初代誕生から40周年を迎えたGSX-Rシリーズ。そのトップモデルであるGSX-R1000/Rが、2026年モデルでどのように進化したのか。エンジンの改良点と、吸排気系、および各部品について、詳細に解説する。まとめ:岡本 渉/協力:バイカーズステーション、佐藤康郎、H&L PLANNING※本記事は2025年11月27日に発売されたムック本『GSX-R』の内容を一部編集して掲載しています。※車両ほか使用写真はとくにことわりのない限りGSX-R1000Rのものです。また、ウイングレットがついた車両はオプション装着車です。SUZUKI GSX-R1000R 40周年記念車 欧州仕様・2026年モデル総排気量:999.8cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒 シート高:825mm 車両重量:203kg【詳細解説】スズキ「GSX-R1000R」40周年記念車 - webオートバイエンジンの概要画像1: エンジンの概要主要パーツの多くを改良し高性能と環境性を両立した新しいGSX-R1000/R M7のエンジンは、2017年に一新されたL7~の基本を引き継ぎながら、パフォーマンスを犠牲にせずに最新の排出ガス規制や騒音規制をクリアさせ、かつ信頼性や過渡特性を向上することを目指して作り込まれた。上はその単体外観で、一見L7~同様に見える。だが下の透視図、黄色で指示したパーツ=内部の大物パーツは徹底改良され、L7~と様相を変えた。画像2: エンジンの概要まず出力の中核となるピストンはトップ形状以外にもリング周部や裏面形状など細部まで見直して3g(これはムービングパーツとして大きめの数字だ)軽量化し振動低減、強度向上を図る。コンロッドは強度向上、クランクはジャーナル(軸)径を2mm拡大して耐負荷性を強め、これに合わせて支持側のクランクケースも変更(だから薄黄色)。吸気側カムスプロケットに内蔵された複数のスチールボールを遠心力で制御し回転数でバルブタイミングを可変させるSR-VVT(スズキ・レーシングバリアブルバルブタイミング)を持つカムシャフトは、吸気、排気側ともリフト量をそのままにオーバーラップを減らすようにカム山の形状を変える。また慣性重量を抑え正確性を狙うスズキレーシングフィンガーフォロワーロッカーアームバルブトレインのロッカーアームは変更したカムに合う形状とし、排気バルブは大径化。カムチェーンは幅を広げて耐久性を高め、シリンダーヘッドも吸排気ポートをより効率化し、冷却水路も効率化し冷却水量が少なくできるなどの進化が練り込まれた。画像3: エンジンの概要圧縮比を高めてフリクションロスを減らすとともに細部に至るまで見直しを徹底2026年型GSX-R1000/Rの水冷DOHC4バルブ直列4気筒エンジンは、排出ガスや騒音の規制をクリアしながらパフォーマンスを維持するだけではなかった。Φ76.0×55.1mmのボア×ストロークはそのままに、圧縮比を13.2から13.8:1に上昇させ、多くのパーツを変更する。ならばこれに合わせて細部のパーツも見直して、持ち味の耐久性≒信頼性もさらに高め、より多くのライダーをフォローしようとしたのだ。大きいものはピストンに吸排気カム、排気バルブにコンロッド、クランクシャフト、そしてカムチェーンとカムスプロケットにカムチェーンガイドが新作。同時にシリンダーヘッドは吸排気ポートを混合気&排気の流れをより効率化するように変更、冷却水路も見直して冷却水の流れをスムーズ化するようにし、熱効率を高める。上下クランクケースはクランク軸拡大に合わせて変更された。細かいところではピストンリングにピストンピンサークリップも挙がる。こうした全面見直しによって、そのポテンシャルは今後長く楽しめるようになっている。エンジンの内部パーツを解説▶カムシャフト&カムスプロケット画像1: ▶カムシャフト&カムスプロケットカムシャフトはカムリフト量をそのままにサークル形状を変えてバルブオーバーラップを減らし排出ガス浄化性を向上。またカム潤滑系も変更し潤滑性を高めた。このカムはL7以来、吸気側に可変バルブタイミングSR-VVTを持つ。画像2: ▶カムシャフト&カムスプロケットこのSR-VVTはカムスプロケットに12の螺旋溝、ガイドに放射状配置溝を設け、12個のスチールボールを置く。エンジン回転が上がると遠心力でボールが外に行き(下の図版、左から右)、ふたつの溝の位相分だけカムが動きタイミングを遅らせる。回転が落ちると右のスプリングの力でボールが内側に戻る仕組み。その切り替えフィーリングはごく自然だ。画像1: 見た目は似てるけど中身は別物!復活を遂げたスズキ「GSX-R1000/R」(2026年)のエンジンを徹底解剖画像2: 見た目は似てるけど中身は別物!復活を遂げたスズキ「GSX-R1000/R」(2026年)のエンジンを徹底解剖なお、耐久レースなどの厳しい環境下での使用を想定し、カムチェーンの幅が広くされてフリクションロスを減らしつつ耐久性も高めた。カムスプロケットもこれに合わせて歯の幅を広げるなど変わった。▶フィンガーフォロワーロッカーアーム画像: ▶フィンガーフォロワーロッカーアーム軽量で動弁系の慣性重量を軽減するフィンガーフォロワーロッカーアームは新しいカムプロファイルに合わせて形状を最適化(写真はL7のもの。慣性重量が1個あたり3gと軽量)し、表面をDLC(ダイヤモンドライクカーボン)処理して摺動抵抗を減らし耐久性を高めた。排気バルブはΦ24→25mmに大径化しスムーズな吸排気フローを促進した。