かねてから噂になっていた“エフ”がついに帰ってきた! モーターサイクルショー2025でホンダが急遽発表したこのCB1000Fコンセプトは、往年の名車・CB750FのDNAを受け継ぎながら、最新の技術で生まれた「新世代のエフ」。その詳細に迫ってみよう!
文:太田安治、オートバイ編集部/写真:南 孝幸、赤松 孝

ホンダ「CB1000F コンセプト」特徴

Honda CB1000F CONCEPT コンセプトモデル・モーターサイクルショー2025出展車両
モーターサイクルショーの会場を沸かせた次世代の旗艦
2025年3月21日。以前から噂になっていた「次世代のフラッグシップCB」がついにその姿を現した。大阪モーターサイクルショー2025のホンダブースで世界初公開されたそのマシンは、アンベールの瞬間、ライダーたちから会場が割れんばかりの拍手をもって迎えられたのだった。
CB1000Fコンセプトと名付けられたそのバイクは「F」と付けられたその名前が示すように、1970~1980年代に若者を熱狂させた「空冷最強のCB」であるCB750FのDNAを持って生まれた1台。「スペンサーカラー」と呼ばれる、シルバーにブルーのグラフィックをあしらったカラーリングが、名車の血統を、そしてこのマシンのキャラクターを雄弁に物語っている。
長年にわたり、ビッグバイクの雄として市場をけん引してきたフラッグシップ・CB1300シリーズがファイナルを迎えていく中で誕生したCB1000Fコンセプト。その佇まいは、CBブランドの頂点に立つ次世代モデルとしての「風格」を備えている。

マフラーのない左サイドはスッキリした印象。シートの絞り込みがライダーの足つき性に配慮した形状であることがよく見て取れる。
誰が見ても「エフ」だと感じさせる迫力のオーラ
CBというブランドは、いつの時代も、どの排気量帯であっても、ホンダにとって特別なブランド。中でも、4気筒エンジンを搭載するモデルは、最先端の技術と最高の性能が惜しみなく与えられ、常にクラスをリードする「宿命」を背負って生まれてくる。
そんなホンダの「伝統」に則って誕生したCB1000Fコンセプト。コンセプト、という名前ではあるが、その姿はすでに市販がかなり近い、と誰にも感じさせるほどの高い完成度を誇っている。
角ばったラインのタンクから、サイドカバー、そして少し跳ね上がったテールカウルへと流れるように連なるボディラインは、かつて「エフ」と呼ばれて数多のライダーの憧れであった名機・CB750Fで採用された「ストリームライン」を思わせるもの。
ウインカーやリアフェンダー、ミラーといった保安部品こそ装着されていないが、非常に均整の取れたプロポーションをしていて、誰が見てもひと目でこのバイクがCB、しかも「エフ」であると訴えかけてくる迫力がある。

引き締まったボディワークに息づく“エフ”らしい精悍さと迫力!
最新鋭モデルの全身から感じる「F」のオーラ
マシン全体から醸し出すオーラは「エフ」のものに思えるが、CB1000Fコンセプトはれっきとした現代の、しかも最新のバイク。仮にCB750Fを隣に並べたとしても同じ形状のボディパーツなどひとつもないことは明白である。
にもかかわらず、このバイクを眺める者のほとんどは、そのシルエットを見て「エフ」のDNAを感じ取ることだろう。これこそ、「F」というブランドに対する開発陣の想いの深さを実感させられる瞬間である。
「エフ」を感じさせるポイントは、このバイクの全身に散りばめられている。スペンサーカラーのグラフィックパターンに始まり、角ばった燃料タンクの前端のエッジの部分や、やや上ぎみにマウントされたヘッドライトとその下に位置する2連ホーンが構成するフロントマスクの表情、そして少し跳ね上がったダックテール風のテールカウルデザインなど、往年のCB750Fのスタイリングのポイントが、このコンセプトにもしっかりエッセンスとして反映されているのである。
名機のDNAを現代に再現!

Honda CB750F 1979年
カワサキのZに奪われた欧米でのシェアを取り戻すべく開発された空冷最強のCB。無敵を誇ったワークスマシン・RCBの技術を投入したDOHC4バルブユニットを搭載し、斬新なデザインのボディを採用。1979年のデビューから多くのライダーたちを熱狂させた名車だ。
▶▶▶詳しくはこちら ホンダ「CB750F」1979年【昭和の名車解説】 - webオートバイ
ベースはCB1000ホーネット!

Honda CB1000 HORNET
CB1000Fコンセプトのベースになったのは、発売されたばかりのストリートファイター、CB1000ホーネット。CBR1000RR譲りの強力なパワーユニットとグラマラスなボディワークを備え、ダイナミックなパフォーマンスを楽しめるスポーツモデルだ。
▶▶▶詳しくはこちら ホンダ「CB1000ホーネット」車両情報 - webオートバイ
スポーツCBの旗艦も世代交代!?

