“ポルシェの聖域”に設定された“初ハイブリッド”の実力は? 電動化への不満は皆無! 新型「911カレラGTS」はシリーズ随一の気持ちよさ


ポルシェの聖域にもついにハイブリッド化の波が

 2019年に日本上陸を果たした、“タイプ992”と呼ばれる現行型のポルシェ「911」。昨2024年には通称“992.2”と呼ばれる改良型がデビューし、日本市場でのデリバリーも進んでいます。今回の進化で大きな話題となっているのは“電動化”。そう、「911」にもついに“T-ハイブリッド”を名乗る初のハイブリッドモデルが投入されたのです。愛好家ならずとも気になる、そのキャラクターと完成度はいかがなものでしょう?

ポルシェ新型「911カレラGTS」

【画像】「えっ!…」見た目の迫力にも注目! これがシリーズ初のハイブリッド仕様 ポルシェ「911カレラGTS」です(30枚以上)

「ついにこのときが来たか…点」。“T-ハイブリッド”デビューのニュースを読んだときの感想は、正直にいえば悲喜こもごも。新たなメカニズムに対して強い興味がある一方、歴史ある「911」の電動化にはちょっとした抵抗を感じたのも事実です。

 筆者(村田尚之)は電動化やBEV(電気自動車)に対するアンチではありませんし、むしろポルシェのフル電動モデル「タイカン」の走りや完成度には感動を覚えたほどです。

 とはいえ、「911」はポルシェの聖域……とはいわないまでも、電動化に関しては不可侵な存在でいて欲しかった、という思いもありました。というのも、フラットシックスが奏でるサウンドに、速度やエンジンの回転数とリンクしないインバーター音やモーター音が重なるのではないか? 走行中にエンジンとモーターが切り替わるのではないか? と危惧したからです。

 百聞は一見に如かず、といいますから、早速、試乗に出かけてみたのですが、不安は全くの杞憂でした。それどころか、帰路では自らの無知を恥じつつ、すっかり“T-ハイブリッド”の虜(とりこ)になっていたのです。

 現在、ポルシェの「911カレラ」系は、ベースモデルとなる「911カレラ」、軽量モデルの「911カレラT」、パワーアップ版の「911カレラS」、そして頂上モデルである「911カレラGTS」と「911カレラ4GTS」というラインナップを展開。そのうち、本記事でフォーカスする“T-ハイブリッド”が搭載されているのは、「911カレラGTS」と「911カレラ4GTS」です。

 その心臓部は、3591ccの水平対向6気筒エンジン+電動ターボチャージャー+8速PDK(デュアルクラッチ式トランスミッション)内蔵モーターという凝ったメカニズムで、システム最高出力は541ps、システム最大トルクは610Nmを発生します。

 改良前である通称“992.1”の「911カレラGTS」は、2981ccの水平対向6気筒エンジン+ツインターボで、最高出力は480ps、最大トルクは570Nmでしたから、実に61ps、40Nmという大幅な出力向上が図られています。

 さらに細かく見れば、“992.2”はエンジン単体で485psを発生しますが、その排気量からもご想像いただけるように、新開発のユニット。エンジン上部を電動化に不可欠なパルスインバーターとD-DCインバーターの設置スペースとすべく、本体の位置を下げたほか、エアコンの電動化やベルトドライブの廃止といったコンパクト化も図っています。

 ターボチャージャーも、“992.1”が小型×2基であったのに対し、“992.2”は電気モーター一体型×1基に改めています。

 このターボチャージャーは、コンプレッサー側とタービン側の間に電動モーターを搭載。これにより、発進時などの極低速域でもモーターによって瞬時に回転数をアップさせ、ブースト圧を高めることが可能となっています。

ポルシェ新型「911カレラGTS」

 また、モーターはジェネレーターとしても機能し、排ガス流によってエネルギーを回生。最大で11kW(15ps)の出力を発生します。

●「911GT3」をもしのぐパフォーマンスをマーク

 さらにPDKには、最大150Nmの駆動トルクを生み出す永久磁石同期モーターが統合されており、フラットシックス・エンジンをサポート。もちろん、回生モードも搭載しており、従来のバッテリーと同等のサイズ・重量ながら、最大1.9kWhの容量を有するバッテリーを搭載しています。

 これらにより、“992.2”の「911カレラGTS」は低速域でも十分なパフォーマンスを実現。特に0-100km/h加速は3秒、最高速は312km/hと、「911GT3」をもしのぐ速さをマークします。

 また“T-ハイブリッド”は、PDKに内蔵されながらもモーターのみでの走行モードも備えない、マイルドハイブリッドに準じたメカニズムとなっています。もちろん、これら電動化に伴って採用されたシステムはいずれもコンパクトまとめられており、重量増は約50kgにとどまっています。

 ちなみに、新型「911カレラGTS」ではリアアクスルステアリングが標準装備となったほか、ハイブリッドシステムとPDCC(ポルシェ・ダイナミックシャシー・コントロール/ロール制御機能)を統合制御するなど、車両全体のパフォーマンス向上が図られています。

フルデジタル式メーターパネルが目を惹くコックピット

 新たなメカニズムを手に入れた心臓部に対して、エクステリアやインテリアはどのように変化しているのでしょう?

