1955年登場の初代から脈々と続くクラウンの歴史に、16代目が大きな転機をもたらした。クラウン史上初の4モデル構成という大胆な展開は、なぜ生まれたのか。そして、その1台「クラウンエステート」はどんな役割を担うのか。再定義されたクラウンの現在地を検証する。(Motor Magazine 2025年6月号より。文:大谷達也/写真:永元秀和)なぜクラウンは生まれ変わらなければならなかったのか。歴代モデルとの連続性を断ち切るほど斬新なスタイリングを纏い、16代目クラウンが誕生した。加えて、デザインテイストが大きく異なる4つのボディタイプを同時に展開するという戦略も、前例のない挑戦である。なぜ、クラウンはこれほどまで大きく変わらなければならなかったのか。ひとつのグラフが、その理由を物語っている。今回の試乗を前に見せてもらった、初代クラウンが誕生した1955年から2022年までの販売台数を示したグラフを見ると、バブル絶頂期の1990年に年間20万台を超すピークに達してからは下降線に転じ、2009年以降は年間5万台に届かない年が大多数を占めた。「クラウンはこのままで大丈夫か?」トヨタの開発担当者ならずとも、そんな不安を抱かせるのに十分なインパクトを、このグラフは有している。クラウン セダン Z(FCEV)クラウン エステートRS(PHEV)クラウン クロスオーバー RSクラウン スポーツ Zさらに衝撃的だったのがユーザーの平均年齢で、1980年代には46歳だったが、バブル直後には50歳に到達。2000年代には55歳となり、その後も60歳、62歳と高齢化が進んだ。これもクラウンの将来に不安を抱かせるもので、何らかの改革が必要であることは誰の目にも明らかだった。自動車市場の変遷を俯瞰すれば、クラウンが次に目指すべき方向は明快だった。2000年に国内で90万台近い規模を誇っていたセダン需要は、2020年代に入ると30万台を切るレベルまで減少。代わって台頭してきたのがSUVで、2025年には50万台を越えてトップを走るミニバンを追い越しそうな勢いを見せている。クラウンの原点に宿る「革新と挑戦」の精神一方で、一時は15代目のマイナーチェンジを計画していた開発陣に対し、豊田章男会長は「これでクラウンは売れるのか?」と疑問を呈したという。これで開発陣の腹は決まった。「好セールスを目指すならSUVかクロスオーバー」。この意向を受けたデザインチームは「クロスオーバー」をキーワードとしてまったく新しいクラウンを創出。これが16代目のクラウン クロスオーバーとして世に送り出されることになるのだが、その開発中に豊田会長は「セダンも考えてみないか?」と再びアドバイス。これはクラウンが伝統的に築いてきたセダン需要に応えることを意識した意見だが、これがきっかけとなって多彩なボディタイプを設定する案が浮上。結果として、クロスオーバー、スポーツ(SUV)、セダン、そしてエステートの4モデル構成という、過去に例を見ない新型クラウンが誕生することになった。エステートのグレード構成はHEVのZとPHEVのRSの2種類。外観上の違いはPHEVまたはHEVのシンボルマークがリアゲートに用意されることとホイールのデザインで、RSはエアロホイールカバーが装着される。新たな道を歩み出そうとする開発陣の背中を後押ししたのは、歴代クラウンが培ってきた「革新と挑戦のスピリット」だったという。初代クラウンは「純国産セダンを作り出す」という高い志を持って企画され、当時としては革新的な乗用車専用シャシを開発。フロントサスペンションにダブルウイッシュボーン式を採用したり、ボディの低床化に役立つハイポイドギアをディファレンシャルギアに投入するなど、既成概念に捕らわれないクルマづくりが実践された。そんな『革新』を追い求める姿勢が16代目クラウンで復活したことで、現代的なデザインや4モデル構成という斬新なアイデアが採用されることになったのだ。クラウンの4モデル構成は、ふたつの点で重要な効果をもたらした。ひとつは「クラウンが新世代に生まれ変わった」ことを高らかに宣言したこと。クラウンエステート Zではブラックまたはサドルタンの内装色を選ぶことができる。もうひとつは、4モデル化によって各ボディタイプの個性を明確にできたことにある。おそらく、従来の手法であれば、ボディパネルなどを共用することでモデルごとの個性が薄まり、4モデル化の効果を最大限発揮できなかったことだろう。さらに、ボディタイプごとにパワートレーンや足まわりの方向性をきめ細やかに設定することで、モデルごとのキャラクターを際立たせることに成功。