BEVのテスラ「モデル3」と、ICEVのポルシェ「911カレラT」(写真:三木 宏章) 新型輸入車を集めた「第45回輸入車試乗会」が2026年も開催された。事前にリストから試乗したい車両を選び事務局に申請する方式で、ドライバー1名あたり5台の試乗ができる。 【写真を見る】試乗したキャデラック「リリック」、ボルボ「EX30 Cross Country」、フォルクスワーゲン「ID.4」、テスラ「Model 3」、ポルシェ「911カレラT」のディテール(98枚) 今回はテスラとGM(アメリカ)、フォルクスワーゲン(ドイツ)、ボルボ(スウェーデン)のBEV(電気自動車)で4台と、ポルシェ(ドイツ)のICEV(内燃機関車)1台の合計5台に試乗した。 【写真】試乗したキャデラック「リリック」、ボルボ「EX30 Cross Country」、フォルクスワーゲン「ID.4」、テスラ「Model 3」、ポルシェ「911カレラT」のディテール(98枚) BEVの特徴である「静かさ」と「速さ」 筆者は恵まれたことにプロトタイプを含めると30年以上、BEVの試乗を行ってきた。世間では市販化された当初(日本では2009年の三菱「i-MiEV」)から、「静か」で「速い」ことがBEVの特徴として認識されてきた。 速さは一般的に最高速度と加速力で捉えられるが、公道では加速力が評価軸になる。その加速力とは、すなわち駆動トルクだ。「BEVは速いね!」と評価されるゆえんは、アクセルペダルを踏み込んだ瞬間から電動モーターが生み出す豊かな駆動トルクが立ち上がるからだ。 しかし、ざっくり20年以降に市販化された多くのBEVは、スポーツモデルなど特例はあるにせよ、速さだけをウリにしない。むしろ、世界中の自動車ユーザーが慣れ親しんだICEVやHV(ハイブリッド車)のような発進/加速フィーリングをトレースしている。同時に電費性能の指標であるAER(All Electric Range/満充電で走行可能な距離)にして700km以上を達成するBEVも増えてきた。 また、もともと静かであったBEVの静粛性も近年はさらに高まった。逆位相の音で騒音を打ち消す「アクティブノイズコントロール技術」や、徹底した空力解析が施されたボディ設計、さらには新たに開発されたBEV専用タイヤの貢献度合いが大きい。 走行中の騒音発生源のうち、風切り音はボディやドアミラーなど突起物の形状に由来する。この低減に求められるのはスムースな空気の流れだ。具体的には、前面投影面積の縮小と空気抵抗係数を下げる造形に加え、こちらは走行時の安定性能向上の意味もあるが、ボディ下部の凸凹を抑えるフラット化などの相乗効果により音の発生量が小さくなる。 しかしながら市場では、BEVにおいても全高の高いSUV人気が高く、幅狭ボディであっても前面投影面積の縮小は難しいが、空気抵抗係数の低減とボディ下部のフラット化などで風切り音はずいぶんと抑えられた。また、空気抵抗を減らしたことで、BEVが不得意とされていた高い車速域での電費数値も伸びてきた(例:WLTC高速道路モード)。 タイヤの性能も大きく進化した。パターンノイズとロードノイズに代表される音の発生源は、BEVに特化した音解析と、重くなった車両重量に耐える設計思想(例:トレッド面やサイドウォール剛性の最適化)により大幅に抑制された。その成果として20年あたりからBEV専用タイヤが市販されている。 キャデラック初となるBEVのSUV「リリック」 試乗したキャデラック「リリック」。ボディサイズは、全長4995mm✕全幅1985mm✕全高1640mmで価格は1100万円(写真:三木 宏章) 試乗はキャデラック・ブランド初のBEVのSUVモデルとして誕生した「リリック」から行った。日本市場では26年3月25日、リリックをベースにして電動駆動モーターのパワー&トルクを向上させたスポーツモデル「リリック V」が発表されたが、試乗したのはベースモデルである。 キャデラックが長年培ってきた安全哲学と乗り味をBEVとして成立させた点が大きなポイント。ボディは大柄だが右ハンドルであること、見切りがいいことなどから取りまわしは想像以上にいい。車両価格は1100万円と高価だが、円安傾向の為替レートや走行性能からすれば抑えられている。 キャデラック「リリック」のインテリア(写真:三木 宏章) デザインと走行性能は独創的で、キャデラックとしてのアイデンティティが随所に感じられる。特徴のひとつがハンドル左側にパドルシフター形状で配置された「回生ブレーキレバー」だ。自転車のブレーキレバーを握るようにパドルを手前にじんわり引いていくと、巨体(車両重量2650kg)の減速を左手の指先だけで繊細にコントロールできる。最大減速度は0.4と強めで慣れが必要だが完全停止まで行える。 95.7kWhの大容量バッテリーを搭載するものの肝心の電費性能は若干低く、単純計算で約5.3km/kWh。