実はクルマとして非常に高い資質を持った車型の「セダン」(写真はイメージ、Natdanai99/Shutterstock.com)
(井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)
レクサス源流モデル「LS」の北米終売が示すセダンの不振
トヨタ自動車の高級車ディビジョン、レクサスの源流モデルであるフルサイズセダン「LS」の北米での販売が終了となることが明らかになった。2026年モデルとして「LS500AWDヘリテージエディション」が250台限定で用意され、その後終売になるという。
レクサスLSの第1世代「LS400」が登場したのは1989年。トヨタを世界に飛躍させた中興の祖、豊田英二氏が創業50周年を前に「トヨタが今まで出来なかった高度なクルマ作りに挑戦しよう」とプロジェクトを立ち上げた。
アメリカで終売が予告された「レクサスLS」。初代はこれまでトヨタができなかったクルマ作りに挑戦するというトヨタ中興の祖、豊田英二氏の発案から生まれた。その血脈は第5世代で途絶えることに(筆者撮影)
類例のない静粛性の高さと燃費性能を持つセダンに仕立てられ、価格はメルセデスベンツ「Sクラス」やBMW「7シリーズ」などドイツの高級車の約半分。それが米国の顧客の喝采を浴びた。北米でのレクサスの成功はLS400なしにはなかったと言える。
2017年デビューの現行LSは第5世代に当たるが、販売は当初から苦戦した。前の第4世代で販売退潮が顕著になっていたのを何とかしようとパーソナルセダン色を強めたが、デビュー当初からコンセプトが古いという感が否めなかった。
ラグジュアリーセダン市場そのものが縮小傾向にあることもあって、米国での販売終了を決断したものとみられる。すでに欧州では販売中止済み。日本では当面現行モデルを継続販売するが、これが最後のLSとなる可能性が高い。
4ドアセダンはかつて乗用車のスタンダードとされていた車型だが、クラスを問わず人気が衰えている。ユーザーの人気を集めている車型は日本ならミニバン、欧州や米国ではSUVなど市場によってまちまちだが、車高の低い伝統的なモデルの不振は世界的な傾向。セダンはその象徴となっている。
世界中で消えゆくセダン、いまや乗用車のスタンダードはSUVに
市場別にみると、クルマがステータスシンボル扱いされる新興国では今日でもセダン比率は比較的高い。しかし、かつてセダン、なかんずく広大な後席スペースを持つリムジンが憧れの存在と言われていた中国市場では昨年、SUVの比率が半分を超えた。セダンはと言うと2割台となり、なお下落傾向である。
元祖セダン大国の米国はどうか。2024年は新車販売の実に4台中3台がSUVとピックアップトラックで、セダン比率は1割未満だった。
セダンで健闘しているのは北米におけるセダンの最多販売モデルであるトヨタ「カムリ」だが、これは2024年に現行モデルに切り替わった際にハイブリッド専用モデルとし、それを旧来のエンジン車と同水準の価格で販売するという販売戦略によるところが大きい。それでも最も販売台数が多かった2007年(約47万3000台)に対して4割前後も数を減らしている。
トヨタの主力セダン「カムリ(旧型)」。この型は日本、欧州でも販売されていたが、両市場とも販売不振でモデル廃止となった(筆者撮影)
欧州も同年のSUV比率は50%台半ばで増加傾向。欧州におけるセダンのトップセールスモデルはフォルクスワーゲン「パサート」だったが、2022年にフォルクスワーゲンがそのパサートのセダンを廃止してステーションワゴンのみにすると発表した。
トップが市場から降りる決断を示したことは衝撃的で、プジョーなど他のメジャーブランドが雪崩を打って追随することになった。SUVへの転換を進めていることを考慮すると、SUV比率の60%突破は時間の問題だろう。
欧州市場におけるミッドサイズセダンの販売首位モデルだったフォルクスワーゲン「パサート」。2022年に先陣を切って廃止に踏み切ったことは、セダン衰退を強烈に印象づけた(筆者撮影)
中国山地の過酷な山岳路をモノともしない屈強な足まわりを持っていたパサートだったが、SUVとの戦いに敗れた(筆者撮影)
