16/09/2025 · 3 時間前

スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】

スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】

スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)

いいことばかりじゃないけれど

「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。

エクステリアデザインを刷新

今回のアルトについては、スズキの資料では「一部仕様変更」とされている。ただ、現行型デビューから3年半というタイミングとけっこう大幅な改良メニューからすると、おそらくモデルライフ折り返しの、現行アルトとしては最大の改良=マイナーチェンジということなのだろう。改良のキモは、エクステリアデザインの変更と先進運転支援システム(ADAS)の刷新、そして燃費向上だ。

エクステリアでは左右ヘッドランプ間に出現したセンターグリル(状の加飾)と上級の(マイルド)ハイブリッド車に追加されたリアスポイラーが目を引く。アルトといえば先代からセンターグリルレスフェイスが特徴だったが、ついにグリルらしきものがついたわけだ。この種のフェイスリフトは日本車で多いので「やっぱり日本ではグリルレスはウケないのか?」と思わなくもないが、2014年発売の先代アルトから数えるとグリルレス歴は10年以上におよぶ。今回はどうやら、そういう理由ではなさそうだ。

新しいアルトは、ADASが従来のステレオカメラ式から、ミリ波レーダー+単眼カメラの「デュアルセンサーブレーキサポートII」に刷新された。これは、衝突被害軽減ブレーキの自転車対応が2026年7月から継続生産車にも義務化されることを見越しての改良と思われる。他車の例を見るかぎり、従来のアルトのデザインのままでは、車体前部にミリ波レーダーを仕込むのはむずかしかったという現実もありそうだ。実際、新しいセンターグリル的な部分にレーダーが内蔵されているように見える。

さらには燃費だ。WLTCモードのカタログ燃費でいうと、今回の試乗車を含むハイブリッド車で従来の27.7km/リッターから28.2km/リッター、純エンジン車で25.2km/リッターから25.8km/リッター(ともにFFの場合)と、これまでも軽トップだった燃費はさらに向上した。

ライバルを突き放す燃費性能

今回試乗したのは最上級グレードのハイブリッドXだ。主要オプションをほぼフルトッピングした試乗車の合計価格は、約195万円。現行アルトには発売直後にもwebCGで試乗記を書いているが(参照)、当時の試乗車は同じグレードのオプションテンコ盛りで合計が約150万円だった。両車にはナビの有無などの差があるが、それを差し引いた実質価格でも30万円以上アップしている。

……と、あらためて仁義なきインフレを痛感しつつ、運転席に座ったらステアリングホイールはなんと本革巻き。これは最上級グレードだけに追加された新装備とか。細かいことだが、シフトセレクターのボタンやドアインナーハンドルがクロームメッキ化されたのも今回からである。加えて、ADASがグレードアップし、燃費も向上しているのは前記のとおり。30万円以上の価格差といっても、全額が単純な値上げではないということだ。

それにしても、これまでも軽トップだった燃費性能を。ここでさらに引き上げるとは驚いた。とくに直接競合車である「ダイハツ・ミラ イース」のWLTCモード燃費は最良でも25.0km/リッターだから、すでに大差をつけている。もしかしたら、スズキはすでにミラ イースのモデルチェンジ情報をつかんでいて、その機先を制したのか……って、知らんけど。

今回はパワートレインには手が入っていないそうで、燃費向上は空力とタイヤの変更によるものという。なにより目立つのは、思った以上に本格的なリアのルーフエンドスポイラーだが、フロントバンパーも全体形状が少し変わり、開口面積まで微調整されている。聞けばリアバンパーも変わっているそうで、なるほど両サイドがより角ばった形状になった。リアスポイラー同様、気流の巻き込みを抑制しているのだろう。さらに床下にはエンジンアンダーカバーも追加されているとか。

見えない部分も着実に進化

続いてタイヤを確認すると、ブランドもサイズも指定空気圧も変わりないが、2022年の試乗時には「エナセーブEC300+」だった銘柄が「エナセーブEC350+」に世代交代していた。転がり抵抗が低減されているのだろう。

それにしても、もともと28km/リッター近かった燃費を、空力とタイヤだけで、さらに0.5km/リッター以上もツメられるとは、燃費とは“抵抗”との戦いなのだと、あらためて思い知らされる。スズキといえば、最新の「スペーシア」や「スイフト」の開発陣に話を聞いても、空力開発での苦労話が尽きない。そうやってスズキは空力の知見をぐんぐん蓄積して、このアルトにも活用しているのだろう。