よってAERは510km。 いわゆる「BEV=速さ」という極端な演出は行わない。内燃機関のキャデラックがそうであるように上質な走りを電動駆動モーターでも表現した。アクセル操作に対してじんわりとした加速フィールを生み出しつつ、ひとたび深く踏み込んだ際には力強さを前面に出す。往年の大排気量V型8気筒エンジンが生み出す豊かなトルクのような演出だ。 ボルボ「EX30 Cross Country」 ボルボ「EX30 Cross Country」のスタイリング。車両価格は649万円(写真:三木 宏章) 2番目に試乗したのはボルボ「EX30 Cross Country」。スモールSUV「EX30」の派生車種として25年8月から日本でも販売を開始した。後輪駆動のEX30に対して前輪モーターを追加した4WD方式を採用する。 前輪モーターが156ps/200Nm、後輪モーターは最大出力272ps/343NmのAWD方式。大人2名乗車+荷物では、市街地から自動車専用道路にいたるまで十二分な速さを披露する。3つあるドライブモードはセンターディスプレイのボタンからワンタッチで切り替え可能。前後輪モーターをバランスよく使う「標準モード」、前輪モーターを常時駆動させる「パフォーマンスモード」、航続距離を最優先させた「レンジモード」が選べる。 EX30 Cross Countryのインテリア(写真:三木 宏章) 今回は市街地と自動車専用道路を走行し、乗り味をたしかめるため後席にも乗り込んだ。悪路での走破性能を意識したのだろう。バネレートに対してダンパーの減衰力が高めの設定で、路面の起伏に対して車体が常に小さく揺れている。また、ボディサイズからすると後席シートと足元スペースが小さめだ。 ただし、速度を上げていくとその揺れ幅が少なくなり、一転して安定方向へと乗り味を変える。ディーラーでの試乗機会があればぜひ、後席でも乗り味を体感いただきたい。 フォルクスワーゲン「ID.4」 フォルクスワーゲン「ID.4」の外観。ボディサイズは全長4585mm✕全幅1850mm✕全高1640mmで、価格は528万円からとなる(写真:三木 宏章) 3番目に試乗したのはフォルクスワーゲン「ID.4」。日本導入当初の22年モデルでは、公道だけでなく滑りやすい低μ路のテストコースにいたるまで、いろんなシーンで試乗してきた。 今回の試乗車は、26年1月9日に日本市場で販売がスタートした「一部仕様変更モデル」、つまり最新の26年モデルだ。従来型との大きな違いは電動駆動モーターのパワー&トルクの値で、先代の204PS/310N・mから82PS/235N・m高めた286PS/545N・mを誇る。 同時に利便性の向上も図られた。150kWクラスの急速充電器にも対応し(最大充電電流350A)、道中で行う経路充電時間の短縮が図れるようになった。 ID.4のインテリア(写真:三木 宏章) 嬉しいのは純正インフォテイメントシステムが全グレードで標準装備化され、さらにモニターサイズが10.0インチから12.0インチへと大型化されたこと。見やすくなっただけでなく、走行中にタッチパネル操作する指先の安定性も高まった。 肝心の走行性能は大きく高められた。従来型はフォルクスワーゲンブランドのICEVと同じく、しっかり加速させるためには深めのアクセル操作を求める特性で、これがBEVであるID.4に乗り換えた際の違和感をなくしていた。言い換えれば、ID.4の運転には慣れを必要としなかった。 ID.4のリアビュー(写真:三木 宏章) 新型では一転、これまでと同じアクセル操作だとイメージの2倍近く、グイッと力強く加速する(筆者の体感値)。 これはスペックどおりで、駆動トルクの立ち上がりに勢いがついたためだが、従来型のID.4に慣れ親しんだ筆者からすると意外な一面に思えた。各国のBEVは加速力の演出から少し距離を置きはじめ、そのぶん、実用電費数値の向上を重要視してきたからだ。 もっとも、従来型の加速フィールは必要十分というレベルに留まり、速さを少しプラスしてほしいという要望がユーザーから聞かれたというから、その意味では正常進化だ。また、誤解のないように付け加えると、新型の加速フィールに荒々しさはなく、従来型同様にストロークが多めにとられたアクセルペダルを少しだけ丁寧に踏み込めば、従来型と同じふんわりとした走行フィールも楽しめる。 後席やラゲッジルームはとても広く、ID.4は改めて「ゴルフのBEV」(筆者独自の分類)であり、ファミリーユースにも最適であることが再確認できた。 進化を続けるテスラ「Model 3」 テスラ「Model 3」の外観。ボディサイズは、全長4720mm✕全幅1850mm✕全高1440mm(写真:三木 宏章) BEVの最後はテスラ「Model 3」。