一方、日本では普通車、軽自動車ともミニバンが人気で、そこにSUVが加わったことでセダンへの圧はいっそう強まっている。コロナ禍以降日本から消えたセダンはトヨタ自動車「カムリ」「アリオン」、日産自動車「フーガ」「シルフィ」、ホンダ「グレイス」「シビックセダン」、マツダ「マツダ6」、スバル「レガシィ」など、枚挙にいとまがない。
2020年に消滅したスバルのセダン「レガシィB4」。大柄なボディに似合わない卓越した操縦性を持っていたが、命脈を保てなかった(筆者撮影)
比較的セダンが多く残っているのはメルセデスベンツ、BMWなど高所得層の顧客が多いプレミアムブランド、さらにその上のロールスロイス、ベントレー、マイバッハなどプレステージブランドだ。しかし、これらのカテゴリーでもセダンはSUVに押されている。
ロールスロイスのSUV「カリナン」。プレステージクラスですらSUV化が進む時代、漫然といいクルマを作るだけではセダンの価値は保てない(筆者撮影)
トヨタが2023年にリリースしたプレステージクラス「センチュリー」のSUV版。単に豪華であることを目指すなら室内容積の大きなSUVのほうが有利だ(筆者撮影)
この流れはある程度致し方ない。何しろフェラーリやポルシェまでもがSUVを作る時代なのだ。メルセデスベンツ、BMWになるとSUVの方が主流で、セダンはブランドの意地で作り続けているという感がある。
SUVが人気を集める理由も分からなくはない。現在のような乗用車ベースのクロスオーバーSUVが全盛となる前から、強固なラダーフレームを持つ悪路走破用のクロスカントリー4×4モデルにあえて乗りたがるユーザーは存在した。
ドライブフィールは普通の乗用車とまるで違うものであるし、着座位置が高いため室内からの眺望が良く、乗っていて気分がいいのは確かで、価格の高さや燃費の悪さを押して乗っていたのだ。それがクロスオーバーSUVの出現で操縦性、燃費、価格などのハードルがぐっと下がり、一般顧客にも一気に広がったのだ。
ホンダの大人気モデル、クロスオーバーSUVの「ヴェゼル」(筆者撮影)
もはやクルマのスタンダードはSUVとすら言える状況だが、ここで疑問が生じる。果たしてかつてのスタンダードだったセダンはそれほどまでにイケてない車型になってしまったのだろうか──。
結論から言えば、そんなことはまったくない。セダンはクルマとして非常に高い資質を持った車型なのだ。
伝統的な4ドアセダンスタイルが最もバランスのいいパッケージだった
セダンといえばボンネット、キャビン、トランクスペースの3ピースにタイヤが付くという形状が思い浮かぶことだろうが、クルマの黎明期からそういう形と決まっていたわけではない。
大昔のセダンは今でいうハイト系2ボックスの形で、車内に荷物を載せるスペースはなかった。荷物を積む時はクルマの後面にトランクを装着した。今日、クルマの荷室をトランクスペースと呼ぶのはその名残だ。
自動車工学が進化するにつれて、セダンは次第に現代のような形になっていく。車高は低くなり、トランクスペースはクルマと一体化されるようになった。
なぜこの形がクルマのスタンダードになったのか。それは居住性や快適性、荷物の積載性、空力特性、操縦性など、クルマに要求される性能を最もうまくバランスさせられるパッケージングだったからだ。
他の形式は特定の性能、機能を突出させるために、それ以外のファクターを犠牲にしている。例えば、2ドアクーペは重心を低くして運動性能を高めたぶん居住空間が削られる傾向にある。ミニバンは広大な室内容積のために、SUVは悪路や積雪路の走破性を高める代わりに空力特性は悪くなる。クルマの重心は高くなり、車体も重くなるといった具合だ。
セダンパッケージが優れたものであることは、BEV(バッテリー式電気自動車)からも見て取ることができる。
BEVはエンジン車に比べるとパワートレインの配置の自由度が高いため、黎明期には未来カーのようなクルマがいくらでもできると言われたりもしたが、フタを開けてみると、テスラ「モデル3」、シャオミ「SU7」、BYD「シール」などの高性能BEVはエンジンが載っていても違和感がない伝統的な4ドアセダンスタイルを取っている。
クルマを物理的に安定して走らせるには、適切な長さのホイールベースにトレッド(左右輪の距離)が必要。また空力特性を上げるには車体の後端が切れ落ちたハッチバックではなく、ノッチ(トランク部分)があった方が有利だ。