画像1: ホンダ「CB1000Fコンセプト」徹底チェック! CBらしさあふれるスタイルで現代に蘇った“最強のF”
CB1000Fと入れ替わるようにその使命を終えていくCBシリーズのフラッグシップ「プロジェクトBIG-1」のCB1300スーパーフォア(右奥)。世代交代がまさにこれから始まるわけだが、威風堂々の1300に対し、1000はしなやかで従順な印象。2台の対照的なスタンスが面白い。
ホンダ「CB1000F コンセプト」ファーストインプレッション
コンセプトモデルとは言いながら、このCB1000Fコンセプトはかなりの完成度。このまま保安部品を付けて発売しても不思議ではないレベルの仕上がりを見せている。そんなCB1000Fコンセプトの実車に早速触ってみたぞ!

画像: ホンダ「CB1000F コンセプト」ファーストインプレッション
取り回しも良さそうなコンパクトさが好印象
CB1000ホーネットをベースとしていることもあって、CB1000Fコンセプトは写真で見るよりスリムでコンパクト。伸びやかなボディデザインをしているため写真で見ると大きく見えがちだが、実車はリッターバイクと言うより、アッパーミドルスポーツに近いサイズ、と言った方がいいかもしれない。
そして、正面や真後ろから見ると際立つのがワイドなハンドルバー。CB750Fの名声を高めるきっかけになった、1980年代のAMAスーパーバイクレーサーを思わせるワイドぶりで、ハンドルのセット位置も手前なので、ライダーの上半身はかなり起きた、アップライトなライディングポジションとなる。市販化され、実際にまたがるチャンスが来たら、ぜひまたがって体感して欲しい。想像以上のリラックスぶりに驚くはずだ。
「ベストバランス・ロードスター」という開発テーマ通り、このCB1000Fコンセプトはあらゆるシーンで気負わず走りを堪能できるバイク、というのが狙い。男前なルックスでも、実車は予想以上にフレンドリーだ。
元「エフ」オーナー太田安治は見た!
2020年に発表されたCB-Fコンセプトを見た僕は「出たら買う!」と宣言したものの、市販化は見送りに。CB1000RがCB1000ホーネットへ代替わりしたことも影響したのかもしれないが「エフ」の復活を諦めなかったホンダの開発陣には感謝しかない。
ホーネットとプラットフォームを共用しているが、実車の雰囲気は別物。タンクからテールカウルまでのデザインはCB750Fを彷彿させる流麗さで、マッチョ感のあるホーネットとは異なる引き締まったプロポーションにまとまっている。
僕は30年ほど前にCB750F(FC)で「パワフル&軽量コンパクト」を目指してカスタムの沼にはまっていて、そのときに思い描いていた完成形と、このFコンセプトの姿は不思議なほど重なる。
ホーネットに試乗してエンジンのデキの良さに感心しただけに、僕が手を入れるならハンドルとステップ、マフラー程度にとどめると思うが、新たな発想のカスタムスタイルが出てきそうな予感もある。久々に市販開始を待ち遠しく思う一台だ。
ホンダ「CB1000F コンセプト」ライディングポジション・足つき性
ライダーの身長・体重:176cm・62kg

画像1: ホンダ「CB1000F コンセプト」ライディングポジション・足つき性
ハンドル幅はかなり広く、長めのハンドルライザーを介して高さも稼いでいる。ステップ位置はホーネットより低くて前寄り。上体が起き、膝の曲がりも少ない80年代のビッグバイク的なリラックスしたポジションに設定されている。足つき性はこのクラスのネイキッドとして標準的。おそらくシート高は810mm程度だろう。

画像2: ホンダ「CB1000F コンセプト」ライディングポジション・足つき性
ホンダ「CB1000F コンセプト」スタイリング解説

サイドカバーやテールカウルなど、外装パーツのひとつひとつは非常にコンパクトだが、全体のフォルムは伸びやかで堂々たるもの。

伝統と新しさを絶妙なバランスでブレンドしたスタイリングは、見る者にこのバイクがCBシリーズの一員だということを実感させる。

「F」の車名が示す通り、CB1000Fコンセプトは、往年の“エフ”のフォルムを見事に昇華してみせたフォルムが特徴。最新のスポーツモデルらしいコンパクトな車体ながら、当時のオーラを感じさせる仕上がりとなっている。

若干高めにセットされたヘッドライトと、その下に2つ並ぶホーンのレイアウトが、かつてのCB750Fを彷彿させるフロントビュー。

一見タンクがワイドに見えるデザインだが、ニーグリップ部分がしっかり絞られていて、実車は写真で見るより車幅もスリムだ。
ホンダ「CB1000F コンセプト」各部装備・ディテール解説

