VTECエンジンを搭載し、今も語り継がれるホンダのEG型とEK型のシビック(写真:本田技研工業) 20~30年以上経った今でも語り継がれるクルマが、続々と自動車メーカーから投入された1990年代。その頃の熱気をつくったクルマたちがそれぞれ生まれた歴史や今に何を残したかの意味を「東洋経済オンライン自動車最前線」の書き手たちが連ねていく。 数々のスポーツモデルが人気を博した1990年代。なかでも世界的な人気が現在も続くホンダ「シビック タイプR」の源流といえるのが、5代目「EG型(91年)」と6代目「EK型(95年)」のシビックだ。 【写真を見る】ハッチバック、セダン、クーペ、タイプR、EG型&EK型シビックを振り返る(42枚) とくに今でも語り継がれるのが、両世代ともに設定があった1.6L・4気筒のB16型エンジンを搭載したグレード。ホンダのお家芸「VTEC(ブイテック)」機構を採用したエンジンは、当時としては画期的な高出力を実現。軽量な車体とのマッチングによる俊敏な走りが、多くのクルマ好きを虜にした。まさに、当時ブームとなっていた「ホットハッチ」の代表格といわれた名車たちだ。 ここでは、50年以上続くロングセラーモデルであるシビックのなかでも、とくに90年代を席巻した5代目と6代目をピックアップ。それぞれの魅力や功績などを振り返ってみる。 【写真】ハッチバック、セダン、クーペ、タイプR、EG型&EK型シビックを振り返る(42枚) 90年代を席巻したホットハッチというジャンル ホンダのシビックといえば、72年に登場した初代モデル以来、世界中で人気のロングセラーモデルだ。なかでも今回紹介する5代目のEG型と6代目のEK型は、1.3L、1.5L、1.6Lといった3タイプのエンジンを用意したほか、3ドアのハッチバックモデルをベースに、4ドアの「シビック フェリオ」、さらにアメリカ生産の輸入車である2ドアクーペの「シビック クーペ」といった豊富なラインナップを展開した。 ジャーナリストなどがその年で最も優れたクルマを選ぶ「日本カー・オブ・ザ・イヤー」では、91-92年度にEG型シビック、95-96年度にEK型シビックが受賞したことからも当時、大きな話題を博した大衆車だったことがわかる。なかでも、今回取り上げる1.6LのB16型エンジン搭載車は、ホットハッチと呼ばれた人気車種のひとつ。 1991年9月発売のEG型シビック(写真:本田技研工業) ちなみにホットハッチとは、80年代から90年代に大きな人気を博したスポーツモデルのこと。主なベース車は、3ドアや5ドアなどのハッチバック車で、跳ね上げ式または横開き式のバックドアを備え、リーズナブルな価格などで昔から人気のファミリーカーだ。 ホットハッチは、それら軽量かつコンパクトな車体を使い、高性能なエンジンや足まわりなどを搭載。キビキビとした元気のいい走りを味わえることが魅力だった。また、ほとんどが1.6リッター以下の小排気量なFF(前輪駆動)車で、若者にも手を出しやすい価格帯だったことも特徴。とくにモータースポーツなどに憧れ、公道を爆走した「走り屋」と呼ばれた若い世代にとって、エントリーモデル的なクルマとして人気を博した。 当時は、各メーカーがこぞってホットハッチをラインナップし、まさに一時代を築いたジャンルだといえる。代表格には、シビックのほかに、トヨタ「スターレット」やホンダ「シティターボ」、マツダの「ファミリアGT-X」などが挙げられる。 ホットハッチとボーイズレーサー EG型シビック フェリオSiRのスタイリング(写真:本田技研工業) ちなみに当時は、「ボーイズレーサー」という言葉もあった。これはクーペモデルなどにも同様のモデルがあったことから、ホットハッチも含めた広義の「若い走り屋御用達車」だといえる。 当時のモータースポーツ好きな若者にとって、エントリーモデルであるという意味では、ホットハッチとボーイズレーサーは同義といえる。例えば、トヨタのAE86型「カローラレビン/スプリンタートレノ」などがそれに該当する。 EG型シビック搭載の1.6L VTECエンジン(写真:本田技研工業) そんなホットハッチの90年代における代表格が、EG型とEK型シビックのB16型エンジン搭載車だ。 今や伝説のエンジンとまでいわれている1.6L・4気筒ユニットは、独自の可変バルブタイミング・リフト機構の「VTEC」を採用。エンジンの回転数に応じ、ガソリンと空気の混合気を入れ、排気ガスを出す「吸排気バルブ」の開き方(リフト量)とタイミングを制御するのがこの機構。