つまり今日のセダンのデザインは物理法則に従って理想形を追求したことで決定づけられたものであって、エンジン車だろうがBEVだろうが、駆動輪が前、後、あるいは全輪だろうが、大きくは変わらないのである。
さて、そんなセダンの能書きが実際のドライブにどのくらい影響するものなのだろうか。
中長距離ドライブで違いが出る「疲労感」と「ドライビングプレジャー」
筆者はいろいろなクルマの長距離ロードテストを行っている。同じメーカー、同じクラスのセダンとSUV、ミニバンをドライブした経験も結構ある。
主なものを挙げると、ホンダの「シビック」「ZR-V」「ステップワゴン」「グレイス」「ヴェゼル」、トヨタの「カムリ」「RAV4」「ヴォクシー」、レクサス「IS」「NX」、BYDの「シール」「シーライオン7」など。シビックはリフトバックだが、ツーリングカーとして非常に優れた特性を示したのが印象的だったため、広義のセダンに含めてみた。
その経験に鑑みて、セダンの効能は結構大きいというのが偽らざる実感である。市街地走行などではもちろんその差は出ない。差が出る前に目的地に到着してしまうような用途に徹するなら、はっきり言ってどんなクルマに乗ろうが関係ないのだ。
今どきのSUVは世界のメーカーが商品性の向上にしのぎを削っているだけあって、素晴らしい出来のものが多い。静かだし乗り心地は柔らかだし、タイヤの高性能化もあってカーブだらけの山岳路でのパワードライブもお手の物だ。チョイ乗りの段階では同格のセダンより断然快適に感じられることも珍しくない。
ところが中長距離になると思わぬところで違いが出てくる。セダンの方が明確に疲労は少ないのである。これは先に挙げた事例すべてに共通したもので、例外がなかった。
運転に伴う疲労の要因は複合的なものだが、思い当たるのはSUVやミニバンに比べて着座位置が低いこと。セダンはクルマの横揺れの軸と乗員の上半身の距離が短いために体の揺れ幅が小さく、体をこわばらせる頻度が少ない。またクルマの動きが予測と一致するかどうかもセダンの方が上だ。その積み重ねが疲労感の違いとなって表れたものと推察された。
ドライビングプレジャーの面でも全般的にセダンの方が優れている。絶対的な速力では素晴らしいパフォーマンスを発揮するSUVも増えたが、そのドライビングフィールは車体が重く重心も高いものをハイパワーユニットとワイドタイヤでカバーし、強引に速く走らせるというもの。セダンの方が圧倒的にナチュラルだ。
ここで、セダンのドライブで記憶に残るものをいくつか挙げてみよう。
セダンの高いポテンシャルを実感したホンダ「グレイス」、BYD「シール」
まずは日本での販売が終了したトヨタ・カムリ。皆既日食を見るためにカリフォルニア州サンフランシスコからネバダ州、ユタ州を越え、ワイオミング州中部まで1日で実に1078マイル(1734km)を走ったところ、その間の疲労の少なさは特筆すべきものがあった。
トヨタ「カムリ(旧型)」で1日に1000マイル超という超ロングドライブをするも最小限の疲労で乗り切ることができた(米国ユタ州のボンネビル・ソルトフラッツにて筆者撮影)
ネバダ州から先は高速道路の制限速度が80mph(129km/h)、一般道が70mph(112km/h)という世界有数の超高速エリアだが、日本では未発売の非ハイブリッドでありながら通算で15km/リットル前後の燃費で走り抜いた。
ホンダは前々社長の伊東孝紳氏が「セダン愛」を謳い、一時的にセダンの品ぞろえを増やしたことがあったため、「アコード」「インサイト」などセダンに乗る機会は多かった。その中で卓越したロングツアラーぶりが強烈に印象づけられたのは現行「シビック」のハイブリッドだが、それに負けじと好印象だったのは地味で売れなかった「グレイス」というモデルだ。
東京~鹿児島のロードテストでは、しっとりとした乗り心地や意図した走行ラインをきれいにトレースできる秀逸なハンドリングに驚嘆した。
グレイスは第3世代「フィット」がベースだが、後席の背後にセダン特有の構造材が加わることでこんなにも乗り味が向上するのかと感心させられたのだった。2クラス上のDセグメントと比べても遜色ない後席居住性と快適性も美点だった。
1代限りで消滅したホンダの小型セダン「グレイス」。後席の後方に構造材が加わったことでベースの「フィット」にはない上質なフィールが生まれていた(筆者撮影)
