6気筒エンジンはなぜ復権したのか? 特徴と現行の搭載車種を解説いま6気筒エンジン搭載車が増え始めている。それはなぜだろうか? ここでは、6気筒エンジンがいかに現代のニーズと結びつき、再び多くの車に搭載されるに至ったのかを解説し、V型、直列、水平対向、異なる構造の6気筒エンジンの魅力も紹介する。さらに、今新車で購入できる6気筒エンジン搭載車種の中から、特に注目すべき7台も紹介する。 6気筒エンジンの特徴【メリットとデメリット】 Mercedes-Benzまずは特性のおさらいから。6気筒エンジンには自動車のエンジンとして多くの魅力がある。そして、もちろんいくつかのトレードオフも存在する。 メリット:滑らかな回転、ステータス性 6気筒エンジンは、3気筒や4気筒エンジンでは得がたい滑らかで上質な回転フィールを備えている。 6気筒エンジンはその多くが3.0リッター以上と排気量に余裕があり、そこから生まれるパワフルで静かな走りも、プレミアムカーの心臓部としてふさわしい。 また、実用車が採用する3気筒、4気筒エンジンよりもシリンダー数が多く製造コストも高くなるため、それ自体が一種の「ステータス性」を備えている側面も無視できない。 デメリット:燃費、コスト、サイズ 一方で、6気筒エンジンにはシリンダー数の多さから来るデメリットもある。 例えば、部品点数の増加による機械的摩擦損失(フリクションと呼ばれる)による燃費の低下、構造の複雑さによるコスト増、そして、エンジンそのものの大型化といった問題だ。 こうした特徴から一時期6気筒エンジンはその数を減らしたが、HEV化や技術革新により、こうしたデメリットは改善されつつある。 なぜ今? 6気筒エンジンが復権した4つの理由 電動化とエンジンのダウンサイジングが潮流の現代において、多気筒エンジンは時代に逆行する存在と思われていた。しかし、近年は6気筒エンジンを搭載する車が徐々に増えている。その理由を考えていこう。 復権の理由1:環境技術との親和性の高さ Mercedes-Benz意外に思われるかもしれないが、環境技術との親和性において直列6気筒エンジンが注目されている。 細長い直列6気筒エンジンは、エンジンルームの片側に大きなスペースが生まれる。ここに、マイルドハイブリッド用のユニットやターボなどの補記類を搭載することで、効率的なパッケージングが可能となるのだ。 また、V型と水平対向は排気が左右に分かれるが、直列6気筒は排気が一系統のため、排ガスの後処理装置が一つで済む。こうした事情は、V型8気筒に代わって直列6気筒ターボエンジンの採用が増えていることに関係しているだろう。 復権の理由2:モジュラー設計による低コスト化 BMW近年、BMWやメルセデス・ベンツといったメーカーは、3気筒、4気筒、6気筒といった気筒数の異なるエンジンを、共通の部品や生産ラインで製造するいわゆる「モジュラー設計」を進めている。 モジュラー設計によって、直列4気筒と6気筒はエンジンと大部分を共有できるようになり、開発・製造コストを劇的に削減できるようになった。プレミアムブランドの場合、V型6気筒とV型8気筒を同じモジュールで作るケースもある。 こうしたエンジンのモジュール設計によって多くのメーカーにとって、6気筒エンジンは合理的な選択肢になりつつあると言えるだろう。 復権の理由3:衝突安全設計の進化 BMW6気筒エンジンが再び注目を集めている理由として、衝突安全技術の進化も挙げられるだろう。 かつて多くのプレミアムカーに搭載されていた直列6気筒エンジンが減った最大の理由は、エンジンの長さによってクラッシャブルゾーンの確保が難しいことだった。 しかし、高張力鋼板などの新素材や、エネルギー吸収設計技術の進歩によって、かつてほど広大なクラッシャブルゾーンがなくても高い安全性を確保できるようになった。 その結果、直列6気筒の長さはもはや致命的な欠点ではなくなり、それ以外のメリットによって選ばれるケースが増えたと言える。 復権の理由4:官能性能とステータス Stellantis近年、プレミアムカーは直列4気筒ターボへの移行を進めていた。技術の進化により、パワーは十分に確保され、燃費も向上した。 しかし、近年は再び6気筒エンジンの採用が増えている。その理由は、これまで挙げたようなモジュラー設計思想によるコスト低減や、衝突安全性の進化などが大きい。 そして、もう一つは、6気筒エンジンの「官能性能」や「ステータス」がプレミアムカーに相応しいと感じる人が多かったことも考えられる。 実用車で広く使われる4気筒エンジンとは異なる、音と回転フィール。