▶アルミ鍛造ピストン画像: ▶アルミ鍛造ピストンアルミ鍛造ピストンはΦ76mmでショート&カッタウェイ(切り上がり形状)のスカートを持つ。143.5kW(195PS)/13200rpmの出力の源となるこのピストンは、排気バルブ径の拡大と13.2:1から13.8:1への圧縮比増に合わせてトップ形状を変更。従来型画像3: 見た目は似てるけど中身は別物!復活を遂げたスズキ「GSX-R1000/R」(2026年)のエンジンを徹底解剖新型画像4: 見た目は似てるけど中身は別物!復活を遂げたスズキ「GSX-R1000/R」(2026年)のエンジンを徹底解剖ピストンの裏面(上左が新型、右が従来型のもの。形状を比べてほしい)も肉抜きやリブ形状を変更(新型M7の方がトップ裏面リブの配置角度が緩いなどの違いがある)し、ピストンピン支持部の下もカット形状として3gの軽量化を果たしている。そのピストンピンはDLCコーティングされ、ピストンピンサークリップも素材を変更して耐久性を高めている。こうした細部にまで高信頼化のための手が入ることからも、実質フルチェンジということがはっきりと分かってくる。なお、ピストンリングはトップ側が燃焼圧やシリンダー側圧に耐えるL字形状、オイルリングは窒化クロームコートでフリクションを減らし密閉性も高めている。▶コネクティングロッド画像: ▶コネクティングロッドクロモリスチール製コンロッドは強度を持たせるための浸炭処理がされている。▶クランクシャフト画像: ▶クランクシャフトクランクシャフトはより高負荷に耐えるように、ジャーナル(軸)径を従来のΦ35からΦ37mmに拡大した。これを支持するクランクケースの軸受け部もこれに合わせて拡大された。ケースのシリンダー下部間をカットし、ピストン降下時の内圧を素早く逃がして他気筒のピストン上昇時の抵抗を減らすベンチレーションホールは継続。※そのほか、シリンダーヘッドの冷却水路を最適化し冷却水の滞留を抑えることで放熱を促進し冷却水量を減らし、軽量化にも配慮。デュアルファンを持つラウンドラジエーターもコンパクト化するなど補機類も改良。SCEM(スズキ コンポジット エレクトロケミカル マテリアル)メッキシリンダーや6速ミッション等の装備は継続する。エンジンの吸排気系を解説画像1: エンジンの吸排気系を解説パッケージとしてより安定した高性能を提供するための吸排気系への配慮エンジン性能を生かすように、吸排気系も変更を受けた。4-2-1レイアウトのマフラーは#1-2、#3-4のエキゾーストパイプ同士を連接し、さらにその下の湾曲部で#2-3をつないで排気脈動を活用し中低回転域のトルクを補填する構成を継承。集合部はエンジン前下付近まで前進し、その直後、オイルパン横を走るように“レーストラックシェイプ”と呼ばれるような楕円断面で成形された大容量の触媒コンバーター部がストレートに連結される。必要な2個のO2センサをその前後に配したこの触媒部は従来よりエンジンに近づき、触媒が作動好適温度に達する時間を早め、これによってEURO5+排出ガス規制をクリアしつつ、従来型並みのパフォーマンスを維持することに貢献できた。また、副次的な効能としてマフラーボディ(サイレンサー)のコンパクト&スリム化を図ることが出来、容量は8.3から5.5Lに減らせた。この排気系はチタン製で、触媒部後ろのパイプ部からのパイプは2本に分かれた上でその片側には排気デバイス(可変バルブ)が設けられる。排気の出口は2個となる。なおエンジンについて補足すればクラッチカバー(左)、マグネトーカバー(右)が従来型の黒からグレーに色を変えている。画像7: 見た目は似てるけど中身は別物!復活を遂げたスズキ「GSX-R1000/R」(2026年)のエンジンを徹底解剖画像8: 見た目は似てるけど中身は別物!復活を遂げたスズキ「GSX-R1000/R」(2026年)のエンジンを徹底解剖吸気に関しては、電子制御スロットルのボディが軽量コンパクト化しながらボアがΦ46mmからΦ48mmに大径化された。スロットルバルブは1枚で、スロットルボディ側(プライマリー)インジェクターのホール数を10→8に変え、燃料の霧化特性を高めた。画像2: エンジンの吸排気系を解説その上流側が、エアクリーナーボックス(下の写真に見える燃料タンク部の前半内)。トップ裏にはS-TFI(スズキ・トップフィードインジェクター)が配される。これはエンジン高回転時にそれぞれの気筒のファンネルに10ホールインジェクターから高回転時の燃焼に最適化したパターンで追加燃料を噴射し、高回転時のレスポンスと出力を高めるものだ。画像3: エンジンの吸排気系を解説ファンネルは1/4番気筒がショート、中央の2/3番気筒がロングの組み合わせ(従来は等長で#1/#4がショート/ロング併用型)に変わり、燃料ポンプも新たに燃圧を高めたものに変わっている。画像4: エンジンの吸排気系を解説クラッチは、ふたつのカム構造ピースによって、加速時にはこれらが深く噛み合ってクラッチプレートとプレッシャープレートを密着させ(上の写真の右が回転方向)出力を有効に使う。急な減速時などには噛み合いが軽くなり両プレートを滑らせることで下ののようにクランクへの逆入力を抑えるSCAS(スズキクラッチアシストシステム)は継続され、ライダーの負担を軽減してくれる。画像5: エンジンの吸排気系を解説こうして、動力系はエンジンだけでなく吸排気や補機類ともパッケージとしてより安定した高性能を提供するようにしているのだ。