2025年9月9日にSF90ストラダーレにかわるトップモデルとして登場したフェラーリ「849テスタロッサ」。スタートプライスは、クーペボディの849テスタロッサ・ベルリネッタが6465万円、オープンボディの849テスタロッサ・スパイダーが7027万円となる(写真:Fellari Japan) イタリアのスーパースポーツカーブランド、フェラーリの躍進が続いている。 【写真を見る】フェラーリのトップモデル、新型車「849テスタロッサ」の全貌。内外装を詳しく確認する(57枚) 2025年には全世界で1万3640台の新車を販売。売上高(Net Revenues)は71億ユーロ(約1兆3000億円)を超え、営業利益(EBIT)も21億ユーロ(約3800億円)を上まわった。まだ昨年の業績を発表していないメーカーもあるので断定的なことは言えないが、フェラーリがスーパースポーツカー界で最大の規模を誇っていることは間違いないだろう。 なぜ、フェラーリのビジネスはこれほどまでに成功しているのか。スペイン・セビリア地方で開催された新型車「849テスタロッサ」の国際試乗会に参加して秘密の一端が見えたので、ここでその模様をリポートしたい。 【写真】フェラーリのトップモデル、新型車「849テスタロッサ」の全貌。内外装を詳しく確認する(57枚) 1050psの強心臓を持つ849テスタロッサ 849テスタロッサに搭載される3990ccのV型8気筒ツインターボエンジン。最高出力は830CV、最大トルク842Nmを発生し、そこに3基の電気モーターを組み合わせることシステム出力は1050CVに達する(写真:Ferrari Japan) 排気量4.0リッターのV8ツインターボエンジンをキャビン後方に搭載し、ここに3基のモーターと高圧バッテリーなどで構成されるプラグインハイブリッド・システムを組み合わせた849テスタロッサのパワートレインは、システム出力(エンジンとハイブリッドシステムの合計)が1050psに達するモンスターマシンだ。 さすがに、これを上まわる量産モデルはフェラーリのラインナップにも存在しないため、フェラーリは849テスタロッサのことを「ラインナップのトップに位置するモデル」と説明する。 これを聞いて、フェラーリの歴史に詳しいファンであれば「おや?」と思われるかもしれない。なにしろ、1948年に誕生した第1号車以来、フェラーリの最高峰モデルには常にV12エンジンが積まれてきたからだ。 849テスタロッサのボディサイズは、全長4718mm✕全幅2304mm✕全高1225mmで、ホイールベースは2650mm(写真:Ferrari Japan) 事実、849テスタロッサの先代にあたる「SF90ストラダーレ」が誕生するまでは、排気量6.5リッターのV12エンジンを積む「812スーパーファスト」がラインナップの最上位に君臨していた。 ただし、ここに搭載されていたV12エンジンはターボチャージャーを持たなければハイブリッド・システムも組み合わされていない純然たる内燃機関。したがって、いかにフェラーリの高出力技術を駆使しても、その最高出力は800psにとどまっていた。 1000psを達成したSF90ストラダーレ エクステリアデザインは、冷却性能の最適化とダウンフォースの増強を目標としつつ、「512S」や「512TR」、「FXX-K」といった過去と現代のレーシングカーからインスピレーションを受けたものとなっている(写真:Ferrari Japan) いっぽう、812スーパーファストの2年後にデビューしたSF90ストラダーレは、V8エンジンながら2基のターボチャージャーを装備することで排気量4.0リッターにもかかわらず最高出力780psを発揮。さらに、ここに最高220psを発揮する3モーター式プラグインハイブリッドを組み合わせることでシステム出力1000psを達成し、800psの812スーパーファストを軽々と上まわったのである。 つまり、SF90ストラダーレの誕生によってフェラーリの歴史が塗り替えられたのだが、だからといってフェラーリはV12エンジン搭載モデルをSF90ストラダーレの下に位置付けるのではなく、V12エンジン搭載モデルならではの新たなポジションを設定したのである。 オレンジがかったイエローが鮮やかなGIALLO AMBRAのボディカラー(写真:Ferrari Japan) この考え方に基づいて開発されたのが、812スーパーファストの後継モデルにあたる「12チリンドリ」だった。24年に発表された12チリンドリは、最高出力830psの自然吸気式V12エンジンをキャビンの前方に搭載。この基本レイアウトそのものは812スーパーファストと共通ながら、最高のパフォーマンスを重視した812スーパーファストとは微妙に異なり、優れたパフォーマンスと快適性をうまくバランスさせたキャラクターに仕上げたのだ。 こうすることで、パフォーマンス最優先のSF90ストラダーレと、ここにラグジュアリー性を加味した12チリンドリの2台がほぼ並び立つモデルラインナップを構築。