クルマのドアといえば、ヒンジが前で後ろ側が開く「前ヒンジ後開き」が世界標準だ。しかし降車時に足を投げ出しやすい「前開きドア」のほうが便利じゃん、と思ったことはないだろうか。実は前開きドアには歴史があり、廃れた明確な理由もある。その知られざる事情を深掘りする!【画像ギャラリー】こんなクルマもあんなクルマも! 前開きドアの傑作を見て!(11枚)文:ベストカーWeb編集部/写真:スバル、フィアット、シトロエン、プジョー、トヨタ自動車1950年代まで前開きドアは普通だった日本が誇る国民車スバル360。ご覧の通り前開きだ 現在、前開きのフロントドアを採用する量産車はほぼ存在しない。ロールスロイスが伝統へのこだわりとして採用しているくらいで、一般的な乗用車に関しては絶滅危惧種どころか絶滅状態といっていい。 しかし歴史を振り返ってみると、1950年代までは前開きドアを持つクルマが数多く存在した。たとえばフィアットの500(初代と2代目前期)やムルティプラ、シトロエンのHトラック、日本ではスバル360がその代表例だ。 なぜ前開きドアは姿を消したのだろうか?「スーサイドドア」と呼ばれた悲しき理由ロールスロイス レイス。伝統に則り前開きドアを採用し続ける 前開きドアは「スーサイド(自殺)ドア」という物騒な別名を持つ。走行中に何らかの理由でクルマから脱出しなければならない場面を想像してほしい。ドアの前が開く場合、開いたドアが邪魔してうまく脱出できないことがイメージできるだろう。それがこの名前の由来だ。 前開きドアが廃れた理由は他にもある。前方からの走行風や加速Gが、前開きドアを開く方向に作用してしまう点が危険なのだ。 加えて構造上の問題も大きい。フロントドアの開閉軸となるヒンジは、BピラーよりもAピラーに取り付けたほうが車体を強固に作れる。安全基準が厳しくなるにつれ、この構造的メリットは無視できないものとなっていった。安全性・利便性・剛性、あらゆる面で前開きドアは不利だったのだ。 一方で、前開きドアとは異なるアプローチとして、前席スライドドアにはまだ可能性が残っている。日本ではポルテがヒットしたし、3代目アルトにも設定があった。海外ではプジョー1007、最近では中国メーカーZeekrのミニバンにも採用例がある。登場が待ち遠しいセンチュリークーペも助手席側はスライドドア(観音開き)だ。 前開きドアが完全に消えた今、スライドドアという選択肢が新たな活路を見せているのは興味深いといえるだろう。