6気筒ならではの静かさと、滑らかな回転上昇、そして余裕のあるパワーフィールは、プレミアムカーの心臓部に相応しい。 【種類別】6気筒エンジンの構造と魅力 同じ6気筒エンジンでも、そのシリンダー(気筒)の配置によって特性は異なる。ここでは、V型6気筒、直列6気筒、水平対向6気筒の個性と魅力を見ていこう。 V型6気筒(V6):コンパクトで実用的 FerrariV型6気筒エンジンは、3気筒ずつをV字型に配置した構造だ。このレイアウトがもたらすメリットは、エンジンの長さと幅を短くできることにある。直列6気筒に比べて長さをおよそ3分の2程度に抑えられ、水平対向6気筒より幅も狭くできる。 エンジンがコンパクトなら、衝突時の衝撃を吸収する「クラッシャブルゾーン」も確保しやすくなる。こうした理由から、V6エンジンが重宝されるようになった。 一方で、構造は複雑になる。シリンダーヘッドが二つあるため、補記類やセンサー類などの部品点数が増え、重量や製造コストが増加する。また、V字の角度によっては振動を完全に打ち消すことが難しくなる。 V6エンジンは、現実的なパッケージングや安全性の要求に応えるために生まれた、実用主義的な6気筒エンジンと言えるだろう。 直列6気筒:完全バランスが生むシルキーな回転フィール Mazda直列6気筒エンジンは、6つのシリンダーを一列に並べた、シンプルで古典的なレイアウトをとる。 ピストンが上下運動するレシプロエンジンは必ず振動が発生する。しかし直列6気筒は、1番目と6番目、2番目と5番目、3番目と4番目のピストンがそれぞれ対になって動くことで、互いの振動を打ち消し合う。これを「完全バランス」と呼ぶ。 直列6気筒エンジンの構造そのものが、滑らかな回転フィールの源泉であり、特にBMWの直列6気筒エンジンは「シルキーシックス」として多くのファンを魅了してきた。 一方で、エンジンが長いことは明確なデメリットだ。エンジンを横置きするFF車への搭載例は少なく、縦置きするFR車でも、前面衝突時のクラッシャブルゾーン確保のために高度な設計が必要となる。 水平対向6気筒:低重心がもたらす安定した走り PorscheV型でも直列でもない、もう一つの6気筒が水平対向6気筒エンジンだ。 シリンダーを水平に配置し、ピストンが「ボクサーがパンチを打ち合うように動く」ことから「ボクサーエンジン」と呼ばれる。このレイアウトを長年採用しているのはスバルと、現在、世界で唯一水平対向6気筒エンジンを製造しているポルシェだ。 水平対向エンジンは平たく重心が低い。大きく重いエンジンを低い位置に搭載できるため、車両の重心が下がり、走行安定性や操縦性の向上に寄与する。また、左右のピストンが互いの振動を打ち消し合う「完全バランス」も実現している。 一方で、エンジンの全幅が大きくなり、サスペンションの設計に制約が生まれやすい。また、構造はV型6気筒と同様に複雑で、オイル潤滑や冷却にも独自のノウハウが求められる。 【代表的なメーカー別】現行の6気筒エンジン搭載車 7選 ここでは、現行で出回っている(いま新車で購入できる)6気筒エンジン搭載車の中から、特に注目したい7モデルを取り上げて紹介しよう。 BMW「5シリーズ」 BMWBMWの直列6気筒エンジンは「シルキーシックス」と呼ばれ、他メーカーのお手本にもなってきた。他社がV型6気筒に移行しても、BMWだけはモジュラー設計の可能性を探り、直列6気筒を諦めることはなかった。 BMW 5シリーズは、BMW自慢の「シルキーシックス」を搭載する主力モデルと言える。近年は直列4気筒が主力エンジンになりつつあったが、現行の5シリーズ(G60型)ではガソリン、ディーゼル、PHEVすべてに3.0リッター直列6気筒ターボが用意されている。 BMWガソリンとディーゼル、さらに3気筒から6気筒まで共通のモジュールを使うようになった今も、シルキーな回転フィールは健在。車が好きな人、運転が好きな人にこそ、一度は味わって欲しいエンジンと言える。 メルセデス・ベンツ「Eクラス」 Mercedes-Benz1990年代半ば、メルセデス・ベンツは直列6気筒からV型6気筒へ移行し、世界のトレンドを作った。しかし、2018年に直列6気筒エンジンを復活させ、今度は直列6気筒への回帰トレンドを作ることになった。 先代モデルは直列4気筒とV型6気筒を中心としたラインナップだったが、現行Eクラス(W214型)からは、ガソリン、ディーゼル、PHEVのすべてに3.0リッター直列6気筒ターボを用意している。 Mercedes-Benzメルセデス・ベンツの直列6気筒エンジンは、直列4気筒エンジンとのモジュール設計となっており、さらにガソリンとディーゼルで共通のモジュールを使う。