クルマに自動制御が導入されてからかなりの年月が経過したいま、かつては上級者の証明でもあったドライビングテクニックが不要になったともいわれている。そんな消えゆくドラテクの数々を振り返り、現代でも通用するのかを検証していきたい。【画像ギャラリー】その操作、まだ必要? 消えゆくドラテクとは?(9枚)文/長谷川 敦 写真/スバル、トヨタ、日産、メルセデスベンツ、写真AC、Adobe Stock/アイキャッチ画像:Dawson@Adobe Stock現代でも通用する定番テクニック●ヒール・アンド・トゥ右足のつま先でブレーキ、かかとでアクセルペダルを操作するのがヒール・アンド・トゥ。別々の動作を同時に行う必要があり、難易度の高いドラテクだ マニュアルでの変速操作が一般的だった時代にスポーツドライビングの基本テクニックといわれていたのが「ヒール・アンド・トゥ」。 これはシフトダウンする際に使うテクニックで、右足のつま先(トゥ)でブレーキ、かかと(ヒール)でアクセルを踏み、減速のためブレーキを踏んだ時にもアクセルをあおってエンジン回転数の差を合わせるのが目的。 ヒール・アンド・トゥの難易度はかなり高いが、スポーツドライビングでは基本であり、速く走らせたいドライバーはこのテクニックの習得に時間を費やした。 ヒール・アンド・トゥはブレーキとアクセルの踏み加減が微妙で、クラッチをつないでいない瞬間にアクセルをあおりすぎた場合にはエンジン回転が必要以上に上がってしまい、オーバーレブでエンジンにダメージを与えることもあった。 だが、自動変速(オートマチックトランスミッション・AT)車の割合が90%以上に達し、スポーツカーでもクラッチ操作を必要としないパドルシフトが普及している近年では必須のテクニックではない。 とはいえ、現在でもマニュアルトランスミッション(MT)仕様のクルマは販売されているので、ヒール・アンド・トゥが絶滅してしまったわけではない。 これからもMT車を運転する可能性があるなら、ヒール・アンド・トゥは身につけておいて損はない技術といえる。さすがにこれはもうやらない? 古典的ドラテク2選●ダブルクラッチ写真の左端がクラッチペダル。1回のシフトチェンジでクラッチペダルを2回踏むのがダブルクラッチだが、現在のクルマではこの操作はまず必要がない もはや死語になりつつあるのが「ダブルクラッチ」だ。 ダブルクラッチとは、シフトダウンを行う際に一度クラッチを踏んでギアをニュートラルポジションに戻し、そこでアクセルをあおってエンジン回転を上げておいてから再びクラッチを踏んでギアチェンジを行う操作。 シフトダウンの際に各ギアの回転数に違いがあると、ギアとギアがうまくかみ合わず、ギア同士がぶつかって破損、あるいは偏摩耗してしまう危険性がある。 これを回避するために、一度ニュートラルにしてから回転を合わせるのだ。 ギアの回転をシンクロさせる機構が装備されていればMT車でもダブルクラッチは必要ないが、以前のこの機構は精度が低く、スポーツドライビングでなくてもダブルクラッチを使うケースは多かった。 シンクロの性能も上がり、そもそもAT車全盛の現代では、ダブルクラッチを使う機会はほとんどない。●ポンピングブレーキ一度強くブレーキペダルを踏んでからそれを緩め、再びブレーキペダルを踏む動作を繰り返すのがポンピングブレーキ。正確に停車させるのはかなり難しい スピードの出ているクルマを急停車させたい場合に目いっぱいブレーキを踏むと、タイヤがロックしてしまい、そのままの状態で滑走することになる。 これでは意図した制動が行えないので、ロック状態を一時解除してタイヤを再び回し、もう一度ブレーキを踏んで制動距離を縮めるという動作を繰り返すのが「ポンピングブレーキ」。 かつては急制動の必須テクニックだったポンピングブレーキだが、技術が進んでこのブレーキ操作を電子&機械的に行えるようになった。 そう、これがABS(アンチロック・ブレーキ・システム)だ。 ABSの制動能力が人間の操作を上回るとともに、ABSを装備するクルマも増えたことから、ポンピングブレーキを行うドライバーは減っていった。 ABSを装備しないクルマに乗っている人は身につけておきたいポンピングブレーキだが、現在における必要性はそこまで高くはない。必要性が疑問視されるドラテク●ソーイングステアリングホイールを小刻みに回す操作がソーイング。「探りハンドル」と呼ぶこともあり、以前は比較的ポピュラーなドラテクのひとつだった カーブを曲がる際、ステアリングホイール(ハンドル)を小刻みに操作するのが「ソーイング(Sawing)」で、ソーイングはノコギリを細かく前後に動かすような動作を表す英語だ。 ソーイングはタイヤがどのくらいグリップするのかを探るための操作であり、レースなどでの高速コーナリング時にタイヤのスリップアングルを調整して旋回速度を高めるという効果もある。 ソーイングは現代よりもずっとグリップの低いタイヤが使われていた時代に発展したドラテクだが、タイヤ性能の向上に伴い徐々に廃れていった。 また、ステアリングホイールを切ったり切り戻したりするよりも、丁寧にゆっくり操作するほうがタイヤの限界を探りやすいという見解もあり、以前でも必須のドラテクというわけではなかった。 雪道や氷結路面など、極端にグリップの低い路面の走行ではソーイングが有効になるケースも考えられるものの、そもそもラリー競技でもないかぎりこうした路面で限界走行をする必要はなく、十分なマージンを残して走るのが安全運転の鉄則といえる。●フェイントオフロードをハイスピードで走るラリーではフェイントを使うこともある。ただし、路面やコーナーによっては使用しないケースも多く、必須のドラテクではない 右に曲がろうとする際に、一瞬だけ左にステアリングホイールを切ってからすぐに大きく右に切ることがあり、この逆方向への操作が「フェイント」と呼ばれている。 フェイントはコーナーでの荷重移動に利用されるもので、コーナーに対して外側になるほうのタイヤ荷重を一瞬抜き、そこから内側にステアリングホイールを操作して外側の荷重を増やし、スムーズに車体を曲げるテクニック。 フェイントもタイヤや車体の性能が向上した現在ではあまり使われることがなく、クルマが不安定になりやすいという難点もある。 なお、一般道を普通の速度で走っていても、目的の向きとは逆にステアリングホイールを操作してから曲がる人がいるが、これは速く走るためのフェイントではなくただの悪いクセ。 このような“逆振り”は後方を走るクルマの運転手に誤解を与えやすく、歩行者にも迷惑になるので早めに矯正しておきたい。