外側にポジションランプを配した丸目のLEDヘッドライト。ライトユニットは上下2段でロービームで上が、ハイビームでは上下が点灯する。

ワイドで手前にセットされたブラック仕上げのハンドルバーは、往年のスーパーバイクバーを思わせるもの。ニーグリップ部のタンク上部の絞り込みが美しい。

メーターはホーネットと同様の5インチのカラーTFT。表示内容はおそらくホーネットと同等と思われ、ライディングモードも用意されるだろう。

左スイッチボックスはホーネットと同タイプで、十字のセレクトキーを備えた新作。「MODE」ボタンはライディングモード選択用と思われる。

フロントフォークはショーワ製のSFF-BP。ホーネットと同じパーツだが、マシンの性格を考慮して専用セッティングとなる可能性も。

角張り、中央部が盛り上がったタンクのデザインはCB750Fを彷彿とさせるもの。ベースのホーネットがダウンドラフト吸気なので、タンク下部の絞り込みは少なめ。

エンジンはSC77型と呼ばれる、2017年式のCBR1000RR用がベース。ホーネットのSTDは152PSだが、おそらくCB1000Fコンセプトのスペックもそれに近いはずだ。

スタイルに合わせて新作のメッキ仕上げが美しい、メガホンタイプのマフラーを装着。サウンドも入念に造り込まれている模様だ。

フロントまわりのパーツ構成はホーネットと同じ。ブレーキはニッシン製4ポットキャリパーにΦ310mmローターの組み合わせとなる。タイヤはBS製のS22。

リアのスイングアームはアルミ製。左右非対称構造として、右側のアーム形状を湾曲させることでエキパイレイアウトの自由度も高めている。

リアサスペンションはプロリンク。パーツ自体はホーネットと共通だが、キャラクターに合わせたセッティングが施される可能性もありそうだ。

サイドカバーは小ぶりなデザイン。車名ロゴのCB1000Fは「F」の部分が赤文字になっている。キーシリンダーはシート開閉用。

アルミ製のタンデムステップステーはガッチリした造り。シートレールとの締結位置が2本ショックのレイアウトに近く、リアまわりのルックスを向上させている。

スーパーバイクレーサーを思わせる段付きのシート。ライダー部のワディングパターンはかつてのCB750F(FZ)を思い起こさせるデザイン。

LEDテールランプはCB750Fのイメージを残した、大型の八角形デザイン。テールカウルはコンパクトに絞り込まれている。
ホンダ「CB1000F コンセプト」開発者インタビュー

原本貴之 氏(LPL)本田技研工業株式会社 二輪・パワープロダクツ事業本部 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部 商品開発部 商品開発課 アシスタントチーフエンジニア
「エフ」を知らない人にも気負わず楽しめる1台です
「開発にあたって、実は最初から“現代版のエフ”を造ろう、と決めていたわけではなかったんです。次世代のフラッグシップとなるCBって何だろう、というテーマで、候補となるデザインを5~6種類制作し、その中から最終的に選ばれたのがこのFコンセプトだったのです。ですから、このバイクは2020年のCB-Fコンセプトとは別のバイク、ということになります」
そう語るのはCB1000FコンセプトのLPL(開発責任者)を務めた原本さん。CBシリーズの次世代を担うバイクとして、開発陣がベースに選んだのはCB1000ホーネットだった。
「ただ、ホーネットはダイナミックな走りを楽しむストリートファイターですが、このCB1000Fコンセプトはキャラクターが少し違います。開発時のテーマは『ベストバランス・ロードスター』。もちろんスポーツ性能も十分なものを備えていますが、気負うことなく楽しめて、ちょっとお出かけするのにも乗っていきたくなる、そんなキャラクターのバイクを目指しました」
構えることなく、ピュアに走りを楽しむロードスター。とはいえ“エフ”らしさもしっかり追求されているのも大きな魅力だ。
「かつての“エフ”を知る方にも納得していただけて“エフ”を知らない方にも楽しんでいただけるようなバイクにしたい。そんな想いで開発しました。メガホンマフラーは外観にも音にもこだわり抜いて開発したパーツですし、個人的には右後ろ、やや下から眺めたときが一番カッコいいバイクだと思っています。いまはまだ詳しくお話しできないんですが、皆さんぜひ楽しみにしていてください!」
ホンダ「CB1000F コンセプト」動画・写真
文:太田安治、オートバイ編集部/写真:南 孝幸、赤松 孝
Source: ホンダ「CB1000Fコンセプト」徹底チェック! CBらしさあふれるスタイルで現代に蘇った“最強のF”