低回転域では燃費や扱いやすさを、高回転域では高出力を両立させ、日常使いからスポーツ走行まで幅広いシーンで最適なエンジン性能を発揮することが特徴だ。 VTECは、その進化版が、現在のホンダ車でも多くのモデルに採用されており、まさにホンダのお家芸と呼べるもの。それを最初に採用したのがB16A型エンジンで、89年に登場した3ドアクーペの2代目「インテグラ」に搭載された。排気量1Lあたりの出力100馬力を実現、最高出力は160PSを発揮。そんなB16A型エンジンを搭載したモデルは、ハイパフォーマンスなFFスポーツ車として人気となった。 5代目EGシビック(1991年~1995年) EG型シビック SiR Ⅱのリアビュー(写真:本田技研工業) その後、B16A型エンジンは、87年に登場した4代目のEF型シビックでも、89年のマイナーチェンジ時に採用。当時はEF型もホットハッチとして人気を博したが、それを継承したのが91年に登場したEG型シビックの「SiR」や「SiR-Ⅱ」といったグレードだった。 通称「スポーツシビック」と呼ばれたEG型は、スマートで行動的な当時の若者に向けて開発されたという。外観デザインは、滑らかなボディにするフラッシュサーフェス化などによりスポーティさを演出。フロントのダブルウイッシュボーン・サスペンションなどの採用により、しなやかでスポーティな乗り心地と、高い限界性能を両立した乗り味などが特徴だった。 EG型シビック クーペのスタイリング(写真:本田技研工業) なかでも、SiR/SiR-Ⅱグレードは、最高出力170PS(MT車の場合)を発生させ、当時のNA(自然吸気)エンジンとしては驚異的なパワーを実現。ライバルのターボエンジン車を凌駕する高性能を誇った。また、パワーだけでなく、優れたシャシー性能なども実現。車両重量1040~1110kgという軽量な車体も相まって、ワインディングロードやサーキットで、上級車種を追いまわせるほどの高い運動性能を誇っていた。 これらの要素により、EG型シビックは多くの走り好きの若者から支持され、現在でも90年代最強のホットハッチのひとつとして語り継がれている。 ちなみに、EG型シビックのボディサイズは、全長4070mm×全幅1695mm×全高1350mm。対して、現行の11代目シビック(FL1型/FL4型)は、全長4560mm×全幅1800mm×全高1415mm。現行は3ナンバーサイズに大型化されているが、EG型はいわゆる5ナンバーサイズの車格で、当時のシビックがいかにコンパクトな車体だったかがよくわかる。 6代目EK型シビック(1995年~2000年) EK型シビック SiR Ⅱ(写真:本田技研工業) EG型シビックの後継として、95年に登場したのが、通称「ミラクルシビック」と呼ばれる6代目のEK型シビックだ。 先代と同様に、ボディタイプには3ドアと4ドアのシビック フェリオ、2ドアのシビック クーペ(アメリカからの輸入車)を用意。加えて、注目なのは、97年にシビック タイプRの初代モデル(EK9型)を新設定したことだ。 シビック タイプRは、身近な大衆車であるシビックをベースに、より走りの楽しさと運動性能を徹底追求した3ドア・FFスポーツモデル。タイプRとしては、ホンダ製スーパーカー「NSX」やインテグラに次ぐ3機種目となる。 シビック タイプRのスタイリング(写真:本田技研工業) 外観では、前後のアンダースポイラーやリアスポイラーなど、高速安定性を高める空力パーツを採用。7本スポークの専用アルミホイールなどにより、ダイナミックなフォルムを実現する。また、内装には、高いホールド性を誇るレカロ製バケットシートを採用。赤いシート生地とともに、今でもシビック タイプRをはじめ、ホンダ車のスポーツグレードなどで定番となる装備だといえる。 そして、注目なのが走行性能。FFスポーツモデルの金字塔と呼ばれている理由には、徹底した車体の軽量化と専用設計のエンジンにある。エンジンは、先代のB16A型を進化させたタイプR専用の「B16B」型を搭載。NA(自然吸気)エンジンとしては当時の世界最高峰といえる高出力を発揮し、リッターあたり116馬力を実現。8200回転という超高回転で最高出力185PSものパワーを生み出し、まさにレーシングカーを彷彿とさせる特性を誇った。 シビック タイプRのインテリア(写真:本田技研工業) また、ベースモデルから吸音材まで剥がすなど徹底的な軽量化が施された車体は、車両重量わずか1050kg(エアコン非装備車)。この軽さもキビキビとしたハンドリングや加速性能の源になっていた。 ちなみに初代シビック タイプRは、当時、車体とエンジンのバランスが非常に高く評価され、まさにホットハッチやボーイズレーサーの代表格として高い人気を獲得。