街中をゆくクルマのなかには、外観やブランドがまるで異なるにもかかわらず中身はほぼ同じという“血縁関係”を持つモデルが存在する。今回は、メーカー同士の提携やグループ内のリソース共有によって生まれた、意外な兄弟車たちを紐解いていく。【画像ギャラリー】実は“血縁関係”を持つ名車たち(10枚)文:井澤利昭/写真:トヨタ、Automobili Lamborghini S.p.A. Company、BMW Japan、 Dr. Ing. h.c. F. Porsche AG.、CarsWp.comスバル・トラヴィック×オペル・ザフィーラスバル初のミニバンとして2001年に登場したトラヴィック。オペル・ザフィーラのOEMモデルはあるもののスバル独自のサスペンションチューンが施された 2000年代初頭、GMグループの再編によって生まれた一台が「スバル・トラヴィック」だ。実はその中身は、ドイツのオペルが開発した初代ザフィーラのOEMモデル。 当時、GMの傘下にあったスバルが、手薄だったミニバンラインナップを補完するために導入したのがその誕生のきっかけだが、このトラヴィックは単なるバッジの付け替えに留まらなかったのが面白いところ。 ベースとなったザフィーラは、質実剛健なドイツ車らしい作りで、3列目シートを床下に格納できる画期的な「フレックス7シーティングシステム」を採用していたが、スバルはこの優れたパッケージングを活かしつつも徹底的な“スバル化”を敢行。 欧州と日本で入念なテストを行い、サスペンションのダンパーやスプリング、ブッシュ類に至るまで独自のチューニングを施した。 さらに、日本に導入されたザフィーラのエンジンが1.8リッターだったのに対し、トラヴィックはよりパワフルな2.2リッターエンジンを搭載。生産こそGMのタイ工場で行われたが、その走りの質感は本家オペルをも凌ぐと評され、「ポルシェのようなミニバン」という異名さえ囁かれるほど高い完成度を誇った。 また、ザフィーラの新車価格が約290万円だったのに対し、トラヴィックは約200万円と、100万円近いバーゲンプライスも魅力的で、そうした事情を知る自動車通たちからは熱烈な支持を集めることに。 2005年のGMとスバルの提携関係が解消したことで、1代限りで姿を消したものの、ドイツのアウトバーンで鍛えられたザフィーラの基本性能に、スバルのこだわりが融合したトラヴィックは、血縁関係にありながらも、兄貴分を凌駕する運動性能を手に入れた稀有な例といえるだろう。GRスープラ(A90)×BMW Z4(G29)先代の80スープラの生産終了から17年ぶりのその名を受け継ぎ、2019年に販売がスタート。最上位グレードのRZには歴代モデル伝統の直列6気筒エンジンが搭載される 先代のA80型の生産終了から約17年。日本のスポーツカーファンが待ち望んだ「スープラ」の復活の夢は、ドイツ・BMWとの協業によって成し遂げられた。 クルマ好きであれば誰もが知るところだが、5代目となるA90型GRスープラと3代目BMW Z4は、プラットフォームやパワートレインを共有する兄弟車。 両車ともに生産はオーストリアのマグナシュタイヤー社グラーツ工場で行われ、BMW製の直列6気筒もしくは4気筒ターボエンジンを搭載する。 基本的な設計・開発はBMWのCLAR思想をベースにBMW主導で進められ、FRレイアウトや直列6気筒エンジンを含むパワートレインを共通とすることなど、開発の初期段階では両社の間で技術的な提案や確認などはされたものの、基本的な仕様が決定した後はそれぞれが分かれて開発を進めるという手法がとられた。 そのため、ハードウェアは同じでも、最終的な味付けはまったく異なる。 Z4が優雅なオープントップのロードスターとして、快適性とスポーツ性のバランスを重視した「大人のオープンスポーツ」で、オープンカーらしい風を感じながら爽快感を味わえるラグジュアリーさが魅力。 対するGRスープラは高剛性なクーペボディを活かし「ピュアスポーツ」としての回頭性やトラクション性能を徹底的に追求している。 実際、GRスープラはBMW由来のメカニズムを用いながらも、歴代トヨタ車の走りを磨いてきた成瀬弘氏の思想を受け継ぐ、トヨタモーターヨーロッパ所属の開発ドライバー、ヘルウィグ・ダーネンス氏の手によって鍛え上げられたストイックな走りを見せる。 