これらが、現在のクラウン人気に結びついたといっても過言ではなさそうだ。4モデルで際立たせた、個性とポジショニング戦略今回はクラウン エステートの誕生を機に、合計4モデルの16代目クラウンを勢揃いさせることで、それぞれのキャラクターを再確認する試乗会が催されたので、エステートの公道での印象を軸としながら、各モデルの位置づけを改めて振り返ることにしたい。新登場のエステートが「SUVを強く意識したステーションワゴン」であることは、そのプロトタイプ試乗会でご紹介したとおり。全高をワゴンとしては高めの1625mmに設定したり、ブラックのホイールアーチカバーを取り付けたことなどに開発陣の意図は表れている。エアロカバーが装着されたRSのホイール。フロントの対向6ピストンキャリパー(赤)も専用品となる。一方でリアオーバーハングをスポーツよりも延長してスペースユーティリティを確保したり、デッキテーブルやデッキチェアを用意したのは、ワゴンとしての使い勝手を追求した結果だったと説明できる。走りの味つけもワゴンとしての使い勝手を考慮し、快適性や直進性を重視したというが、今回の公道試乗会ではその点がはっきりと確認できた。乗り心地は同じく快適性重視のクロスオーバーに近いものの、エステートのほうがさらにドッシリとした印象が強い。操舵力自体は軽めの設定だが、ハンドリングとしては直進性が勝っていて、たとえばスポーツに比べると操舵初期の反応は鈍いと感じるかもしれない。それでも、セオリーどおり荷重移動を行ってハンドルを切り込めば、思いどおりの軌跡を描いてコーナリングしてくれるはず。このあたりの直進性とコーナリング性能のバランスの取り方はなかなか見事だ。クラウン エステートRS(PHEV)。もうひとつ、エステートで特徴的なのは「リアコンフォートモード」が設定されたこと。これは足まわりだけでなく4WSの制御にも手を加えてリアシートの快適性を向上させるものだが、後席に腰掛けると、コーナリング時のヨーの立ち上がりが穏やかになって頭があまり揺さぶられなくなるのがわかる。クルマ酔い防止に効果がありそうだ。パワートレーンはハイブリッドとプラグインハイブリッド(PHEV)の2種。動力性能としてはハイブリッドでも十分だが、緩い上り坂ではPHEVのほうが余裕があり、エンジン回転数一定のまま上ってくれるのでストレスを感じずに済む。静粛性の高いEV走行が楽しめる点を含め、そのメリットは少なくない。スポーツ・セダン・クロスオーバーとの比較で見える全体像これに比べるとスポーツはコーナリング志向が強いけれど、かといって快適性がダメなわけでもなく、こちらもトータルバランスは良好。クロスオーバーの足まわりは両者の中間よりもややエステート寄りといった印象だが、特徴的な点はシリーズ中、唯一マルチステージハイブリッドをラインナップしている点にある。これはヨーロッパ車に多いパラレルハイブリッド方式により強烈な加速を実現したもの。ただし、これに伴って足まわりが硬くなり、快適性が損なわれている点は残念だった。残るセダンはもっとも快適性重視だが、クーペ風のスタイリングのため、後席のヘッドスペースやラゲッジルームが犠牲になっているのは不可解。そもそも同じプラットフォームを用いるFCEVのミライがクーペ風セダンとして別に設定されているので、クラウンセダンはセダンとしての王道を目指す選択肢もあったはずだ。いずれにせよ、クラウン4モデルのそれぞれに専用デザインを与えただけでなく、足まわりやパワートレーンでも各モデルの個性を際立たせようとしたことは、トヨタの強い意気込みが感じられる部分。期待どおり顧客の若返りを図るとともに、シリーズ全体のセールスも好調と聞く。開発陣の挑戦を恐れない姿勢は、クラウンを新たなステージに引き上げたといえるだろう。荷室長2000×幅1430mm(ともに最大時)は大人2人が余裕で横になることもできる荷室空間。RSに標準装備されるデッキチェアとデッキテーブルはアウトドアはもちろん、荷室を使った休息や車中泊でも活用できそうだ。トヨタ クラウン エステート RS 主要諸元●全長×全幅×全高:4930×1880×1625mm●ホイールベース:2850mm●車両重量:2080kg●エンジン:直4DOHC+モーター●総排気量:2487cc●最高出力:130kW(177ps)/6000rpm●最大トルク:219Nm/3600rpm●トランスミッション:電気式無段変速機●駆動方式:4WD●燃料・タンク容量:レギュラー・55L●WLTCモード燃費:20.0km/L●タイヤサイズ:235/45R21