SUBARU(以下、スバル)が2026年4月24日、全日本ラリー選手権に参戦する新型マシン「スバル ボクサーラリースペックZ」を初公開した。驚いたことに、新型マシンは2ドアスポーツカー「BRZ」を四輪駆動に改造したものだった。ラリーは警察に許可を得て、主に公道を使って行うモータースポーツ競技で、全日本選手権は国内最高峰として、スバル車やトヨタ車が参戦している。なぜ、スバルはこのタイミングで魔改造したBRZの投入を決断したのか。スバルの記者会見に参加して関係者から詳しい話を聞いた。 まず、新型ラリーマシンのスペックから見ていこう。 ボディ寸法は全長4265mm×全幅1820mm×全高1300mm、ホイールベースが2575mm。 エンジンは排気量2.4Lの水平対向4気筒エンジン「FA24-D4S」にターボチャージャーを装着している。最高出力は280PS以上、最大トルクは500Nm以上で、トランスミッションは6速シーケンシャル式を採用した。参戦ドライバーとスポーツ車両企画室の関係者ら(写真:筆者撮影) ブレーキは前後ともにENDLESS製の4ポットキャリパーを採用。WORK製アルミホイールに横浜ゴム・ADVAN製18インチタイヤを履く。 こうした車両改造については、JAF(日本自動車連盟)による全日本ラリー選手権車両規定の「JP4」に沿って行われている。新型ラリーマシンが搭載する2.4Lターボエンジン(写真:筆者撮影) JP4では、道路運送車両法を踏まえた車両の安全を確保した上で、競技のために臨時運行許可番号標を取得して公道での走行が可能となる。 JP4車両規定では、パワートレインではターボチャージャーによる過給や四輪駆動方式も可能だ。 ではなぜ、スバルは本来FR(後輪駆動車)であるBRZを四輪駆動に改造する必要があったのか。 最大の理由は、ライバルであるトヨタ「GR ヤリス ラリー2」に対抗するためである。 スバルはこれまで、全日本選手権には「WRX S4」をベースとしたラリーマシンで参戦してきた。 近年のラリー車としてはボディサイズが比較的大きく、加速と減速が少ないコースで、ラリー中の平均速度が高い場面では、トヨタを含めたライバルと互角に戦えていた。 だが、道幅が狭くタイトなコーナーが続くようなシチュエーションでは、小柄なライバルたちが優位であった。 スバルとしては2024年から3年間、「WRX S4」で全日本ラリー選手権を戦い、すでに2026年シーズンが第2戦まで終了しているが、社内の組織変更を踏まえて、あえてこのタイミングで新型マシン導入に至った。 勝負に勝つためには、量産車の商品ラインナップの中でもBRZが最適なベース車であると考え、四輪駆動化の決断を下したというわけだ。BRZ「魔改造」の実態は? スバル関係者は、今回のBRZの四輪駆動化を「魔改造」と称している。 具体的には、車体、エンジン、トランスミッション・駆動系、サスペンションで大幅に手を加えていることが分かった。四輪駆動への魔改造を示す、スバルの資料(写真:筆者撮影) まずは、クルマ全体の軽量化だ。量産車ベースではWRX S4と比べて小柄で軽量なBRZだが、その上で車体骨格から外装部品にいたるまで徹底した軽量化を施した。 また、クルマの基本的な運動性能に大きく影響する前後の重量配分と、旋回時に車体を回転させやすくするために、エンジンを含めた重量の重い部品を、クルマの重心近くに再配置している。 実際、エンジンフード(ボンネット)を開けてみると、エンジンの位置が進行方向に対してかなり後退して配置されているのが分かる。 注目の四輪駆動機能については、ラリー競技での走行環境を考慮して直結式を採用した。前後輪を駆動するデファレンシャルギアをエンジンの下部に配置している。 また、ラリーではヘアピンなど進入速度が比較的低い状態で旋回する際、サイドブレーキを使うため、サイドブレーキを操作する際は、後輪への駆動をカットする仕組みも取り入れた。 そのほか、サスペンションは主要部品にこれまでの知見を活かして、WRX S4のシステムを踏襲している。具体的にはフロントサスペンションアームを延長し、ジオメトリの最適化を行った。 量産車をベースとして戦うラリーにおいて、車両規定で改造できる領域はある程度広い。とはいえ、FR(後輪駆動車)の量産車として開発され、かつ多くのスバルファンにとって「BRZ=FR」というイメージが定着している。そうした中、勝負に勝つためとはいえ、スバルがBRZを四輪駆動へと魔改造したことに、自動車メーカー各社の関係者からも驚きの声が上がっている。スバル、魔改造の狙いとは? 魔改造の背景にあるのが、スバルがジャパンモビリティショー2025(10月30日〜11月9日:東京ビッグサイト)で示した「ブランドで際立つ」という戦略だ。ジャパンモビリティショー2025のスバルブースの様子(写真:筆者撮影) 主軸である「安心と愉しさ」を実現するために、その両端にある「パフォーマンス」と「アドベンチャー」に注力することで、スバルブランドを際立たせるという考え方だ。 アドベンチャーについては、スバルの主力市場であるアメリカで誕生したSUVにおけるブランド「ウィルダネス」を、日本を含む世界市場で展開する。 一方、パフォーマンスについては、モータースポーツ参戦の意義を「技術を鍛える場」であると再確認した上で、量産車開発との連携を強化する。スバルの新ブランド戦略に関するプレゼン資料(2025年10月当時のもの、写真:筆者撮影) そうなると、今回の四輪駆動のBRZも、量産化を前提として魔改造したのかと思う人もいるだろう。 この点について、スポーツ車両企画室の大村雅史室長は、「量産化の計画はない」と断言した。 ただし、今年度から新設されたスポーツ車両企画室は、商品革新本部に属しており、パフォーマンス関連の量産化や関連用品などを一体で企画推進する役割がある。 そう考えると、今回のBRZの四輪駆動化という魔改造は、スバルのパフォーマンス領域を再定義するためのシンボルだと言えるのではないだろうか。 今後も、スバルのパフォーマンス関連の量産車の登場を大いに期待したい。関連記事ホンハイはEV市場のゲームチェンジャーか…台湾で広がるEVバス「モデルT」に見る変化の兆しとは“パジェロ祭り”が体現する三菱自動車の野心、注目の「新型クロスカントリーSUV」がいよいよ年内登場か【試乗レポート】スバル「クロストレック・ウィルダネスエディション」、即完売の限定SUVで房総半島を走破した