素晴らしい乗り味のグレイスだったが、それだけでは売れなかった(筆者撮影)
輸入車勢で最近感心した事例は、中国のBYDシール。大味なフィールではないかというのが事前の予想だったが、実際に東京~鹿児島を走ってみると、スバル「WRX STI」を電動化したらこんなクルマになるのではないかと思うようなダイレクト感あふれる操縦性だった。
中国の自動車メーカーBYDのミッドサイズセダン「シール」。こちらもSUVとは別の価値観を出すことを強く意識したモデルで、実際そういうクルマになっていた(筆者撮影)
同じプラットフォームを使うSUVの「シーライオン7」も予想を上回る完成度を示したが、低重心という物理的な資質の違いはさすがに埋めがたいものがあった。
長くなるのでこのあたりにとどめておくが、セダンモデルに共通しているのは実用性、快適性、ドライビングプレジャーがハイバランスであること。そしてSUVやミニバンに比べると空気抵抗が少なく、同じパフォーマンス、同じ技術水準であれば確実にエネルギー効率が良いことだ。
人間が持つ豊かさへの欲求と環境対策を両立させるという観点でも、セダンという車型の持つポテンシャルは非常に高いものがある。
にもかかわらず、なぜセダンがこれほどイケてないクルマ扱いされるようになったのか。言うまでもないことだが、流行に乗ったクルマの方がリセールバリューが高いという市場の論理が働いたことが第一に挙げられる。
「セダンを選びたい」というユーザーまで遠ざけてしまう要因
マジョリティユーザーの行動を左右する最大の要因は金だ。ボディカラーすら自分の好きな色ではなく最も需要が高い色が選ばれるようになって久しい。SUVやミニバンの方がセダンより残存価値が高いと評価されるのであれば、ユーザーがそちらに流れるのは自明の理だ。これは日本に限らず世界的な傾向である。
だが、要因はそれだけではない。その傾向に拍車をかけたのは自動車メーカー自身だ。有体に言えば、今販売されているセダンのほとんどは古臭い、こけおどし、格好悪いのどれかに当てはまるというのが実情。セダンがイケてるかイケてないかを論ずる前の問題で、自動車メーカーが繰り出すセダンの大半がイケてないモデルだったというのは拭い難い現実だ。
前述のようにそれらのモデルも乗ればSUVやミニバンにはない、セダンならではの美点をしっかりと持っている。
しかし、売れないからといって市場性が失われているのにモデルチェンジをしないまま放置したり、所有する喜びを完全に無視したデザインを与えたり、作り込みを頑張ったとしてもそれがSUVでも手に入れられる程度のものであったりといった体たらくでは、リセールバリューで多少損をしてもいいからセダンを選びたいというユーザーまで遠ざけてしまうのは自明の理だ。
今日の自動車マーケットはちょうどそのタームにあると考えていい。ただでさえ先進国市場のユーザーがクルマに飽きている今日、セダン作りに求められるのは、セダンを買うことこそが最も理知的な選択であると購入者のみならず、見る人にも感じさせるような作り込みだ。
そのためには前述のようなセダンならではの特性があるということに甘えたスタンスではダメだ。空力特性をSUVやミニバンが影も踏めないようなレベルにまで磨き上げ、経済性やCO2排出量で圧倒的な差をつけるくらいのクルマ作りをして、初めてユーザーを引き戻すことができるというものだろう。居住感、快適性についてもしかりだ。
情緒的な部分ではデザインも無視できない。今のセダンで素晴らしいデザインと呼べるものは少なく、大抵は古臭いか不格好かのどちらかだ。独立したトランクルームを持つセダンはハッチバックより上位で価格も高い。それに見合うディグニティ、先進性、美意識を感じさせるものであることが宿命的に求められる。
それができていないから若年層のユーザーからは「セダンは高齢者の乗り物」と嘲られ、中高年層もそんなふうに見られるのはイヤだと、セダンから降りてしまうのだ。
世の中を見回すと、少数ながらセダンであっても独自の価値を持たせることに成功しているモデルはいくつかある。筆者がその代表格の1台として挙げたいのは、テスラの4.7m級ミッドサイズセダン「モデル3」だ。
テスラ「モデル3」で実感した「これぞセダン」という商品性
