混合ガスをたくさん吸ってパワーを発揮! バイクの4ストロークエンジンは、ガソリンと空気を混ぜた混合ガスを吸い込んで爆発(燃焼)させることでパワーを生み出しています。 当然ながらエネルギーの元となる混合ガスをたくさん吸い込むほど大きなパワーを得られますが、それには吸気バルブの大きさ(混合ガスを吸い込むための面積)が影響します。【画像】これがヤマハの「5バルブ」です!! 現在はラインナップから姿を消した歴代モデルを画像で見る(18枚) 排気量が同じで、シリンダーのボア(直径)も近しい場合は、バルブの数が多いほど面積が増えるので、1気筒当たり2バルブ(吸気バルブ×1本、排気バルブ×1本)のエンジンよりも、4バルブ(吸気バルブ×2本、排気バルブ×2本)の方が、吸気行程でたくさん混合ガスを吸い込めるため、でハイパワー化しやすいメリットがあります。スポーツバイクの多くが4バルブを採用するのはそのためです。 しかしヤマハは、1985年に発売した「FZ750」のエンジンに世界初の「5バルブ」を採用し、バイク界を驚かせました(1984年9月のケルンショーで発表)。次世代レーシングマシン用に開発スタートヤマハが1985年に発売した「FZ750」は世界初の5バルブエンジンを採用ヤマハが1985年に発売した「FZ750」は世界初の5バルブエンジンを採用 1984年の「FZ750」発表から遡る1977年の東京モーターショーに、ヤマハは「YZR1000(OW34)」というレーシングマシンのプロトタイプを展示しました。 エンジンは排気量1000ccの水冷4ストローク90度V型4気筒4バルブにフューエルインジェクション(FI)を装備し、最高出力135馬力で最高速度は275km/hと発表されましたが、このマシンが実戦に投入されることはありませんでした。 しかし開発プロジェクトは続き、GPレース用に500ccのV型4気筒「7バルブ」の研究や、その後はTT-F1レースに準じた750ccの並列4気筒5バルブエンジンの開発に引き継がれ、それが市販スポーツ車の「FZ750」として結実したのです。 ヤマハはエンジンの開発過程で、5バルブだけでなく6バルブや7バルブなどの多バルブ化にトライし、様々なテストを経た結果、吸入空気量の増大化(吸気バルブの3本化)、燃焼効率の向上(コンパクトな燃焼室による高圧縮化)、ロス馬力の低減(バルブ1本当たりの重量軽減)のすべてで最も効率的な5バルブを採用しました。 この5バルブエンジンは、4バルブに比べ約10%のパワーアップと5%の燃費向上を実現し、幅広い回転域でパワー、トルクともに増した扱いやすいエンジンになったといいます。「ヤマハと言えば5バルブ」の時代 ヤマハは「FZ750」を皮切りに、同年の鈴鹿8時間耐久ロードレースでケニー・ロバーツ&平忠彦ペアが駆ったワースクマシン「FZR750」や、AMAスーパーバイクにも5バルブエンジンを投入。そして「FZ750」の後継モデル「FZR750」や輸出仕様の「FZR1000」など、4気筒エンジンのスポーツ車に5バルブを採用。レーシングマシンのベースとなるホモロゲーションモデルで有名な「OW-01」こと「FZR750R」(1989年)や、1000ccスーパースポーツの先駆けとなった「YZF-R1」(1998年~)も5バルブです。レースのベース車両として開発され、1989年に販売された「FZR750R(OW-01)」レースのベース車両として開発され、1989年に販売された「FZR750R(OW-01)」 また、ビッグオフローダーの「XTZ750スーパーテネレ」(1989年)の水冷2気筒DOHCや、このバイクから発展した「TDM850」や「TDM900」、さらに2気筒ロードスポーツで注目を浴びた「TRX850」(1995年)のエンジンも5バルブです。 さらに、水冷単気筒DOHCのオフロードモデル「XTZ660」(1991年)や、この単気筒エンジンから派生したロードスポーツの「SZR660」(1996年)も5バルブを採用しています。 さらにはロードレースの最高峰であるWGP500クラスが4ストロークのMotoGPに変わり、ヤマハはワークスマシンの「YZR-M1」(2002年~)のエンジンにも5バルブを投入しました。 こうして「ヤマハの5バルブ」、「5バルブのヤマハ」にイメージが定着しました。5バルブは姿を消したけど…… ところが、ヤマハはMotoGPワークスマシンの「YZR-M1」の2004年型から、エンジンを4バルブ化しました。さらに市販スーパースポーツの「YZF-R1」も、2007年のモデルチェンジで4バルブに変わります。 そうして5バルブのエンジンを搭載するバイクは、5バルブ時代の「YZF-R1」のエンジンをベースとするスポーツネイキッド「FZ-1」や「FZS1000」のみになってしまいました(日本国内では2016年に販売終了)。ヤマハのMotoGPワークスマシン「YZR-M1(OWM1)」(2002年)は最高出力200馬力以上を発揮。2002年、2003年シーズンは5バルブエンジンを搭載していたヤマハのMotoGPワークスマシン「YZR-M1(OWM1)」(2002年)は最高出力200馬力以上を発揮。2002年、2003年シーズンは5バルブエンジンを搭載していた まさに一世風靡した5バルブは、なぜ姿を消したのでしょうか? 理由は諸説あり、どれも専門的で難解ですが、最たる理由は「吸い込んだ混合ガスのシリンダー内での流れの制御の難しさ」にある、と言われています。 混合ガスはエンジンに吸い込まれると、シリンダー内で「渦」を巻きますが、この渦が整っているとパワーが出て、反対に渦が乱れると混合ガスの充填効率が悪くなり、パワーも落ちてしまいます。 じつは5バルブにすると4バルブよりも、この「渦の制御」が格段に難易度を増すため、せっかくの多バルブ化による「吸気面積の増加によるパワーアップ」よりも、「渦の乱流によるパワーダウン」の方が大きくなってしまうのです。 ……こう聞くと「そもそも5バルブにしたのが間違い」で、あたかも開発ミスのように感じてしまいますが、それは違います。「YZF-R1」(2002年5PW型)の5バルブエンジンのシリンダーヘッド(燃焼室)「YZF-R1」(2002年5PW型)の5バルブエンジンのシリンダーヘッド(燃焼室) この5バルブによるネガティブな症状は、あくまで2万回転以上とも言われるMotoGPマシンンにおける問題であり、それをクリアするために毎シーズン開発するのが時間的に難しかった……というのが主たる要因のようです。 じつは5バルブ化によって個々の吸気バルブが小径になることで、MotoGPマシンのような超々高回転域ではなく、低~中の常用回転域では吸い込み効果が大きくなり、トルクをしっかり稼げるというメリットがあります。これは一般ライダーにこそ恩恵があるハズです。 とはいえ5バルブ化は部品点数の増加も含めて開発や生産にコストもかかります。そしてトップエンドのMotoGPマシンやスーパースポーツ車に採用されない複雑なメカニズムを、コストをかけてまで多くのバイクに採用する理由は無いでしょう。 そんなヤマハの5バルブは残念ながら姿を消しましたが、意味ある挑戦だったのではないでしょうか。