08/09/2025 · 7 日前

【試乗レポート】トヨタ「クラウン・エステートPHEV」を250km運転して感じた「実にクラウンらしい」乗り心地

トヨタのクラウン・エステートPHEVで250kmを運転した。写真は、旅の途中に立ち寄った、アメリカンな雰囲気の飲食店の前にて(写真:筆者撮影)

そうだ、「クラウン・エステート」にじっくり乗ってみようと思った。これまで、2022年発売の最新クラウン関連の取材をしてきたのだが、3月に発売されたエステートを公道で試乗していなかったからだ。都心から千葉県の外房を目指す250kmの旅に出かけてみると、試乗前に想定していなかった気づきがあった。

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

クラウンは“オワコン”なのか

 今回、試乗したクラウンのグレードは「エステート RS」で、ボディ寸法は全長4930mm×全幅1880mm×全高1625mm、ホイールベースが2880mm。搭載するパワーユニットは2.5リッターエンジンのプラグインハイブリッドで駆動方式は4WD(四輪駆動)だ。 

 試乗の感想を紹介する前に、まずは新型クラウン登場の背景を振り返っておきたい。

 クラウンといえば、高度経済成長期から日本の高級車市場を牽引してきたトヨタブランドの最上級モデルである。だが、アメリカ生まれのレクサスが2005年に日本上陸を果たし、また企業のトップや国会議員、そして地方自治体の長などが乗る、いわゆる“黒塗り”や高級ハイヤーでは「アルファード」や「ヴェルファイア」が重宝されるといった時代の変化を受けて、市場からはクラウンの商品性が問われるようになった。

 なかには「クラウンは“オワコン”(終わったコンテンツ)」と批評する人もいたほどだ。

 そうした中、豊田章男会長(当時は社長)は「クラウン存続の意義をゼロベースで考えるべき」といった指示を、当時の次期型クラウン商品企画の担当者に出した。

クラウンが4WDへと進化したことの衝撃

 当初、第16代目クラウンは第15代目をベースとしたマイナーチェンジの方向が検討されていたため、商品企画や開発本部にとって豊田会長の指示は大きな衝撃だったと、トヨタ幹部は振り返る。

 結果的に、第16代目クラウンはクラウンの常識を打ち破る4WDへと進化を遂げた。

 トヨタが都内で2022年7月15日に実施した、新型クラウンワールド・プレミアを現地取材したが、新型クラウンが4WDになったことは、まさにサプライズであった。

 一部報道で「クラウンはSUVになる」と報じられたが、まさか4WDへ進化するとは、クラウンのオーナーとしての経験もある筆者も心底驚いた。しかも、これまでほぼ国内市場向けだったクラウンが北米市場などグローバルモデルとなることも分かった。

モデルごとに商品性の異なるクラウンブランド

 発表当時、壇上に並んだのは、「セダン」「クロスオーバー」「スポーツ」「エステート」で、トヨタはこれを「クラウン群」と呼ぶ。

クラウン群の各車種。手前から「クロスオーバー」「スポーツ」「セダン」「エステート」。2023年12月、横浜でのメディア向け試乗会にて(写真:筆者撮影)

 正直なところ、筆者も含めて「そうは言われても、なんだかピンと来ない……」という感想を持ったメディア関係者や長年のクラウンオーナーは、少なくなかっただろう。

 その後、トヨタは段階的に新型クラウン関連イベントを実施し、「セダン」「クロスオーバー」「スポーツ」「エステート」というそれぞれの位置付けと魅力をユーザー、販売店、メディアに対して丁寧に説明を繰り返した。

 これらのうち、最初に市場導入されたのがクロスオーバーだ。筆者は2023年11月後半に、クラウン・クロスオーバーで都内から愛知県豊田市や岐阜県内などを巡る旅で1200kmを走破し、同車の商品性を深く理解できた(「トヨタ「クラウン クロスオーバー RS Advanced」で1200km走破、乗り心地検証」)。

 次いで、同年12月に横浜市内で実施された、FCEV(燃料電池車)を含むセダン、スポーツ、そしてクロスオーバーの比較試乗会にも参加したが、エステートについては車両展示のみで試乗の機会は用意されていなかった。

 その時感じたのは、クラウン群というくくりはあれど、各モデルが目指す商品性ははっきり違うという点だった。なお、セダンは後輪駆動車(FR)で、その他は前輪駆動車(FF)をベースとする。その上で、クロスオーバーとスポーツの基本的な運動特性は違うと感じた。

 その後、横浜と福岡を皮切りに展開を開始した、クラウン専売店「The CROWN」にも取材するなど(「レクサスとカニバらない?トヨタ「クラウン」の専門店「THE CROWN」、4店舗目開業で改めて問う素朴な疑問」)、クラウン群のチーフエンジニアである清水竜太郎氏とも様々な機会で意見交換してきたというのが、筆者と新型クラウンとのこれまでの接点である。

