位に食い込む結果は、単なるプロモーションを超えた実力の証明だった。普通に考えれば、この成功体験はそのまま販売に結びつくはずだが、現実ではそうならなかった。 背景にあるのは、市場の変化である。当時すでに、2ドアクーペというカテゴリー自体が縮小しつつあった。加えてFFレイアウトのスポーツモデルは、本格派ではないという先入観を持たれやすい時代でもあった。 つまり、どれだけ完成度が高くとも、市場の文脈と合致しなければ売れないのである。2代目インテグラ・タイプRが売れないなら、それは国内には2ドアスポーツクーペのマーケットは無いに等しいとさえ思わされたのだった。先進すぎた軽自動車……三菱iが市場で苦戦した理由革新RRレイアウトも実用性不足とブランド低迷で苦戦した さらに興味深い例として、三菱のiがある。リアエンジン、リアドライブという軽自動車としては異例のレイアウトで、未来的なデザインで、高い衝突安全性を備えていた。技術的には極めて意欲的なモデルであり、試乗評価も高かった。 特に4WDモデルの走行性能は印象的で、トラクション性能と安定性の両立は、同社の四輪駆動技術の蓄積を感じさせるものだった。しかし、このモデルもまた長期的な成功には至らなかった。 理由のひとつはパッケージング上の制約である。リアにエンジンを搭載したことで荷室は制限され、実用性という点でユーザーの要求を完全には満たせなかった。そしてもうひとつは、メーカーを取り巻く外的要因である。 ブランドに対する信頼の揺らぎは、いかに優れた製品であっても販売に影響を及ぼす。これらの事例に共通しているのは、技術的には正しいが、市場的には最適ではなかった点である。クルマは工業製品であると同時に商品でもある。 設計思想、性能、デザイン、そして市場環境。そのすべてが噛み合ったときに初めて売れるクルマが成立する。言い換えれば、売れなかったクルマとは、どこか一つが欠けていたのではなく、全体のバランスが市場と同期しなかった存在と言えるのである。 しかし、それらは決して失敗作ではない。むしろ時代を先取りしすぎたがゆえに理解されなかった、ある種の先行試作のような存在だったとも言える。 RX-8のロータリー、インテグラ・タイプRの純度の高いFFスポーツ、三菱iの革新的パッケージ。それぞれが示した方向性は、形を変えながら現代のクルマへと受け継がれている。