とはいえ、スープラのインテリアをのぞけば、シフトノブやスイッチ類、カーナビやオーディオなどにBMWのクルマであることが色濃く見て取れる。 こればかりは、どちらが優れているか甲乙がつけがたい。アストンマーティン シグネット×トヨタ iQ全長2985mmという軽自動車よりもコンパクトな車体に1.3リッター直4または1リッター直3のエンジンを搭載 意外性があり、インパクトの強かったクルマといえば、英国の超高級スポーツカーブランド「アストンマーティン」と日本の「トヨタ」との組み合わせで生まれたこの2台ではないだろうか。 「シグネット」は、全長3mにも満たないマイクロカー「トヨタ iQ」をベースに、アストンマーティンが徹底的なカスタマイズを施し、2011年から販売がスタート。 2007年、ニュルブルクリンク24時間レースに出場したモリゾウこと豊田章男氏が、当時のアストンマーティンCEOであったウルリッヒ・ベッツと同じピットになったことから実現したといわれるこのコラボの背景には、欧州におけるメーカー平均CO2排出量規制への対応というウラ事情があったものの、完成した車両は単なる数合わせの域をはるかに超えていた。 iQが持つ大人3人と子ども1人が乗車できる高効率なレイアウトはそのままに、シグネットの外装にはアストンマーティンの象徴である凸型のフロントグリルや、ボンネットのエアインテーク、専用の灯火類が与えられた。 さらにプラスチック主体だったiQの内装は完全に剥ぎ取られ、職人の手による最高級のレザーがダッシュボードからシート、ドアトリムに至るまで隙間なく張り巡らされている。 その仕上がりは、数千万円クラスのDB9やヴァンテージなどと同等のクオリティであり、小さなボディに英国のクラフツマンシップが凝縮されていた。 エンジンやトランスミッションといった基本機構はiQと共通のため、走行性能自体に大きな違いはないものの、遮音材の追加による静粛性の向上や、専用チューニングされたサスペンションにより、重厚感のある乗り味を実現。 庶民の足であるマイクロカーが、王室御用達ブランドの手によってオートクチュールへと変貌を遂げた。ランボルギーニ・ウルス×アウディ RS Q8×ポルシェ・カイエンエッジのきいたスタイリッシュなエクステリアが、いかにもランボルギーニらしいウルス。2024年に登場したPHEV仕様のSEは、800psという驚異的な最高出力を誇る 現在のSUV市場における「スーパーSUV」というカテゴリーを牽引する3台が「ランボルギーニ・ウルス」「アウディ RS Q8」、そして「ポルシェ・カイエン」だ。 これらのモデルはすべて、フォルクスワーゲングループの「MLB Evo」プラットフォームを共有する、極めて近い血縁関係にある。 巨大な企業グループならではの強みを活かし、基本骨格だけでなく、4.0リッター V8ツインターボエンジンや8速AT、4輪操舵システムといった主要コンポーネントの多くが共通化されているものの、それぞれに異なる味付けがされ、まったく異なるキャラクターへと仕上げられている。 ポルシェ・カイエンは、このクラスのパイオニアとして、スポーツカーとSUVの融合を最も高い次元でバランスさせているのが特徴。精密なハンドリングと日常の使い勝手が同居し、あくまで「ポルシェ」らしい造りだ。 いっぽう、ランボルギーニ・ウルスは、ひと目で「ランボルギーニ」とわかる強烈な個性が魅力。エッジの効いた攻撃的なスタイリングや、魂を揺さぶるような猛々しいエキゾーストノートは、まさにスーパーカーのそれ。 サーキット走行すら可能なパフォーマンスに加え、砂地や雪道もこなすオフロードモードまで完備する走りを、SUVというスタイルに落とし込むことで、家族や友人と共有できる最高の一台といってもいいだろう。 そしてアウディ RS Q8は、これらの3台のなかで最もSUVらしい、都会的なクーペスタイルが特徴。 2024年には上位モデルである「RS Q8 performance」が独・ニュルブルクリンクで7分36秒698というSUV最速記録を叩き出すなど走りも申し分なく、洗練されたスタイルと、日常での速さを堪能できるバランスの良さがその魅力だ。 グループ内の技術を結集して作られたこの三兄弟。基本設計を共有しながらも、それぞれのブランドが持つ歴史や哲学といった血統が、唯一無二の個性を与えている。