他社に先駆けたSDV(Software Defined Vehicle/ソフトウェアの変更による価値や機能の向上を見越し設計開発されたクルマ)で、すでにユーザーのもとにわたったModel 3の多くはOTA(Over The Air/無線方式)によるソフトウェア・アップデートで新たな性能を数多く手にしている。 また、テスラでは日本市場においても高度な運転支援技術である「Full Self-Driving Supervised」(FSD-S)の技術テスト走行、および学習走行を本格的にスタートさせている。 試乗車は未だ最新のFSD-Sが機能しない状態だったが、テスラによると「日本市場でのリリース時期は、今後の弊社開発状況及び規制当局の許認可に依存します」とのこと。 Model 3のインテリア(写真:三木 宏章) 改めて4台のBEVを乗り比べてみて、テスラの優位性がはっきりした。それは技術やスペックではなく、確立されたブランドとしてテスラが存在していることだ。 要は次の4点。日本導入当初の「Model S」時代から続く、「①速さの称号」、センターディスプレイを中核にした「②シンプルなHMI」、720基を超えるスーパーチャージャーを軸にした「③経路充電計画の立てやすさ」、実用的な「④AER」。 また、お家芸であるエンターテイメント機能にしてもソフトウェア・アップデートで独創的な進化の過程を歩み続けている。 26年3月25日、ソニー・ホンダモビリティ(SHM)の第1弾モデル「AFEELA 1」と、その第2弾モデルの開発と発売中止が発表された。実現していればテスラとSHM、2大巨頭によるエンタメ合戦に期待がもてただけに残念だ。個人的にはSHMの発展的解消を含め、他社との協業を視野に入れた新たな展開を待ち望みたい。 今回唯一のICEV、ポルシェ「911カレラT」 ポルシェ「911カレラT」、価格は2006万円。ボディサイズは全長4540mm✕全幅1850mm✕全高1290mmの2人乗りで、リアに2981ccの水平対向6気筒ツインターボエンジンを搭載(写真:三木 宏章) 試乗の最後はICEV。世界中にファンの多いポルシェ「911カレラT」(992型)だ。従来型のカレラTにも試乗しているが、その際のトランスミッションは7速MTだった。1速を低めに、7速を高め(80km/hで1250回転)に設定するかわりに、2~6速のギヤ比をかなりクロスさせ途切れのない加速力が得られた。 今回試乗した最新モデル(25年式)は6速MTに改められていた。市街地中心の試乗ながら、ゆっくり走らせているときでさえ笑顔になる。身体にシンクロする感覚が強いからだ。6速化されたことでギヤ1段ぶんのカバー領域が増え、水平対向6気筒3.0Lツインターボエンジンを余すところなく味わえる。個人的には6速モデルを推したい。 911カレラTのインテリア(写真:三木 宏章) 「切る/戻す」の両方向で手応えの変わらないステアリングフィールや、規則正しく正確無比なトランスミッションの操作性はもとより、アクセル、ブレーキ、クラッチのすべてのペダル感覚が完全に連携する。だから発進、停止を繰り返す渋滞路でもまったく苦にならない。操る感覚の密度が高いとも言い換えられる。 こうした身体にピタリとシンクロする感覚は、意外なことにこれまで4台試乗してきたBEVとも共通する。 BEVは各国の自動車メーカーが世に送り出しているが、その開発者の多くは次のように口を揃える。 「電動モーターの駆動力をそのままタイヤに伝えればBEVはもっと速くなりますし、技術的にも可能です(例:日産「リーフ」は0.1ミリ秒=1万分の1秒単位での制御が可能)。しかし、非日常的な加速力には身体がついていけません。気持ちよく走れないのです。また、過剰な速さは電力の浪費にもつながり、電費性能も悪くなります。だから、車体と身体が一体化(シンクロ)していると実感できるよう、我々はアクセル操作に対するわずかな遅れや、その先の加速フィールにも抑揚を演出して、人が気持ちのよいと感じられる加速フィールを造り込んでいます」 BEVでもICEVで共通する一体感 911カレラTの試乗シーン(写真:三木 宏章) ポルシェにはじまり各ブランドが送り出している内燃機関のスポーツカーは軽さ(試乗したカレラTは1510kg)とドライバーとの一体感を武器にする。今回試乗した4台のBEVは軽さとは対極で車両重量はかさむが(Model 3の1765kg~リリックの2650kg)、電動駆動モーターの特性を造り込み加速フィールに抑揚をつけることで、スポーツカーとは趣は異なるが、それでもドライバーとの一体感は高かった。 言い換えれば、ドライバーの気持ちが高ぶる躍度(時間あたりの加速度変化率)には、BEVとICEVの違いはなく、ひとつなのではないか。これは今回のリリックしかり、過去に東洋経済オンラインでレポートしたロールス・ロイススペクターしかりだ。