ときにはサーキット走行も楽しみたいというハードコアなスポーツカー・ファンにはSF90ストラダーレを、サーキット走行よりも長距離ドライブを楽しみたいとするグランドツーリング派には12チリンドリを提供することで、より幅広い顧客層の獲得を目指したのである。 筆者と849テスタロッサ。スペイン・セビリア地方で開催された国際試乗会の様子(写真:Ferrari Japan) このような製品戦略をフェラーリは「Different Ferrari for Different Ferraristi(異なるフェラーリを、異なるフェラーリファンへ)」「Different Ferrari for Different Moments(異なるフェラーリを、異なる瞬間に)」と名付けている。つまり、ニーズを細分化することで幅広いモデルラインナップを用意。それらを限られた生産キャパシティのなかで少しずつ世に送り出すこととしたのだ。 これはフェラーリのような超高級自動車メーカーにとって理想的な戦略といえる。 なぜなら、1モデルあたりの生産台数が限られるので製品の希少性が確保されるいっぽうで、多種多様なモデルを生産することでフェラーリ全体の売り上げや利益を最大化できるからだ。冒頭で述べた業績は、こうして達成されたものと見ていいだろう。 伝統のネーミング“テスタロッサ”の意味 849テスタロッサのインテリア(写真:Ferrari Japan) では、SF90ストラダーレの後継モデルとして誕生した849テスタロッサは、どのようなスーパースポーツカーだったのか。 まずはそのモデル名だが、最初の数字は「エンジンが8気筒で、1気筒あたりの排気量が490cc(厳密には499cc)」であることにちなんでいる。このように、エンジンの気筒数や排気量をモデル名の一部に用いるのは、フェラーリの伝統的な手法である。 これに続くテスタロッサは、イタリア語で「赤い頭」を意味する。実はこれもフェラーリにとって伝統的なネーミングで、高性能なエンジンの“頭(エンジンヘッド)”を赤くペイントしたことに由来している。つまり、テスタロッサはハイパフォーマンスカーの証しというわけだ。 筆者による試乗シーン(写真:Ferrari Japan) しかも、「ハードコア・ファン向け」だったSF90ストラダーレの後継モデルとくれば、その走りはかなりスパルタンで、扱いにくく、快適性もあまり高くないスーパースポーツカーを想像されるのが自然だろう。 事実、SF90ストラダーレにはスパルタンな側面がなきにしもあらずだったが、849テスタロッサではそうした印象が見事に消し去られ、快適で扱いやすいモデルに生まれ変わっていたのだ。 849テスタロッサを運転する筆者(写真:Ferrari Japan) おかげで一般道を普通に走るだけなら、運転にそれほど自信のないドライバーだってさして苦労はしないはず。乗り心地にしても、ある程度の覚悟が必要だったSF90ストラダーレとは異なり、気軽に乗れるし、長距離を走っても大して疲れないだろう。その意味において、849ストラダーレは極めて洗練されたスポーツカーだといえる。 そうした印象はサーキット試乗でも基本的に変わらなかったが、いざとなれば1050psを発揮するモンスターマシンらしい、獰猛な一面を見せることも判明した。 従順と過激、ふたつの顔を両立 パフォーマンスは、最高速度330km/h、0-100km/h加速2.3秒、0-200km/h加速6.35秒を誇る(写真:Ferrari Japan) フェラーリの全モデルには“マネッティーノ”と呼ばれるドライビング・モード切り替えが装備されているが、このマネッティーノでCTオフというモードを選ぶとトラクション・コントロールが解除され、ESCオフを選択するといざというときに電子制御でスピンを回避してくれるスタビリティコントロールがオフになる。 どちらも、本来はクルマが不安定な状態になるのを防ぐシステムだが、これらをオフにしてアクセルペダルを強く踏み込めば、後輪に爆発的なパワーが伝達されて路面を捉える力が低下。結果として、コーナリング中にこれを行えば車体後方がクルリとまわり始めて不安定な状態に陥ることが判明したのだ。 こんなときにはカウンターステアといって、コーナーの向きとは反対側にステアリングを切って体勢を立て直すテクニックが知られている。上級者のなかには、カウンターステアが必要な状態になるスポーツカーを好む向きが少なくないが、849テスタロッサも見事にそうしたキャラクターを残していたのである。 つまり、普段は乗りやすくて快適性も高いが、いざとなれば上級者をも納得させる操縦性を披露するスーパースポーツカーが849テスタロッサだったのである。 このように、モデルに応じて様々なキャラクターを作り分ける能力があるがゆえに、フェラーリは先に述べた「Different Ferrari for Different Ferraristi」「Different Ferrari for Different Moments」を実現できているともいえる。言い換えれば、巧妙なモデル戦略とそれを実現する開発力こそが、フェラーリ躍進の秘密なのである。