ポルシェ新型「911カレラGTS」

 まず、5つのアクティブフラップを備えたフロントバンパーは、新型「911カレラGTS」を象徴するディテールといえるでしょう。このエアフラップは必要に応じて開閉し、空力と冷却性能の両立を図るほか、連動して制御されるアダプティブフロントディフューザーも備えています。

 横一文字のコンビネーションランプやガーニッシュ部分といった基本的なリアデザインは、「911カレラ」系モデルの変更点に準じます。一方、新型「911カレラGTS」はセンター2本出しの専用スポーツエキゾーストシステムを備えており、リアのバッジ以外でもそのハイパフォーマンスを主張します。

 そのほか、標準装備となる20/21インチホイールに装着されるタイヤも、フロントこそ245/35ZR20と“992.1”と同サイズですが、リアは315/30ZR21とワイド化されています。

 一方、インテリアでは、今回から採用されたフルデジタル式のメーターパネルが目を惹きます。“992.1”まではアナログ式タコメーターを中心に据え、その両サイドに液晶パネルが配置されていましたが、“992.2”ではそれが12.6インチの曲面タイプの一体型に改められています。

 当初は「『911』らしさがひとつ失われたな……」と残念な気持ちもあったのですが、表示の自由度が高まり、ナビ画面をメーター内に表示できたり、ハイブリッドシステムの作動状況を瞬時に確認できたりと、必要な情報へのアクセス性が向上。

 もちろん、立体感たっぷりに表現される従来同様の5眼表示モードも用意されており、思いのほか違和感なく馴染むことができました。

 加えて、“992.2”ではエンジン始動時の“儀式”がノブをひねるタイプからスイッチをプッシュする方式に変更されましたが、こちらも始めこそ左手が空振りしたものの、すぐに馴染むことができました。

●「911カレラ」系で随一の走りの気持ちよさ

 ここからは、新型「911カレラGTS」で最も気になる走りのフィーリングについてお伝えしましょう。

ポルシェ新型「911カレラGTS」

 今回、市街地から高速道路、そしてちょっとしたワインディングで実力を試してみたのですが、その進化は歴然です。

 とはいえ、ドライブしてみて“電動化の恩恵”を実感できるのは、実は比較的ハイペースで走っても良好な燃費ぐらいのもの。黒子に徹する“T-ハイブリッド”はその仕上がりが想像以上に素晴らしく、「今はモーターのアシストや電動ターボが効いているな」と気づくことや違和感が一切ないのです。

 パンチのある加速どころか、もはやキックとでも表現したくなる強烈な加速も、エンジンらしい伸びやかさをたたえています。

 街中を流して走るようなシーンやちょっとしたワインディングでアクセルペダルをオン/オフしても、”ツキ”のよさと加速感は人の感性や感覚にピタリと沿ったフィーリング。気持ちよさは「911カレラ」系で随一といっても過言ではありません。

“T-ハイブリッド”はハイブリッド車ですと説明されない限り、いや説明されても、異なる動力源があるとは気づかないほど、は極めて自然なフィーリングなのです。

 懸念していた電気的雑音も、完全といっていいほど排除されているのには正直、驚かされました。そして、車内に聞こえてくるサウンドも歯切れよく、伝統的な金属的響きやビートをしっかり感じとれます。

* * *

 ポルシェの開発能力や入念なテストを決して見くびっていたわけではありませんが、“T-ハイブリッド”の完成度はエンジン愛好家を十分に納得させるものでした。

 スポーツカーとして知られる「911」ですから、こうした新機軸の投入時は「911カレラ」とは別ラインのシリーズを立てる、もしくは、スポーツモデルを頂上に据えてベースモデルから導入する、という手もあったはずです。

 しかし、偉大なるオリジナルの「911カレラ」系モデルの頂上としてデビューさせたというのは、相応の自信があってのこと。メカニズムの一部が電動化されても、GTSのすべては「911」の流儀に則っており、これも「最新は最良」の一面なのだと気づかされました。

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