「モデル3」のアメリカデビューは2017年後半で、それからすでに8年もの月日が経過している古いモデルだが、今年上半期の販売台数は北米では同じテスラのクロスオーバー「モデルY」に続く2位、欧州でも3位にランクインするなど、存在感を発揮し続けている。
テスラのミッドサイズセダン「モデル3」。後にクロスオーバーSUV「モデルY」が発売された後も明確な存在感を発揮し続けている(筆者撮影)
モデル3のインテリアは至って簡素だが、SUVに比べて死角の少ないことを生かしたクリアな視界など、セダンの本質を徹底的に追求している(筆者撮影)
今回、モデル3の「ロングレンジAWD」という中間グレードのモデルをロードテストしてみたところ、その理由の一端を垣間見た気がした。
先進性でエンジン車、BEVを問わず最新の競合モデルをなお圧倒しているのに驚かされたが、それだけだとユーザーを自社のモデルYに食われてしまう。それ以上にすごいと感じられたのは、初期型と比べてドライブフィール、エネルギー効率が格段に進化していることにあった。
筆者は2020年にモデル3の2900kmロードテストを実施したことがある。いろいろな欠点もあったが、広さ、快適性、ドライバビリティの高さ、BEVが苦手とされる高速走行を含めた電費の良さなど、何てすごいクルマなんだというのが当時の印象だった。
モデル3の後席。ミッドサイズセダンの中では最高クラスの広さを持つのが特徴。エアコン吹き出し口には空調、オーディオなどの調節やゲームができる液晶パネルが仕込まれている(筆者撮影)
トランクルーム容量は600リットル弱と広大。これとは別にボンネット下にも80リットル超のスペースがある。超高性能車でありながらセダンに求められる輸送力も犠牲にしていないのが特徴(筆者撮影)
そして、ビッグマイナーチェンジを経た現代のモデル3はそんな改良前モデルと比較しても世代が違うと感じられるくらいの進化を遂げていた。
テスラ「モデル3」。余計な飾り要素をほとんど入れず、低重心パッケージを最小限の肉付けで包むミニマルデザインが特徴(筆者撮影)
車内エンターテインメントやコネクティビティ、ユーティリティは日進月歩の世界なので、新しい技術を投入すれば進歩するのが当然だが、最大の違いは市街地、郊外路、高速道路を問わず、電費性能がさらなる改善をみていたことだった。
テスラ関係者の説明によれば、空気抵抗係数Cd値が0.23から0.219に改善されたとのことだったが、元の0.23という数値自体がきわめて優秀なものであるし、0.1違ったくらいで騒ぐほどの差はないだろうと体験的に思っていた。
ところが実際に走ってみると、電費は改良前と比べても明らかに良好。軽BEVの日産自動車「サクラ」と変わらないくらいの高水準で推移した。モデルYもSUVとしてはきわめて高効率という定評を得ているが、こうはいかないだろう。
モデル3の大きな特徴のひとつが経済性の高さ。一番左の項目は郊外路のみをのんびりペースで走ったときのものだが、走行1kmあたりの消費電力量100Wh未満という数値は軽EVに匹敵する(筆者撮影)
高速走行時の風切り音は非常に小さく、操縦性も卓越。これでこそセダンの意味があるという商品性を度重なるアップデートによって持たせ続けたことが、モデル3を人気のセダンたらしめたと言える。
BEV業界ではテスラと同じようなセダンの世界観を目指すメーカーが中国を中心に登場しており、意欲作も出てきているが、エンジン車に関しては作り手が考えることを放棄してしまったようなモデルが目立つ。
そんなことで頑張らなくてもSUVを作っていれば簡単に儲けられるとあらば、易きに流れるのも致し方ない部分もあろう。だが、今後の環境規制の行方次第ではそれもいつか終わる時が来る。そんな時に次の一手がノーアイデアというのでは競争に敗れるだけだ。
そのアイデアを鍛えるのに、性能、機能、環境負荷をすべて追求する必要があり、しかも顧客の歓心を簡単には買えないセダン作りはうってつけの材料のひとつなのだが、果たして今の自動車業界がそういう気骨を示せるかどうか。
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Source: 衰退する乗用車の「セダン」は本当にイケてないのか、主流のSUVやミニバンよりも圧倒的に優れている“資質”とは