レーサーレプリカ全盛期になぜ ホンダ CB900Fは再評価されたのか?1978年の創刊以来、『RIDERS CLUB』は数多くの名車を取材し、最新スポーツバイクの試乗インプレッションやテクノロジー、機能美を伝えてきた。本企画「Legend Machine Archives」では、その膨大なアーカイブの中から、今なお語り継がれる伝説的バイクを厳選。当時の試乗記事や開発背景を再構築しながら、現代の視点でその魅力と価値を振り返る。 RIDERS CLUB 1990年10月 12日号 No.170+---------------------------+PHOTO/ M.MORISHITA TEXT/RIDERS CLUB+---------------------------+“重そうなのに軽い”CB900Fの不思議な旋回性能 このCB900Fが撮影されたのは、1990年10月12日号。当時はレーサーレプリカブームが最高潮を迎え、峠文化も成熟していた時代だった。その視点から見ても、1978〜1982年に活躍したCB900Fは「10年前のレーサー」であり、AMAスーパーバイクでもバーハンドルはすでに過去の存在。スペック上の数値も、時代遅れに映っていた。 しかし、当時の試乗インプレッションを読み返すと、フレディ・スペンサーが作り上げたCB900Fの本質は、単なるスペックでは語れないことがよく分かる。電子制御が存在せず、ライダーの入力と車体の反応がダイレクトにつながっていた1980年代初頭のスポーツバイクだからこそ、現代のライダーにも通じる“操る面白さ”が色濃く残されていたのだ。 レース仕様とはいえ、180kgの車体と巨大なエンジンを持つCB900F。ベースとなったCB750F/900Fは安定性重視の設計だったこともあり、多くのライダーは「スペンサーはこのマシンと相当な格闘をしていたはず」と想像するだろう。 だが、記事内では「大柄なのに軽い」という表現が何度も登場する。「ナナハンどころか400ccクラスのよう」と表現されるほど車体はコンパクトに感じられ、力を入れなくても素早く軽快にリーンできたという。 その理由は、単純に16インチフロントホイールによるものではない。重心位置やロールセンター、キャスター角とトレール量といった車体ディメンションの完成度が高く、後輪の接地感を主体に旋回する設計思想が徹底されていたからだ。 実際、市販車とは各部のレイアウトが大きく異なり、フロントまわりはステアリングレスポンスを従順にする方向でセットアップされていた。これは1990年代のGPマシンに通じる考え方であり、低重心化による高速安定性を重視していた市販CB750Fとは、まったく異なるアプローチだった。 また、当時のテスターは「最初の数100mで感じる“軽さ”とは、質量ではなく応答性の軽さだ」と語っている。きっかけを与えると車体は遅れなくバンクし、押さえ込むのではなく、狙ったラインへ自然と吸い込まれていく。ブレーキを残したままコーナーへ進入しても、フロントが不安を訴える前にリアが穏やかに向きを変え、S字では次のリーンへ移った瞬間には、すでにマシンが曲がり始めている感覚だったという。 結果として、速度計以上に“体感速度”が速く感じられる、極めて実感速度の高いスポーツバイクだったと記されている。 ①②③現代では、操りやすいスポーツバイク作りには重心位置やアライメントバランスが重要だと広く知られている。しかし、それを1980年代のアメリカ・ホンダ、そしてフレディ・スペンサーがすでに理解していた事実には驚かされる。 エンジンは、1980年当時のAMAスーパーバイク規定に合わせて1025ccまでスケールアップされた空冷DOHC直列4気筒。4000〜5000rpmでは大排気量4ストらしい分厚いトルクを発揮しながら、6000rpmを超えると一気に鋭さを増し、3速全開ではフロントが浮き上がるほどの加速を見せた。スペック上は160psだったが、その加速感は“懐かしさ”に浸る余裕すら与えなかったという。 一方で、初期のフラットバルブキャブレター特有の扱いづらさもあった。吸入負圧によってスライド部の動きが渋くなり、立ち上がりで全閉から半開へ移行する際、スロットル操作に対する反応が遅れることがあったのだ。力を込めて捻ると急に開いて姿勢を乱す場面もあり、電子制御スロットルを持つ現代スポーツバイクの扱いやすさを改めて実感させる。 この試乗記事が掲載された1990年は、カワサキ・ゼファーが登場し、ネイキッドブームが始まった時代でもある。レーサーレプリカ全盛期の中で、空冷直4+2本サスというクラシカルなスタイルは大ヒットを記録し、その後の日本製ビッグネイキッドの定番となっていった。 ④⑤そうしたバイク史の流れの中で、1990年にCB900Fを改めて試乗した意味は大きい。「アップライトなライディングポジションのスポーツバイクが再び注目され始めている。それを単なる雰囲気だけで終わらせてはいけない」と記事中にあるように、レーサーレプリカ一辺倒だった時代の中で、“速さ”や“楽しさ”の価値観に変化が生まれ始めていたのだ。 そしてスペンサー仕様のCB900Fは、「10年落ちとは思えない。むしろ現代の市販車がまだ追いついていない部分すらある」と当時の試乗ライダーに語らせた。バイク作りの基本を突き詰めれば、アップライトなネイキッドでも鋭く、速く、そして楽しく走れる。その事実を、このCB900Fは今なお雄弁に物語っている。 F.スペンサーさんが熊本に降臨 CB1000Fを走らせた! 2025年10月5日にホンダの熊本製作所で開催された「Honda モーターサイクル ホームカミング 熊本 2025」のために、スペンサーさんが来日。会場には1982年にデイトナ100マイルレースで優勝したCB900Fや、1985年にGP500と250でダブルチャンピオンを獲得したGPマシンが展示され、それらにまつわるトークショーを披露。 ステージを下りてからも写真撮影やサインを求めるファンが長蛇の列をなした。 イベント前日、新型CB1000Fに試乗。「全体のフィーリングはホンダらしさが色濃く出ている。街乗りも良いが、サーキットで走るのが楽しいバイクだ」と高評価だったレースで勝利した後どこにも立ち寄ることなく、スペンサーさんの自宅に運び込まれ、数年間保管されていたというCB900F。相棒との十数年ぶりの再会に満足げ