こうした設計は、BMWと共に現代の直列6気筒エンジンのお手本となっている。 マツダ「CX-60」/「CX-80」 Mazdaダウンサイジングが叫ばれる時代に、マツダは敢えて大排気量の直列6気筒エンジンを開発した。そして、ラージサイズモデル用の後輪駆動(FR)プラットフォームも同時に開発し、CX-60とCX-80を作り上げた。 なぜ、V6ではなく直列6気筒だったのか。マツダでは特に燃焼効率に着目し、エンジンの長さ以外は直列がV型に勝ると判断したと言う。長さのデメリットも車体設計の最適化でカバーしたことで、V6に比べて軽量で低コストな直列6気筒になったと言う。 Mazda日本市場に投入されているのは、3.3リッター直列6気筒ディーゼルターボエンジン。北米向けにガソリンエンジンも用意された。日本車で唯一設計が新しい直列6気筒エンジンでもあり、デビュー時から注目を集めている。 ポルシェ「911」 Porscheポルシェ 911は単なるスポーツカーの枠を超え、アイコニックな存在となった。そして、911のリアエンドには、デビュー時から一環して水平対向6気筒エンジンが搭載されている。 世界で唯一、水平対向6気筒エンジンを搭載する現行モデルである「992型」では、3.0リッターと3.6リッターの水平対向6気筒ターボが搭載され、後者にはマイルドハイブリッドシステムが組み合わされている。 Porscheシリーズきってのスポーツモデル「GT3」は、自然吸気の4.0リッター水平対向6気筒を搭載。現代において、自然吸気の6気筒エンジンは貴重な存在となっており、高価だが価値のあるモデルと言えるだろう。 フェラーリ「296GTB」/「296GTS」 Ferrari296GTBと296GTSは、フェラーリブランドで初めてV型6気筒エンジンを搭載したロードカーだ。バンク角120度の3.0リッターV6エンジンに、ツインターボと電気モーターを組み合わせることで、システム合計830psものパワーを発生する。 Ferrari「フェラーリブランドで初めて」と書いたのは、1967年に「ディーノ」ブランドでV6エンジン搭載車「ディーノ 206/246」を発表しているから。創業者エンツォ・フェラーリの夭折した息子アルフレードが構想した2.0リッターV型6気筒エンジンが搭載された特別なモデルだった。 ちなみに、現在のF1のエンジンが直列4気筒ではなくV型6気筒になったのはフェラーリの提案だったとも言われている。フェラーリにとってV型6気筒エンジンは、自らに相応しい最も小さなエンジンなのかもしれない。 日産 GT-R NISSAN2007年にデビューした「日産 GT-R」は世界に衝撃を与えた。最高速300km/hオーバー、ニュルブルクリンク北コースのラップタイム8分以内。そんな超一流のスポーツカーが、たった777万円で発売されたのだ。 3.8リッターV型6気筒ツインターボエンジンをフロント、デュアルクラッチトランスミッションをリアに置くトランスアクスル方式を採用し、日産が得意とする4WDシステム「アテーサET-S」も搭載された。 NISSAN新車価格は、当時のポルシェ911 GT3と比べて半額以下。初期モデルは荒削りなところも指摘されたが、その走りは技術で未来を切り開いてきた日産に相応しいものとも言えた。 それから約18年間生産され2025年8月に生産を終了。世界的にも類を見ない名車といえるだろう。 アルファ ロメオ ジュリア/ステルヴィオ “クアドリフォリオ” Stellantisアルファ ロメオには、1979年から2005年まで長きにわたって生産された通称「ブッソV6」と呼ばれる名エンジンがあった。世界で最も美しい音を奏でるV型6気筒エンジンとも言われ、その音色はバイオリンに例えられるほどだった。 Stellantis時代は変わり、現在のアルファ ロメオにも特別な2.9リッターV型6気筒ツインターボエンジンが搭載されている。このエンジンはフェラーリ「SF90」「ローマ」などに搭載されるV型8気筒エンジンから2気筒減らしたものなのだ。 セダンのジュリアと、SUVのステルヴィオのハイパフォーマンスモデル「クアドリフォリオ」に搭載され、最高出力は500psをオーバー。ステルヴィオは4WDだが、ジュリアはFR。過激な走りが楽しめそうだ。 Edit / Ryutaro Hayashi(Esquire) 燃費のいいスポーツカーランキングTOP10 「燃費が悪い」は過去の話か? 常識を覆す低燃費モデルを紹介駆動方式の違いで車はどう変わる? 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