 ただし、エステートについては3月発売後に試乗する機会をたまたま逃しており、今回が初試乗となったというわけだ。

SUVっぽさが強いクラウン・エステート

 では、クラウン・エステートに乗った感想を述べたい。大きく3つの気づきがあった。

 1点目は、「SUVっぽさが強い」ということ。本来、エステートというクルマのカテゴリーは、ステーションワゴンやツーリングワゴンといった「ワゴン系」に属するため、運転席から見える風景はセダンやクーペに近いものである。

 それがクラウン・エステートの場合、外観はステーションワゴンのような印象だが、実は車高はクラウンの4WDのうち、最も高い1625mm。スポーツ(Zグレード)よりも60mm高い。そのため、車内に着座した時の視点は高く、走り出すとSUVのような印象が強いのだ。

エステートと名乗るが、よくよく見るとSUVに近いボディ全体の雰囲気がある(写真:筆者撮影)

“雲のじゅうたん”のような独特の乗り心地

 2点目は、「フワッとした独特の乗り心地」だ。けっしてフワフワしているとか、柔らか過ぎるのではなく、クルマ全体にしっかりとした張りがあった上で、スイスイと走る。

 これに加えて、路面からの振動やエンジンからの音や振動も少なく、車内空間がスッキリとしている。あえて例えるなら、“雲のじゅうたん”である。

インテリアは落ち着いた大人の雰囲気。前方の視認性が良く、クルマの大きさがあまり気にならない(写真:筆者撮影)

 クラウンの4WDの中では最もSUVらしい外観を持つクラウン・スポーツの場合、路面からの振動をあえてドライバーに伝えて、クルマを操るたのしさを優先している。だがエステートは乗り心地に対しては、このクラウン・スポーツとはまったく違うアプローチだと感じる。

 3点目は、「キレがある独特のスポーティな走り」である。直進のハンドリングは穏やかで、パワーステアリングのセッティングも軽めなのだが、ハンドルをさらに切り込むと一気にスポーティな走りを見せるのが特徴だ。

 車両重量は2080kgもあっても、クルマ全体の重ったるさはなく、あえて言うならクルマ全体が“軽い”と錯覚するほど軽快に走る。

 これはDRS(ダイナミック・リア・ステアリング)という技術の効果だ。車速に応じて、後輪の向きを前輪と逆向きまたは同じ向きに制御することで、平たく言えば、小回りが効く。商業施設やコンビニの駐車場でもスイスイ曲がり、また市街地での交差点でクルマの大きさをあまり感じないように曲がり、高速道路の車線変更やワインディング道路では爽快な走りをみせた。

 さらに、コーナリング時の安定感をもたらすカーナビ連動のサスペンション制御システムである「NAVI・AI-AVS」、エンジン・ブレーキ・ステアリングを統合制御する「VDIM(ビークル・ダイナミック・インテグレーテッド・マネージメント)」など、各種の電子制御機能が融合している。

機敏に走るが、同時に静粛性も高い

 そうした走りの中で常に、静粛性がとても高いのが印象的である。しかも、EVモードでも、ハイブリッドの状態でも、アクセルに対するクルマの反応が機敏で“かなり速いクルマ”に感じる。

 FF(前輪駆動)対応のプラットフォーム(車体)を共有するクロスオーバーとスポーツとは、走行性能に関わる技術は共有する部分が多いのだが、エステートの走りは独自性がとても強い。

 ただし、ハイブリッド車の「Zグレード」は車重と重量配分や運動性能に関する装備などが違うため、あくまでもPHEVである「RSグレード」に対する感想である。

2.5リッターハイブリッドシステムを使うPHEV(写真:筆者撮影)

充電機能は、普通充電または急速充電に対応(写真:筆者撮影)

クラウンらしい走りを体験できたドライブ旅

 今回の旅は、皇居などを見ながら銀座を通り、首都高湾岸線から館山自動車道などを抜けて千葉県の外房などを巡る3日間の行程だ。

 都心でクラウン・エステートを見ると、日本車としてはかなり大きなクルマに感じるが、前述のように走り出すと実に走りやすく、クルマの大きさをネガティブには感じない。ただし、駐車スペースなどでは気をつかうのは致し方ない。

 外房では太平洋を望みながら、のんびりとしたひとときを過ごす。今回はキャンプグッズなどを持ち合わせていなかったが、これだけ広い荷室スペースがあればゴルフやサーフィンなどレジャーの楽しみの幅が広がるだろう。

荷室長は、約2メートル。サーフボードが似合いそう(写真:筆者撮影)

 外房から都心への帰路は、トヨタの予防安全機能パッケージ「トヨタセーフティセンス」を作動させた。首都高速箱崎インターチェンジ付近の渋滞時には、トヨタの高度運転支援技術であるトヨタチームメイトの「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」を使い、ゆったりとした気分の中、運転を続けることができた。こうした旅を総括しながらふと出た言葉は「実にクラウンらしい」というものだった。

太平洋を見ながら、しばしの休息(写真:筆者撮影)

 レクサスでもなく、ドイツ系高級ブランドでもなく、SUVでもない。クラウン・エステートは、クラウン群の中でも「長い歴史に裏打ちされたクラウンらしさ」をひときわ感じる、独自の世界観を楽しめるクルマだ。

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