当時、アフターパーツもかなり豊富で、無限やスプーンスポーツといった有名チューナーによるカスタム車両も人気を博し、多くのファンから支持を受けた。 モータースポーツでも活躍したシビックの姿 このように、当時としてはかなりの高性能ぶりを発揮したことで、まさに、当時の若者にとって、憧れのスポーツモデルだったEG型とEK型のシビック。そのポテンシャルの高さは、モータースポーツの現場でも実証されており、当時の国内最高峰レースのひとつ「全日本ツーリングカー選手権(JTC/JTCC)」でも大きな活躍を見せた。 たとえば、93年(JTC時代)には、EG型シビックをベースに、プライベーターのムーンクラフトが製作したレーシングカー「ジャックス・シビック」がシリーズチャンピオンを獲得(1600cc以下の最小排気量クラス)。また、94年以降(JTCC時代)は、4ドアセダンに限定された新しい車両規定により、シビック フェリオをベースとしたレーシングマシンが活躍。有名レーシングドライバーの土屋圭市氏が駆った「アドバン・シビック」などが有名だ。 シビック タイプRに搭載された名機B16B型エンジン(写真:本田技研工業) ほかにも、EG型シビックでは、米ハリウッドのカーアクション映画『ワイルドスピード』の第1作目(01年公開)で、93年発売の「シビック クーペ(EJ1型)」が活躍したことでも知られる。 劇中では、ブラックのボディにエアロキットを身にまとったチューニング車が、主人公「ドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)」率いる強盗団の車両として起用された。低い車体を活かし、襲撃から逃げる走行中の大型トラックの下を、シビック クーペで潜り抜けるアクションが大きな話題となった。この映画により、当時はすでに生産終了となっていたEG型やEK型シビックの人気が再燃。今でも世界中にファンを持つ伝説の名車となるに至ったのだ。 現在まで続く、タイプRの系譜 現行モデルのシビック タイプR(写真:本田技研工業) かつて、ホンダのスポーツモデルの代表格だったタイプRは、以前はNSXやインテグラなどにも設定があった。だが、現在設定されているのはシビック タイプRのみ。つまり、ホンダが誇るピュアスポーツは、今ではこの1台だけになったといえる。 ちなみに、22年に登場した現行のシビック タイプR(FL5型)は、エンジンに専用の2.0L・VTECターボ(K20C型)を搭載。最高出力330PSものパワーを発揮するなど、高い動力性能に磨きをかけている。 シビック タイプRに搭載される2.0L・VTECターボエンジン(写真:本田技研工業) なお、23年4月下旬には、シビック タイプRをドイツ・ニュルブルクリンク北コースで走らせ、FF車(前輪駆動車)最速ラップタイムを記録した。トライしたのは、路面の凹凸や高低差があり、コーナーの数が多い全長20km超の難コース。過去にはルノー「メガーヌR.S.」やフォルクスワーゲン「ゴルフGTI」などが、FF最速の記録を保持していたが、シビック タイプRは、7分44秒881を達成し、見事に新記録を塗り替えた。 また、24年からは、国内最高峰レース「スーパーGT」のGT500クラスに「シビック タイプR-GT」で参戦。24年シーズンは、第4戦の富士スピードウェイで「ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT」が初勝利。25年シーズンでは、終盤の第7戦オートポリスで「STANLEY CIVIC TYPE R-GT」が優勝するなどで、徐々に戦闘力を上げている。 ホンダのレーシングスピリッツを象徴するシビック シビック タイプRのリアビュー(写真:本田技研工業) このように、現在もホンダの技術力を磨き、それを証明するために用いられるのがシビック タイプRだ。そして、これも先に述べたとおり、90年代のEG型やEK型は、その源流であることは間違いない。 クルマの電動化を推し進め、40年に4輪車のグローバルにおける販売比率をEVやFCEVなど100%電動車とする目標を掲げるホンダ。おのずと、今後の新型車はBEVやHEVなどが主流となってくるかもしれない。 だが、やはり、個人的には内燃機関の高性能マシンはできる限り存続してほしい。あの独特の高揚感はもちろん、シビック タイプRなど、歴代の名車たちが長年培った文化なども、ぜひ後世に残すべきだ。今後もシビック タイプRが生き残り、進化を続けることを期待したい。