最新のADASに換装されたといっても、アダプティブクルーズコントロールを用意しないのは「アルトの顧客はそれを欲しない」というスズキならではの見切りだ。しかし、衝突被害軽減ブレーキは前記の自転車に加えて、交差点や出合い頭の危険も検知するようになったし、車線維持アシスト機能や駐車時の低速自動ブレーキなども加わり、一気に充実した。

こうした目に見える改良に加えて、乗り味や快適性といった見えない領域にもマイナーチェンジで手を入れてくるのが、近年のスズキの美点である。このアルトでも、従来はルーフ周辺だけだった高減衰マスチックシーラーをフロアにも追加したり、ドア開口部に構造用接着剤を使ったりと、車体での静粛性や剛性アップが図られている。さらに、サスペンションを“乗り心地向上”をねらってリセッティングしたという。

こうした改良の効能は思ったより大きい。とくに路面の継ぎ目やペイントを乗り越えたときのショックは、マイチェン前よりはっきりと軽く、まるくなった。この価格を考えるとロードノイズは以前から優秀だったが、これまた即座に実感できるくらい静粛性が増した。

存在感を増した“人間の重さ”

……といった事実を羅列すると、正常進化のように思える今回の変更だが、カーマニア目線では文句なしとはいいがたい。たとえば、敏感ではないけれど軽快だったステアリングレスポンスは、よくいえばマイルド、はっきりいえば鈍くなった。また、低転がり抵抗タイヤの影響か、ドライグリップも少し低下したようだ。

さらに気になったのは、乗員の体格や人数によって、ハンドリング特性に左右でけっこう明確なちがいが出てしまうことだ。物理的に考えれば、運転席にだけ人が座れば、左右の重量バランスは変わる。まして、このクルマの車両重量はわずか710kgだから、体重八十数kgの筆者だと、車重の1割をゆうに超えるウェイトが偏在することになる。ただ、ひと昔前の軽やコンパクトカーではそれを実感することがままあったが、そういう感覚自体が本当に久しぶりだった。

筆者ひとり乗車のアルトは、運転席側がしずむ右ロール=左方向へのカーブや車線変更はペタンと素早く反応するのに、反対側は逆に粘る。また、右側に深くロールしてしまうと少し戻りにくいようで、その後の直進性が悪化するケースもあった。マイチェン前のアルトでこうした現象を感じた記憶はあまりないので、2022年当時より筆者自身が数kg肥えた自覚はあるものの、最大の理由はやはり、ソフトに振りすぎたサスペンション設定にあると思われる。

もっとも、アルトは今の国産新車でもっとも安価でシンプルな一台である。であれば、こういう少しばかりのクセも、それに合わせた運転で享受すべし……と擁護したくなるのは、その軽さゆえに相変わらず活発な走りや、グリップ限界は低いが、スーパーハイトワゴンよりは路面に吸いつく安定感があるからだ。しかも、実用燃費はカタログの数値以上に進化した感がある。マイチェン前なら19km/リッター台か……といった乗りかたをしても、20km/リッターを切る気配すらないのには素直に感心した。これなら擁護もしたくなる。

(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=スズキ)

テスト車のデータ

スズキ・アルト ハイブリッドX

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1525mm

ホイールベース:2460mm

車重:710kg

駆動方式:FF

エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ

モーター:直流同期電動機

トランスミッション:CVT

エンジン最高出力:49PS(36kW)/6500rpm

エンジン最大トルク:58N・m(5.9kgf・m)/5000rpm

モーター最高出力:2.6PS(1.9kW)/1500rpm

モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/100rpm

タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC350+)

燃費:28.2km/リッター(WLTCモード)

価格:146万9600円/テスト車=195万7350円

オプション装備:ボディーカラー<フォギーブルーパールメタリック×ソフトベージュ 2トーンルーフ>(4万9500円)/全方位モニター用カメラパッケージ・スズキコネクト対応通信機装着車(10万円)/ ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(1万8810円)/ETC車載器(2万4200円)/ドライブレコーダー(4万9940円)/スタンダードプラス8インチナビセット(24万5300円)

テスト車の年式:2025年型

テスト開始時の走行距離:156km

テスト形態:ロードインプレッション

走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)

テスト距離:317.7km

使用燃料:14.6リッター(レギュラーガソリン)

参考燃費:21.8km/リッター(満タン法)/21.9km/リッター(車載燃費計計測値)

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